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「ひきこもる心のケア」から学ぶこれからの生き方。

今日は「ひきこもる心のケアーひきこもり経験者が聞く10のインタビュー」という本をご紹介したい。

ひきこもり経験者の杉本賢治さんが、ひきこもり・若者支援を行う10人の専門家にインタビュー。若者サポートステーション代表者、精神科医、大学教授など、様々な専門家がそれぞれの視点から支援のあり方について述べている。インタビュアーの杉本さんが当事者の視点から投げかける質問が興味深く、「当事者不在の議論」となっていない点が本書の特徴である。

中でも印象的であったのが、第10章「生活を自分たちで創り出す」における北海道大学大学院教授宮崎隆志さんへのインタビュー。宮崎さんは社会教育学の視点から若者や非行少年の自立支援について研究されている。

宮崎さんは若者支援のあり方について以下のように述べる。

枠があってそこから押し出された人を枠に戻すという考え方ではなく、枠自体を広げていく必要がある。そのために当事者たち、社会や時代から押し出された人たちと一緒に考えていくしかない。なぜかといえば、枠の中に残っている人たち、社会から締め出されなかった人たちも実はいま生きづらさを抱えていて、自分もいつどうなるかわからないという不安と同居しているわけですよ。一見勝ち残ったように見えるけれども、生きる充実感を感じることができていないように見えるのです。ならば締め出されている人たちと一緒に内側と外側の壁を超えてこの問題を考えていくことが必要なのではないか。(p.158)

これは私も思うところで、ひきこもり/ひきこもりじゃないに関わらず、抱えている「生きづらさ」はみんな一緒なのではないかと。"ひきこもり"は様々な困難や生きづらさの表出した状態、一種の"現象"であり、そうじゃない人であっても、同じように不安や生きづらさを抱えている。誰もが一本の細い不安定な綱を渡るように生きていて、誰でも安易に転落してしまうような、今ってそんな社会なのではないかと思う。

それが特に日本では、社会構造的に作りだされている。それをよく言い表しているのが次の言葉。

…今は個々が「私」の世界に入ってタコツボ化しており、その個をつないでいるのがお金であり、会社であるという状況です。本当は誰もが自由に自分のスタンスでかかわれるのが理想ですが、今の日本社会のあり方は狭くなりすぎていますね。本来、人間の活動すべてが人間社会を作っているわけですから、人間活動のすべてに同じ価値がある。そう考えるべきです。今一度、人間という存在の根本に立ち返って、生きることと社会を作ることが分離しない、そんな社会のあり方を考えていかなければいけないと思いますね。(p.167−168)

「社会のあり方が狭くなりすぎている」いわば、綱渡りの綱は一本しかなくて、そこにみんなが必死にしがみついているような状態。落ちたら最後、救ってくれるネットは貼られていない。

今まで私たちは欧米社会のような『宗教観に基づく原理原則』ではなく、「お金」「会社」つまり『経済』を基準に置いてきた。頑張って勉強していい大学、いい会社に入って朝から晩まで働いて家族を養うことが「よい生き方」であり、自由主義のもと「働かざる者食うべからず」という認識が蔓延していった。

しかし、その太くて安定した綱は今はもういつ切れてもおかしくないほどすり減ってしまった。もはや「経済」を軸に置くことはできない。しかし、社会のあり方も私たちの意識も変わっていない。なんとなく、みんな心にモヤモヤした生きづらさを抱えながら「生きる充実感」を味わうことなく生きている。

この状況を打破するには?望むゴール、向こう岸へたどり着くにはどうすれば良いのか?

今一度、宮崎さんの言葉を引用したい。

枠があってそこから押し出された人を枠に戻すという考え方ではなく、枠自体を広げていく必要がある。そのために当事者たち、社会や時代から押し出された人たちと一緒に考えていくしかない。…ならば締め出されている人たちと一緒に内側と外側の壁を超えてこの問題を考えていくことが必要なのではないか。
本来、人間の活動すべてが人間社会を作っているわけですから、人間活動のすべてに同じ価値がある。そう考えるべきです。今一度、人間という存在の根本に立ち返って、生きることと社会を作ることが分離しない、そんな社会のあり方を考えていかなければいけないと思いますね。

もう国が新しい綱を用意してくれることはないだろう。だからこそ、同じ生きづらさを抱える者同士、みんなで協力して綱を貼り直そう。その綱はいくつあっても良い。一本ではなく、綱をたくさん貼って、好きな綱を渡ろう。途中で隣の綱に移ってもいい、もし無ければ新しく作ればいい。

これこそが「生きることと社会を作ることが分離しない社会」なのではないかと思う。

「ひきこもる心のケアーひきこもり経験者が聞く10のインタビュー」ぜひご一読頂きたい。


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