ドラマで勉強「虎に翼」第16週
少し間が空きました。
第16週は新潟地家裁三条支部長として赴任した寅子の様子が描かれました。
ポイントは
・地元弁護士杉田太郎の「持ちつ持たれつ」主義との戦い。
・優未の溝をどう修正していくのか。
母の出身が新潟・六日町なので、新潟弁を懐かしく聞いていました。
今の所、杉田太郎弁護士は「田舎の悪しき風習」の擬人化として描かれています。
田舎と一括りにしてはいけませんが、住人の密着率が高ければ高いほど「なぁなぁ」で収めてしまいがちです。
田植え・稲刈りの時期は近所総出で「今日は誰々さんちの田んぼ」みたいに力を合わせて生きている部分もある。
だから「波風を立てる」ということは、村八分という言葉があるように、本当に生きていけない場合もあるのです。
これは田舎で感じたことですが。
本当に人の噂は早いし、家はいつもオープンです。
郵便配達の人が縁側でお茶飲んでお喋りしている風景もよく見ました。多分そこで「誰々さんちの娘が帰ってきているすけ、あんにゃの嫁さんも大変だろうに」みたいな話をする訳ですよ。
「新潟は悪い場所」の風評被害を心配しています(ないだろうけど)
ここ暫く「虎に翼」にテンション低めなのは、法律・正しさに関わる話が少ないからかな。
だから第80話で高瀬を処分する理由を、論理的に伝えたシーンは「これこれ!」と思ったし、痺れるセリフでした。
この仕事をしている以上、どんなにひどいことを言われても手を出してはダメ。ひどい相手と同じ次元に落ちて仕返しをしてはダメ。
だからしかるべき処分を受けるべきだと思った。穏便に済ませたりしてああいう人たちに借りなんて作って欲しくないから。
あなたを確実に傷づけて心に出来た瘡蓋を、ことあるごとに悪気なく剥がしていくような人たち。彼らにずっとへいこらして欲しくない。自分の意思で物事を受け流すことと、受け流さざるを得ないのは違うから。
私が居なくなった後も、この件にあなたが縛られないように、したいように出来るように、怒りたい時に怒ることが出来るように。そう思って処分しました。
「私が居なくなった後も」なんて素晴らしい上司っぷり。
この週のもう一つのテーマは「心の傷・喪失感」ですね。
書記官の高瀬が暴力事件を起こす。
相手は地元の有力者だけど理由は言いたくない。
星航一(まさにスターのようなお顔の岡田将生)から「思い出に出来るほど(兄の死を)受け入れられていないのでしょう」「死を知るのと、受け入れるのは違う。事実に蓋をしなければ生きられない人もいます」と解釈します。
高瀬はお兄ちゃんの戦死を受け入れられていない。
だから人にお兄ちゃんのことを言いたくないし、ましてや他人にお兄ちゃんとのことを言われたくない。高瀬自身のことなのにお兄ちゃんをダシにして話をしないで欲しい。
寅子は「自分に言われているようだった」と自分事として航一の言葉を聞いた。
優三さんのことを優未に話せない。
その理由に気づくことが出来ました。
まだ受け入れられていなかったという脚本だったのか。
なるほど。
以前、航一と寅子が一緒に作業をしている時、航一の父である長官が差し入れを持ってやってきました。
そこで長官自身の妻が病気で無くなり、現在は再婚をしていること。航一も妻を病気で失ったことをペラペラと寅子に喋りました。挙句「あなたの知り合いに、航一の後添えさん候補はいないかね?」と聞く始末。
その時の航一の様子を見ていて優未的な環境で育った子(親と距離があり寂しい子)なのかな?と思っていたけど。航一は母と妻の死を受け入れられていなかったんだな。
大切な人の死・シングルマザーと子供の関係。人の心に与えるダメージは大きく、重要なテーマです。でもこの辺で私のモチベーションが下がった。
特にシングルマザーの話は、寅子が法曹家でなくてもいい話。
他の職業婦人でも当てはまります。
「こんな法律があったのか」!」と驚き、法律に縛られながら奮闘する寅子&仲間を見て興奮し、梅子さんが法律を使ってやり返しをしたのも痛快だった。要所要所に「法律・正しさとは」を考える部分があり、それが楽しかったのだ。
単純な”母娘の問題だけ”の話を私が「虎に翼」に求めていなかった、というだけです。
この問題はとても重要なことは重々承知しています。
寅子は法曹家である前に、一人の人であり、女性であること。
女性は生理があり妊娠・出産する性であること。
妻・嫁・母の役割を持たされること。
それらにスポットを当てたんですよね。
それでも私がモヤるのは何故か?
