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ひどい肩痛とトラウマとの深い関係:一人の事例(文献から)

痛みとトラウマが関係があると何度も書いてきましたが、
じゃあ、具体的に痛みとトラウマってどう関係があるの?
って思う方もいると思います。

ここでは、文献でみられるものを取りあげてみたいと思います。

アメリカの著名なトラウマセラピストである
ピーター・ラヴィーンの事例から、
慢性疼痛に関するものを紹介したいと思います。

どのように、痛みがトラウマと関係していて、
それがトラウマセラピーでどのように改善していくのかが、
具体的な事例を通じて描かれています。

事例の概要

ヴィンスという男性は、右肩が凍りついたように動かなくなり、
消防士としての職務に支障をきたしていました。

ヴィンスは最初、理学療法士の治療を受けていましたが、
治療はあまり進まず、最終的には肩の手術が提案されました。

しかし、明確な身体的外傷がないため、
理学療法士は、手術を避けるためにヴィンスを心理療法士である
ピーター・ラヴィーンのもとに紹介しました。

症状の発症と進行

ヴィンスの症状は、彼が車のスターターモーターを持ち上げた際に
「何かが引っ張られるような感じ」がしたことから始まりました。

その後、肩が次第に痛みを増し、動かす範囲が徐々に制限され、
ついには慢性的な状態になりました。

彼はこの症状を車の修理作業により肩を痛めたため
と考えていましたが、
実際には、これは「起こるべくして起こった事故」
だったと言えるのかもしれません。

治療プロセス

ヴィンスは、ピーター・ラヴィーンという「心の治療者」に
会うことに対して不安を感じていました。

ピーター・ラヴィーンは、彼に個人的な質問をするのではなく、
症状を改善することに集中すると伝えました。

ピーターは、ヴィンスに痛みの出るぎりぎり手前まで、
腕をゆっくりと動かすように指示しました。
ヴィンスは、腕をゆっくりと動かしました。

すると、徐々に筋肉が緩んで震えが生じるようになりました。
ヴィンスの額は、汗でびっしょりになっていました。

この震えや汗は、筋肉など身体の防衛反応の中に閉じ込められていた
トラウマのエネルギーが放出されていることを、意味していました。

震えや発汗などの反応は自律神経系によるもので、
彼にとっては制御不能な感覚でしたが、
これらの感覚を受け入れるように助けました。

トラウマと身体の反応

治療の中で、ヴィンスは過去のトラウマ的な体験を思い出しました。

彼は、妻のために買い物をしていた際に、車の事故現場を目撃し、
事故の車に急いで近寄って、車から運転手とその子どもを助けようとしました。

ヴィンスにそうさせたのは、消防士だったという職業上の行動のようなものだったかもしれません。

しかし、子どもは不幸にもエアバッグによって頭部を切断された状態でした。
ヴィンスは、その場面を目にしました。

この経験が、彼の肩が凍りついた原因であると彼は気づきました。

「その子を見るまでは、大丈夫だったのです」

彼はその瞬間、助けるべきか、恐怖から引き下がるべきかという
二つの対立する衝動に襲われ、
結果として筋肉が緊張し肩が動かなくなってしまったのです。

パブロフの研究とトラウマ反応

イワン・パブロフの研究は、
トラウマがどのように身体と心に影響を与えるか
を理解する上で重要です。

パブロフの研究では、二つの対立する衝動が衝突すると、
身体的なフリーズ状態が発生することが示されました。

ヴィンスの肩が凍りついたのも、これと同じメカニズムによるものでした。

最終的に、ヴィンスは、肩が凍り付いた感覚を味わい尽くし、
震えと発汗および吐き気からなる波の中で、
トラウマのエネルギーが解放されたのでした。

こうしたトラウマの爆発的なエネルギーは、
ちょうど草食動物が肉食動物に追われているときに
その身体で起きていることに相当します。

そうした爆発的なエネルギーが解放されずに、
身体に残ってしまうと、問題を起こすのです。

この事例は要約したものですが、実際にはずっとゆっくりとしたペースで
進められます。

ヴィンスは、合計4回のセッションを受けて、
トラウマのエネルギーが解放されると、
肩が動くようになり、手術の必要はなくなりました。

結論

最終的に、ヴィンスはトラウマ的な体験に対処し、
肩の凍りつきを解消することができました。

彼は手術を受けることなく、ストレスや対立する状況に
対処する方法を学びました。

このケースは、心と体が一体となって働くことの重要性を
示しており、トラウマが身体にどのように影響を与えるか
を理解する上での貴重なひとつの事例となります。

参考文献

ピーターラヴィーン(2016)『身体に閉じ込められたトラウマ』星和書店.

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