ふたり

出会いは特に特別なものでもなかった。
知り合いの知り合い。

音楽の好みが似てる訳でもない。
食の好みが似てる訳でもない。
服の好みが似てる訳でもない。
趣味だって違う。
そんな感じだから付き合っても些細な喧嘩は多い方だった。
でもその度にちゃんと話し合ってきて、それさえも愛おしく感じる。
私は似てない彼と一緒に居られる幸せを噛み締めていた。
「ねぇ。」
「ん?」
「いつもありがとね。」
「いきなり? お礼を言うのは俺の方だけど。」
食べていたアイスの手を止めて私の瞳を真っ直ぐに見つめてくれる。
それも私にはない彼の癖だ。
「君がいてくれるだけで俺は生きていけるから。」
「何それ。」
「愛とかで生きていけないのは分かってるんだけど、君がそばに居てくれたらそれだけで幸せだなって思えちゃうから。俺の方こそありがとう。」
「どういたしまして?で合ってる?」
「ん、ふふ。合ってるよ。」
馬鹿みたいに生きにくい暗い世界で似てない他人同士だけど彼がいるなら何とかなってしまうと思える。


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