今思えば、きっと一目惚れだったんだと思う。 くせっ毛の髪と私と同じ背。 女性の中では背が高い方である自分より身長が高いなんて滅多になくて嬉しさと珍しさで笑って話した記憶がある。 「好きだったんだ。」 十年ぶりに会った彼の口から出た私の親友への恋心。 聞いた瞬間、納得感と呆れと、失恋したんだという感情を抱いたのを一年経った今でも覚えている。 失恋と同時に無自覚の恋を自覚した瞬間だった。 「恋」を自覚した瞬間から失恋したなんて笑い話だ。 笑い話なのに私は今でもその失恋を引きずっ
十年。 十年だ。 短い時間だったとは決して言えない期間。 私は、無自覚に彼に、この男に恋をしていたんだ。 私は、自分の胸に手を当てる。 この十年、私はずっと彼のことを想い続けてきた。 その年月が、この胸の締め付けが、私の想いの証明だ。 カフェで話された私の親友への昔の恋心を聞いて無自覚だった恋心を自覚して失恋をした。 心にぽっかりと穴が開いたような感覚に数日経った今も慣れないでいる。 未読のままのLINEを何度も眺めては消して、馬鹿な事をしているのは分かっている。 「昔、好
七色の人達に出会ったのは今からまだ一年も満たないとある日だった。 元々、ネットで仲良くなった子がWEST.ファンだった事もあったがその時はストスノに沼って漂っていた時期。 少し気になってBeautifulのMVを見た。 顔面国宝か?と言える藤井流星を見て心を射抜かれた。 そこから過去の映像や他のMV、WESTubeを見漁り個性豊か過ぎるWEST.全員のファンになった。 最近はピンクが強めかもしれないが……。 メンバーにイジられる事も多いが笑った笑顔が心の奥を温められるかのよ
Sano ibukiさんの「久遠」という曲を自己解釈し、小説にした物になります。 ドラマ、ワンルームエンジェルやご本人のMVとは極力、重ならないように作りました。 ご理解の程、よろしくお願いします。 ------------------------------------------ 「ねぇ、こういう席苦手?」 合コンの数合わせ。 その同じ場所にいた初対面の男にそう聞かれ苦笑いをしながら頷く。 「良かったー。僕も苦手でさ。勝手に抜け出して二軒目いかない?」 いかにもノーマル
「飯、食わないの?」 立ち入り禁止の屋上で後ろから声をかけられ、振り向くと黄色の3年生カラーのネクタイをつけた男子生徒が立っていた。 「……ここ、立ち入り禁止ですけど。」 「知ってる。どうやって入った?」 「こっそり合鍵作ったんです。」 「職員室も不用心だな。」 「鍵閉めたはずなんですけどどうやって入ってきたんですか?」 「なんか人の気配感じたから。これで。」 先輩の手には髪をとめる為のピン。 「ピッキングってやっちゃダメらしいですよ。」 「合鍵作ってる人に言われたくないなぁ
「ここに居たんだ。」 「なんで分かったの。」 見つからないように抜け出したつもりだったのにこの男はなんでも分かってしまうのだろうか。 「居ないと思ったから探しただけだよ。」 テラスに座る私の隣に静かに座ってきた。 「飲みの席は嫌い?」 「嫌い。みんな声大きくなるし、思考回路めちゃくちゃになるじゃん。だから嫌。」 テラスから眺める街並みにカップルが多いなぁ。とか学生もいるんだなぁ。とか取り留めもない思考回路をグルグルさせていく。 「け、ほ。」 何気なく軽く咳を1つした瞬間にやば
深夜、ふと目が覚める。 変に起きてしまったから眠れない。 どうしようか考えている途中で背中に自分とは違う体温の存在を感じてモソモソと向きを変える。 「帰ってきてたんだ。」 正体は忙しくて顔を合わせられていなかった彼。 服を見ると私服のまま。倒れ込むように寝たのかな。 携帯で時間を確認すると日付がちょうど変わった所だった。 明日、もう今日か。久しぶりの休日だって言ってたからゆっくり休んで欲しい。 「眼鏡……。」 眼鏡さえ外す気力もなかったかと静かに眼鏡を取って安全な場所に移動さ
「うん、綺麗。」 その言葉で閉じていた目を開く。 「そのマスカラも似合うね。」 メイクに疎い私よりも遥かにメイクに長けている彼にマスカラを塗られる日が増えた。 最初は遠慮していたのだがマスカラを塗った後の笑顔が大切なものを愛でるような瞳だから何も言えなくなってしまった。 なんて思いつつ視線を落とすと彼の手元の箱には何種類ものマスカラがしまわれている。 「……なんで、毎回マスカラだけ塗るの?」 「んー、マスカラってあんまり目がいかないじゃない。涙で崩れやすかったりするし。その場