今週、優未がテストの点数が悪いのは、本番でお腹が痛くなってしまうのが理由だと判明しました。
視聴者全員が「優三さんと同じじゃん!」と微笑ましく見ていたと思う。寅子も笑いながら「お父さんに似ちゃったか」と言い、優未が嬉しそうに「お父さんのダメなところ、もっと聞きたい」と初めて寅子に前のめりになりました。
花江ちゃんも直人も直治も「優しい人、良い人」としか言わないので、ダメなところを知りたかったみたいです。優未自身がテストの点数は悪いし、改竄して嘘を付いたし「自分はダメな子」と感じていたのだろう。
母である寅子は有名人だし、地位も高い。だからお父さんに「ダメなところがあった=私と少し似ているのかもしれない」が救いになったのね。
寅子は優三さんに思いを馳せ、胸が詰まり、「また今度話そう」と引いてしまいました。
「あー、ここがチャンスだったのに」と誰もが肩を落としたはず。
でも、その理由が高瀬事件からの航一の言葉で納得しました。
寅子の高瀬を思いやる気持ちが二人の信頼関係を作り始めた。高瀬が寅子に心を開き始めた。高瀬は「兄とよく一緒に食べた」というキャラメルを寅子に渡す。
優未に「明日、おやつに食べなさい」と渡したら、「今、食べちゃダメ?美味しいもの、一人で食べてもつまんない」と言うんですね。
結局、寅子と優未、二人で美味しそうにキャラメルを食べます。
画面には出征前に寅子と優三がおにぎりを一緒に食べるシーンが流れました。
この時「お父さんもね、美味しいものは一緒に、といつも半分こして食べたのよ。」が出ると思ったのだけど、出なかった。
寅子が話したのは「お父さんはすぐ”ごめんなさい”する人だった。言いたいことは絶部押し殺して、人に合わせて謝っちゃう。でも随分経ってから、ポロッと本音をこぼして”え、それ今、言う?”ってなる。そういう不器用で優しいところも優未は似ちゃったのかもね。」でした。
「”ごめんなさい”の時、いつも机に頭をぶつけていたのよ」も追加すれば良かったのに。お腹ギュルギュルの特効薬「変顔」をしたけど、優未にはイマイチだったみたい。
「ポロッと本音」は契約結婚と思っていたら「実はずっと好きだったんだよね」と寝際に言ったことでしょう。そして秒で寝るという。実は肝の太い人だったかも。
寅子が結婚相手を探している時「誰でもいいなら、僕じゃダメですか?」とダメ元承知で突っ込んでくる激しさもあったんですよね。
でも、それ以外に「ポロッと本音」が出たことがあったかな?
不器用というかいつも己の立場を弁え、一歩引いて遠慮していた優三さん。
共亜事件の時、家に押しかけてきた判事達の面前に立ち、勇敢に猪爪家の尊厳を守った。
寅子が興奮した時には遮って「はい、深呼吸」と落ち着かせることもあった。
唯一、寅子の言葉を遮ることが出来た人だった。
優しいけど優秀な猛獣(寅)使いだった印象しかない。
人の記憶はそれぞれ。寅子にとっては「ポロッと本音」が一番印象深かったんだな。
「死を受けいれられていない」と同時に「思っていた以上に自分は優三さんを愛していたし、愛されていた」ことに気がついたのではないかな。
優未との溝を埋めるべく頑張っている寅子だが、何故か優未に触れようとしない。
そこが解せない理由。
ヒャンちゃん、梅子さんともハグが出来たのに。
目の前の我が子が愛した人とそっくりだった。それに気がついたら私なら愛おしくて抱きしめてしまうと思う。でも、似ているけど本人ではない。優未を優三さんに見立てたら、優三さんは本当に「もう居ない」ことになってしまう。だから怖くて避けてしまうのかな?
