十年
十年。
十年だ。
短い時間だったとは決して言えない期間。
私は、無自覚に彼に、この男に恋をしていたんだ。
私は、自分の胸に手を当てる。
この十年、私はずっと彼のことを想い続けてきた。
その年月が、この胸の締め付けが、私の想いの証明だ。
カフェで話された私の親友への昔の恋心を聞いて無自覚だった恋心を自覚して失恋をした。
心にぽっかりと穴が開いたような感覚に数日経った今も慣れないでいる。
未読のままのLINEを何度も眺めては消して、馬鹿な事をしているのは分かっている。
「昔、好きだったんだよ。」
帰りの電車で隣に立つ男に伝えると少し眉が下がった。
「知ってたよ。恋とはハッキリ分かってた訳じゃないけど好意を持たれてるのは気付いてた。」
あと数分で別れるのにとんでもない話を切り出してしまったと少し後悔する。
それでも変わらず聞いてくれるから、その姿が仕草が好きだったんだなと気付いた。
私には今、恋人がいる。
恋人が一番好きで大切なのに。
この男に恋をしていた十年に気付いたせいで心の整理が出来なくなった。
「一目惚れ、だったと思う。」
「そっか、なんか、感じてたかも。」
その時、この男の乗り換えの駅につくアナウンスが鳴る。
「ほら、ついたよ。」
強がって笑って言葉を紡ぐ。
開いたドアから男は降りていく。
「今日、楽しかった。また、遊ぼう。」
ドアが閉まるまでに聞こえた言葉とこちらが見えなくなるまで手を振る姿に笑ってしまった。
「馬鹿だなぁ。」
一人になって紡いだ言葉を受け止める相手は誰もいない。