「ダブルデートに誘った理由は?」 目の前の男はそう言ってゆっくりとコーヒーを飲んだ。 「理由ってそんなの無いよ。一緒に出掛けたいなーと思ったから。」 「ダウト。人混み嫌いなお前が俺に出掛けようなんて普通だったら言わない。」 図星で言葉につまる。 「素直に言ったら協力してあげよう。」 その言葉に降参の意を込めて手をあげる。 「私達には幼馴染みがあと二人居るじゃない。その二人が両片思いだから背中を押してあげたいなと思ったの。」 そう、家が近所の私達四人は幼馴染みと言える関係だった
出会いは特に特別なものでもなかった。 知り合いの知り合い。 音楽の好みが似てる訳でもない。 食の好みが似てる訳でもない。 服の好みが似てる訳でもない。 趣味だって違う。 そんな感じだから付き合っても些細な喧嘩は多い方だった。 でもその度にちゃんと話し合ってきて、それさえも愛おしく感じる。 私は似てない彼と一緒に居られる幸せを噛み締めていた。 「ねぇ。」 「ん?」 「いつもありがとね。」 「いきなり? お礼を言うのは俺の方だけど。」 食べていたアイスの手を止めて私の瞳を真っ直
桜の根元には死体が埋まっている。 彼から実際に掘り起こそうと誘われたのは夜も随分深くなってからだった。 「いや、迷信でしょ。そんなの。」 「やって見なきゃ分からないじゃん?」 「まあ、そうだけどさ。」 足元にあったシャベルを拾い上げる。 「掘りたいなら一人で掘ればいいのに。」 「二人でやったほうが早いでしょ。どうせ暇なんだから付き合ってよ。」 「はいはい。分かりました。」 そうして二人して桜の根元を掘った。 しばらく掘り進めては見たものの桜の根元に埋もれた死体なんてものは
「寒くない?」 鼻を真っ赤にして彼は私にそう語り掛けてきた。 「寒くないよ。まだ秋だよ?」 「もうほぼ冬だよ。ってか冬の海ってこんなに寒いの?知らなかったんだけど。」 「私、冬の海来たの初めてだからなぁ。」 「嘘つけよ。」 「ほんとだよ。」 私たちは二人して笑い合った。 寒いはずなのに何故か心は温かかった。 「今更だけど、なんで冬の海に来たの?しかも夜。」 その言葉にキョトンとした顔をした後、視線を海へと向ける。 「うーん。そうだなぁ。」 返答に困り、言葉を探していたが諦めて
体の六割が水分。 と、テレビの画面から聞こえてきた。 「六割。」 言葉を反復してソファに深く腰を沈める。 幼い頃に聞いた話だけど改めて聞くと多いなと思う。 ほぼ水分じゃん。と思うのは幼い頃から思考回路が変わらないからなのかなと窓越しに降り続ける雨を見る。 先程は小雨だったのが今はテレビの音をかき消す程の雨音に変わった。 「六割、かぁ。」 水は一番身近で簡単に人を奪っていく存在。 そう思っている。 だけど、水を羨ましくも思う。 あの人の体の中の六割を得て。 あの人の体に触れるこ
梅雨の時期の奇跡的な晴れ。 そんな日に私達はアイスを頬張り、歩いていた。 青春かよ。とツッコミをいれそうになるがお互いに立派な二十代の後半。 良い音を鳴らしながらアイスを食べる隣の幼馴染みに視線を向ける。 私よりも白いのでは?と思える肌に整った顔。学生の頃、それはそれは大きなファンクラブもあった。 なんならそのファンクラブの子達に絡まれたりしたのは良い思い出。 「なんで急に呼び出したの?」 一向に口を開こうとしない幼馴染みにしびれ切らし、問いを投げかけると彼はシャクリ、とアイ
ざく、ざく、と足音を立てて歩く。 握り締めた携帯からは聞きなれた笑い声。 十月の海辺は思っていたより寒くて無意識に体が震える。 「もうちょっと着込んでくれば良かったかな。いや、関係なくなるか。」 ド深夜。しかも海のシーズンなんてとっくの昔に過ぎたこの季節。 夜の海辺に人なんぞ居る訳もなく少し恐怖心を抱きつつ砂浜を歩く。 しばらく歩いてから、どこでも一緒じゃね? と気付いて足を止めた。 空を見上げると月は満月が終わり少し欠けている。 「…最後まで情をかけるって事はしないんだねこ
その日は酷く疲れていたのと服用している睡眠導入剤のお陰か苦労することなく睡眠へと意識を落としていきました。 目を覚ますとそこは見たことの無い田舎。 地元でもないし、全国各地を回っていたがこんな所行ったことない。 携帯も財布も持っていないことに気付いてこれは夢なのだと自覚する。 周りを見ると見渡す限り田んぼ。 じっとしてる訳にもいかないなと思い仕方なく歩くと鳥居が見えてきた。 行けば人が居るだろうと鳥居をくぐって階段を登る。 しかし、登れど登れど本殿につかない。 疲れて座ろ