文学フリマ東京36で買った本(1/2)
文学フリマ東京36
2023/5/21(日)
文学フリマにはもう5年くらい前だろうか、そのあたりからサークル参加していて、先の疫病騒動の際にしばらくお休みしていたので、実質まだ5回程度しか出ていない。
サークルで参加していると一日中活気の中に身を置くことになり、その上この2回は星結莉緒先生と参加しているため、気兼ねなく宛のない散歩に出ることができる。
これは今回うっかり買い回り、手に入れた本と、その感想文です。
前編。後編はこちら。
はとの著作についてはこちら。
箒木 / ヒトリシズカ(文豆茶屋)
書影:画像右上
ついに最終巻。
箒木シリーズは初めて文学フリマに赴いた時に、既刊をすべてもらって帰ってきたものです。
挿絵と文字がすべて手書き、作者はインターネット上におらず、毎年5月の文学フリマに赴かなければ購入できないというこのストイックさも好きなところ。
しかし物語は可愛らしい。
小狐のなりをした「今」という小さな神様と、その神社をめぐる絵巻物を翻訳した体をとっています。
人々に忘れ去られて自分が何者かも分からないところから、さまざまな他の神に出会い、万物と交流を重ねてきたところまでが前回の巻でした。
今のいる山やその周辺の様子が柔らかい語り口で語られていくのだけれども、その優しい言葉の使い方から、山の素朴な風景が描き出されるところがとても好きです。
神様の話なので、ファンタジックな描写があるところも、しかしそれをそのまま想像させられる力があるのが良い。本当の絵巻物のようで、どこかの小さな祠の縁起譚として、こういう話が残っているんじゃないかしらと思わせられました。
最終巻は、一読者としては意外な落着をしたのですが、神様、というのはやっぱり、人間と関わってこそ自立していくものなのかなとも思いました。
次回からはまた新しいお話を出されるそうなのでとても楽しみ。
物語もさることながら、絵と手描き文字と手製本のこの特別感がやっぱり好きです。本っていいですよね。
文豆茶屋
鯵の差し入れ / 百目鬼 祐壱(鍵括弧文庫)
書影:画像右下
散歩に出ると、だいたい目当てのサークルを目指しつつ、軒に目を流しながら歩いているわけですが、うっかりコアラと目があった。
コアラと目があったし、おそらく鯵なんだろう魚とも目があった。
試し読みさせてもらい、文章と気が合いそうなので購入した。
「鯵の差し入れ」
どこかおかしみのある憎めない芸人たちの話で、カジュアルに汚いものと死とが混ざってくるのが面白かった。
尾籠な話と生死については、確かに安易に取り上げやすい傾向にあるよね。
ぎゅっと詰まった文面だけどかなり読みやすい。いちいち捻ったような表現をしてくるのが好みなのですが、芸人たちの話だからわざわざそういう表現を選んでいるようで、そこもまた良かった。
「塔」
表題作だけでなく短編も入っており、その話の内容のギャップに驚かされた。
架空の話とのことだけど、絶妙なラインでどこかにありそうな誰かの体験という気がする。
美しく、旅愁を誘われる。
情景が目の前に迫るようでとても良かった。
読み終わってだいぶ経った今でも、その赤い夕焼けが体験したことかのように脳裏に蘇る。
あと無配のスピッツの話。
私の場合はスピッツではなかったが、でもそういうのはあるよなあと共感する。
私は上京してすぐに、それまでを取り戻すように好きなアーティストを見に行ってしまったけれども。
そういえば確かうちにも海のYeah!!だけは現物があった気がするし、相棒は桔梗色のiPod nanoでした。
電池を変えて使えるものなら使いたい。
作者Twitter・カクヨム・表紙イラストレーターTwitter
ゆずりはの記 / ちりとかみ
書影:画像中央下
前回の文学フリマ東京35で、大変良い作品を出されていた方の新刊。
「ゆずりはの記」
前半と後半の違い方に驚いたんだけど、父の短歌を軸に展開されているのかな。
後半の私が語る言葉が堆肥となって、一人の人生についての物語を根付かせて育てていく。
短歌と小説(語り)では圧倒的に使用できる字数の差があるけど、どちらもそれぞれ雄弁に、物語を語ることができるんだなと気がついた。
でももし深山が、父の短歌を受けて物語を出力したのがそれなのだとしたら、土台が先にあるとはいえ、不思議な出力をするなとは思う。
作者Twitter
「本だっておしゃれするのよ」
そういう話ではないと分かっていつつも、お天気マーケティング!と思いました。
私も確かに気分で本の栞を変える。
「じいちゃん」
私は祖父母をだいたい子どもの頃に全員亡くしているので、きちんと死を理解し、向き合えるようになってからの近親者の死とは対面したことがない。
幼かったから仕方がないとはいえ、確かにもっといろんな話を聞きたかったとは思うことがある。
直接的な話を一度回避しているところが、きっと実際に直面するとそうなるんだろうなと思った。
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冷たいポストを抱えて眠る / 深澤うろこ
書影:画像左上
表題になっているものと、P.84の4つめの短歌が良いなあと思った。
「熱海の自転車」
母は母であり、娘は娘であって、とても良い関係性と、それがわかる一幕を切り取った情景がどこかノスタルジックで良い。
お互い近くにいると忘れてしまうことだとも思う。
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イイヒト / 星結莉緒(波間文庫)
書影:画像左下
手前ども波間文庫の一員の本。
鳩も莉緒先生も、当日お互いに買って帰って読むまで、何を書いているのかまったく知らないので、なにも知らない状態で、隣でセールストークを聞いている。
今回は短編集とのことだけ知っていた。
しかしともかくもうだいぶん長い付き合いであるため、どの話の下敷きもなんとなく当人から聞いたことがある話で、そう展開するのかあと、たぶん一般の莉緒先生の読者とは別なところの感想を持った。
一番は「あの子との思い出」が好きかな。
現実で体験しうる心情や嬉しさと、虚構(虚構というかなんというか)の世界を並列に書いているのが好き。
「へその緒」の考え方も好きで、私もあらゆるところを歩き回ってるので、いつかこんがらがって後ろから引っ張られて動けなくなりそうと思う。
へその緒の延伸はできますか。
(私信)やっぱり2進数やろ。あとあられは低音でじっくり揚げた方が柔らかくなるし、お餅がみゃーとなるのは揚げる前のお餅の乾燥が足りていないからです。
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