発達心理でも愛着(スキンシップ)が大切だと言われています。一体感、大切にされている感覚が「生まれてきてかった、生きても良い」という自己肯定と安心感に繋がります。
またシュタイナーの「感覚の12段階」で最初に育てる感覚が「触覚」です。
大人の私たちも暗闇に入ったら、まずは手(触覚)で壁などの安定した場所を探ろうとします。触覚は自分と壁を繋ぐものであり、壁と自分は違うこと(境界)を知ります。
人に置き換えると自分と他人を繋げるものであり、自分と他者の境界を理解していく最初のツールになります。イメージで考えると境界というのは輪郭です。触覚を育てながら「自分という輪郭」を作っていくようです。
noteでも何度か愛着について書いていています。
私自身が愛着・触覚が十分に育てられなかったからだと思う。
5年生頃、母にお願いをして膝に座らせて貰った。
5年生といえば高学年で、本来は膝に座る年齢ではない。
お願いをするほどなので、余程スキンシップが欲しかったんだと思う。
現在はそれに気がつけたので、以前とは随分と違う。
気づくこと、それだけで随分と癒やしになっていくのだ。
ちなみに触覚を育てる年齢は0〜2、3歳。
悪役である杉田弁護士だけど、良いことも言っていた。
「子供がいっちゃん嬉しいのはね。親がピリピリせかせかしないで自分のことを構ってくれることなんだで。ただでさえ一緒にいる時間が少ないんだすけ。そのためには持ちつ持たれる。頼れるもんは頼ったほうがいいて」
触覚育成で大切なことに「お母さん(お母さん役の人)が決して急がず穏やかでいること」とありました。現代で「急がず穏やか」に過ごせる人のほうが稀です。ただ、心に留めておくだけでも違うのかな、と思います。
後半の「持ちつ持たれつ」「頼れるもんは頼った方がいい」もその通り。核家族が増えたので、保育園に限らずシッターさんを使っている人も増えました。
ぶっちゃけお金で解決出来るのであれば、それがサッパリして良いです。
杉田弁護士の「持ちつ持たれつ」は意味が違うけど。
航一さんは敢えて自分から溝を作ると言っていた。そうして自分を守っていたようだ。きっと高瀬も同じ。「そっとしておいて欲しい」人たち。
なのに「悪気なく」あれやこれやと言って、ズカズカと入りこんで来た人に怒ったのだ。
これは田舎だからではなく、世の中には一定数鈍感な人が居る。
心の傷の癒やし方、癒される時間は人それぞれ。
人に話したい人もいるし、黙って抱えたい人もいる。
さらに、癒されたい人もいれば、その傷を大切に持ち続けたい人もいる。
傷について本人が気づいている場合もあるし、寅子のように気がついていない場合もある。
個人的には轟の傷(戦争での傷)も描いて欲しかったな。
随分と遅くに日本に帰ってきたので、戦地では相当辛い思いをしたはず。
花岡への想いが「生きて日本に帰りたい」という希望になったので、なければ死んでいたかも、ということ。
失った側の傷もあれば、失わせてしまった側の傷もある。
轟と同様、善良で心優しい、人の気持ちを汲むことが出来る直道さんや優三さんは殺されに行ったのではなく、殺しに行かされたのだ。
殺せないと言えば体罰を食らったりしたことを想像すると、轟の笑顔の裏が気になってしまう。
心の傷は「10o Swords(Ruin・破滅)」
絵を見ると中央のハートに剣が集まっています。
いわゆるハートブレイクと考えて貰ってもいい。
ハートが柄となっている剣はバキバキに折れているので心が折れている時にも出てきます。
このカードを「ICUに居る状態」と説明します。
そうすると「焦ってもしょうがない」や「それほどか」と皆さん色々と想像して下さいます。
明日から涼子様・玉ちゃんのお話が始まるのですね。
とりあえず無事で良かったし、ティールームを経営しているようで安心しました。
ティールームの名前が「light house」灯台。
よねさんのカフェーも「燈台」でした。
灯台は船の道標。そこから人生の道標の意味になります。
北極星は渡り鳥の道標です。
星航一も寅子の道標になるのかもしれませんね。
灯台は動かないものです。
「私はいつもここにいるよ」と誰かに見つけてもらえるように光を発しています。
ちなみに、この頃は田中角栄氏が初当選した頃。
総理の名前がネタで出てこないかな?出ないよね。