介護の仕事をしていて私が目にしている「ヤングケアラー」のケースとその問題点について。
先週のある日、それは大変な1日だった。私の中でも1,2を争う忙しさだった。
それはパート契約しているデイサービスで働いていた日の出来事。
管理者が不在なのに加え、いつものスタッフが二人休みだったからだ。
そのうちの一人Aさんは子どもの体調不良が理由だったが、
もう一人のBさんは母親が倒れたからということだった。
どうして倒れたかと言うと、Bさんの母親自身の母、
つまりBさんの祖母が認知症であり、その介護の末に倒れたのだそうだ。
Bさんは母親の代わりに祖母の介護をしなくてはいけなくなり、
仕事を休んでおり、復帰のめどはたっていない。
とても身近で起きた「ヤングケアラー」のケースだったので、
私が目にしているヤングケアラーの実態をもう少し紹介しながら、
気づきをまとめてみたい。
ヤングケアラーとは、一般的に親が引き受けるような介護や家事などの負担を子どもが引き受けて行うことであり、それが子どもの「お手伝い」の域を超え、学業などに支障がでるほどの負担を強いている場合とされている。
ヤングケアラーの年齢は18歳未満の子どもと定義される場合もあるし、イギリスでは25歳未満、18歳~30歳くらいのケアラーを若者ケアラーと呼んだりもし、どこまでがヤングケアラーかあいまいな面も多い。
Bさんの場合、25歳未満であるが、18歳以上であるため上記の定義だと正確にはヤングケアラーとは呼ばないけれど、国によってはヤングケアラーの年齢であるし、就職したばかりで仕事を覚えたての若者が介護のために仕事を長期で休まなければならないというのは、ちょっと異常事態であり、「ヤングケアラー」の部類ではないのか?と思う。
認知症の祖母と同居する孫
デイサービスで働いていて目にするケースでこれも「ヤングケアラー」だなと思う事例はいくつかあり、大学生の孫と二人暮らしをする高齢者のケースだ。
このパターンは複数の事例を知っている。たまたま変わったケースに私が出くわしたということではなく、デイサービスで働いていている実感としては増えている感じ。
その中には、認知症の祖母と二人暮らしの孫、という「ヤングケアラー」もいる。
ケアラーの年齢はわからないが、大学生なのだからかなりの若さであるのは間違いない。
あるとき、この事例の認知症の高齢女性は、介護スタッフが家に迎えに行ったとき、家の外を徘徊していたそうだ。
孫は家にはいたそうだが、放置されていたという。
その時介護スタッフは、「孫は家にいるのに何にもケアしていない」とかなんとかグチをこぼしていたが、私はそれを聞いてそりゃそうだろう、大学生が朝から徘徊老人の介護を一人でするって、ムリがある、と思った。
大学の授業もあるだろうし、バイトや学生同士の付き合いもあるだろう。
飲み会などで夜は遊んでいることもあるだろうし、人生で一番「自由」でやりたいことも多いのが大学生なはずだ。
そこに加えて徘徊老人の世話を親のサポートではなく、一人で担うというのは荷が重すぎるし、責任が問えないだろう。
ここで重要なのは、このヤングケアラーのケースというのは、苦学生というわけでもないし、高齢者の祖母もごく一般的な経済水準の高齢者だということだ。
一般的な経済水準の大学生が経済的には困っていない祖母を二人暮らしして介護しなくてはいけない、そういうケースが日本では増え続けているということ。
本当にごく一般的な家庭にまで、「ヤングケアラー」の手が伸びつつあるということを示している。
片マヒの祖父をお風呂に入れる役割の孫。
このケースは二人暮らしではないが、介護の重責を担っている若者もいる。
脳梗塞後で片方の手足がマヒで動かないデイサービスに通ってくるCさん。
Cさんはデイサービスに通っていない日は、お孫さんにお風呂に入れてもらっているという。
Cさんは奥さんがいるが高齢のためお風呂介助は難しいし、お子さんは仕事などで忙しく介護はあまり頼めないようだ。
そこでやはり力もあり頼れるのは「ヤングケアラー」である孫、ということになる。
片側の手足がマヒしているCさんは、デイサービスでもお風呂に入れることはかなりのテクニックが要求される。
お風呂だけでなく、更衣も介助が必要であり、時間も労力もかかる。
これをお孫さんが日常的に担っている。
Cさんはもと経営者であり、経済的には裕福な方であるといえる。
そういった家庭でも、ヤングケアラーとしてお孫さんの手を借りないと回らない、そういう現実がある。
介護のために午前中しか働けないDさん
単発バイトで別のデイサービスで働いていた先日。
私のために本日の派遣看護師の仕事内容を説明してくれていたスタッフEさんが、「じつは僕も今日は午前中で帰ってしまうので。親の介護が必要で1日は働けないんです。会社には辞めたいって言ってるんですけど辞めさせてもらえなくて」とのことだった。
彼は30代後半。ヤングケアラーの年代ではない。
しかし、独身で働きざかりの男性が介護のために仕事をやめなくてはならない、という事態になっている。
ライフステージごとにするべきことに集中できないのが少子高齢化社会
親族の介護にまったく関わっていない、という人を探すのが難しいほど、いまや「国民総ケアラー時代」となている。
介護の人手が足りないと起きてくる問題として、Bさんや大学生ケアラーの若者のように、自分のやるべきこと、やりたいことを後回しにせざるを得なくなる、ということだ。
本来Bさんは仕事をどんどん覚えて社会人としても成長するべきときであるのと同時に、本当はもっとも大事なのは恋愛をするなどプライベートの充実だろう。
それがなくては次のライフステージである結婚・出産・子育てに移行できない。
でもそこに「まず介護」が入ってきたらどうだろう。
単純にその時間だけ介護してそれ以外の時間は恋愛ができるだろうか?
疲れ果て、それどころではなくなることも考えられる。
本来、若者は仕事をするだけでも大変なのに、Eさんのようにそれを半分にして介護をしなくてはいけない人も増え、その他の時間でどうやって恋愛をするのだろうか?
若者は自分の仕事と介護で手一杯、自分のプライベートの充実はそのあと。
そんな若者ばかりになったら、「恋愛結婚をして子育てをする」と言う誰もが望めば自由に選ぶことができていたライフステージは、本人が望んだとしても「夢物語」となってしまう。
高齢化になると若者を苦しめるのは税金の負担だけではないのだ。
今後も介護に携わる視点から、高齢者、介護施設の実情、働き方などの視点から私の気づきをレポートしていきたい。
☆拙著『介護のホンネ裏話』を出版しました。これまでnoteで発信してきた介護事情をまとめたものになります。
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