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【物語】届かないその想いを

 登場人物2人
澪……女性・大学3年生。
若菜……女性・大学1年生


若菜:あ、あの……すみません……
 
澪:ん?あたし?
 
 
明るい茶色のショートヘアの女性が、柑橘系の香りを漂わせながら突然話しかけてきた。
 
 
若菜:そ、そうです……。あの……私その……図書館に行きたいんですけど……行き方がわかんなくて……
 
澪:あぁ……もしかして新入生?
 
若菜:はい。もうすぐ図書館ガイダンスなんで参加したくて……
 
澪:そうなの……じゃあ案内してあげるわ。ついてきて。
 
若菜:あ、ありがとうございます!
 
 ーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
澪:……ここよ。少しわかりにくい建物よね。
 
若菜:ありがとうございます。助かりました!
 
澪:いいのよ。それじゃあ……
 
若菜:え、あ、あの……その……まだお礼を……
 
澪:いいわよそんなの。
澪:それよりガイダンスなんでしょ?早く行きなさい。
 
若菜:あ……
 
澪:それじゃあね
 
モノローグ:すごく素敵な人だなぁ……仲良くなりたいな……。
 
 
 
 
 
場面転換
翌日・キャンパス内で
 
 
 
 
 
若菜:あ、あの……
 
澪:ん?
澪:あぁ……昨日の迷子ちゃん。
 
若菜:昨日はありがとうございました……
 
澪:ちゃんとガイダンスは聞けたの?
 
若菜:はい……ギリギリ間に合いました。
 
澪:そう……それはよかったわね。
 
若菜:はい。あの……私、昨日は何にも言わずに失礼しました……
若菜:文学部1年の清澄若菜です。
 
澪:あら……じゃああたしの後輩ね。
澪:3年の椎名澪よ。よろしくね。
 
若菜:同じ学部だったんですね!
 
澪:そうみたいね。何かわからないことがあればなんでも聞いて。
 
若菜:ほ、ホントですか?
 
澪:もちろんよ。
 
若菜:じゃ、じゃあ……
 
澪:ん?
 
若菜:その……彼氏さんとかいますか?
 
澪:はぁ?何よ急に……
 
若菜:え、今なんでもいいって……
 
澪:そうだけど……それはほら……
澪:楽単の授業とかそういう大学のこととかって意味で、あたしのプライベートって意味じゃないわよ!
 
若菜:あ……その……ごめんなさい……
 
澪:……まぁいいわ。付き合ってる人はいない。どうして?
 
若菜:先輩すごいクール系美人なので……そういう人ってやっぱりモテるのかなって気になって……
 
澪:そう……悪かったわねモテてなくて。
 
若菜:そ、そんなことないです!これからですよ!!
 
澪:はぁ……まぁいいわ。
澪:それより、お昼は食べたの?あたしとしゃべっててもお腹は膨れないわよ?
 
若菜:実はさっき学食行ったんですけど、いっぱいで……
若菜:あんな込んでる中で急いで食べるのもなんか嫌ですし……
 
澪:そう……まぁその気持ちは分かるわ。
 
若菜:学食っていつもあんなに混んでるんですか?
 
澪:ここの学食狭いのよ。隣にカフェがあったでしょ?アレを新しく造ったせいで狭くなっちゃったの。
 
若菜:あぁ……そういう……
 
澪:仕方ないわ。諦めて並ぶか、あたしみたいに外のベンチとか空き教室で食べるかね。
 
若菜:そうですか……先輩はいつもここで食べてるんですか?
 
澪:いつも……ってわけではないのだけれど……多いわね。落ち着くの。なんとなくね。
 
若菜:へぇ……いつも1人なんですか?
 
澪:友達と食べるときもあるけれど……あんまり人と食べるの好きじゃないのよ。
澪:食べるペースとか考えないといけないしね。
 
若菜:そうなんですか……
 
澪:それよりあなた……今日はもう何もないの?
 
若菜:いえ……これから履修指導?があります。
 
澪:そう……来週から授業だものね。
 
若菜:そうなんですよー。なにかおすすめの授業ありますか?
 
澪:んー1年生でしょ?
澪:あんまり専門の授業取れないと思うけど……英米文学入門とか面白かったわよ。
 
若菜:へー……それなにするんですか?
 
澪:昔の英文小説を読んで翻訳するの。
 
若菜:そんなに課題も多くないし、それなりに勉強になるからオススメよ。
 
若菜:へー!いいこと聞いちゃいました。じゃあそれとってみます!
 
澪:そう。頑張って。
 
若菜:それじゃあ……私もう行かないと……また会いましょう。センパイ。
 
澪:えぇ。またね。
 
 
 
 
場面転換
数週間後・大学構内にて
 
 
 
 
 
若菜:センパイセンパイ。突然ですけどゴールデンウイークは何か予定あるんですか?
 
澪:予定?特になんにもないわよ。フツーにバイトして、帰って寝て、それで終わり。
澪:あなたは?
 
若菜:私もそんな感じです。まだバイト慣れないのに連勤とか憂鬱です……。
 
澪:ふーん。1年生はグループで遊びにとか行かないの?あたしの時いたわよ?基礎ゼミとかのメンツで近場に遊びに行った子たち。
 
若菜:私たちのゼミはみんなそんなに仲良くないというか……それなりに距離を取り合ってるので……。
 
澪:……まぁそういうゼミもあっていいと思うわ。
 
若菜:そうですよね!みんながみんな仲良しじゃなくても、何にもおかしくないですよね!
 
澪:友達とランチしないで、ずっとあたしと食べてるのもどうかと思うけど……
 
若菜:だってーみんな食堂行っちゃうんですもん。私混んでる所ヤなんですよー
 
澪:……あなたはそれでいいの?
 
若菜:え?
 
澪:同年代のこと仲良くなりたくないの?なんだかんだで同期って大事よ。色んな情報交換できるし。
 
若菜:そういうわけじゃないですけど……普段の授業で会うだけで十分ですよ。
 
澪:ふーんそういうもんかしらねぇ。
 
若菜:それより!センパイのオススメ授業の英米文学入門なんですけど
 
澪:あぁアレ。どう?おもしろい?
 
若菜:そうですね……高校の英語の授業よりかは楽しいです。
 
澪:そうねぇ……言われてみればそうかも。
 
若菜:それでゴールデンウイークの課題でですね、映画を何本か見て感想を書けって言われてて……
 
澪:あぁ。あたしもそれやったわ。シェイクスピアとかディケンズとかだっけ?
 
若菜:そうですそうです。その人の作品を何本か見て、比較して……ってやつです。
 
澪:懐かしい。わざわざ配信サービスで借りて観たっけ。
 
若菜:へぇ……センパイは何を見たんですか?
 
澪:あたしはたしか……ヴィクトル・ユーゴーの「レ・ミゼラブル」だったかしら。
 
若菜:あのミュージカル映画ですか?
 
澪:えぇ。何年か前に舞台も観に行ってきたし、映画と小説と舞台を比べれば文字数稼ぎもできるでしょ?
 
若菜:な、なるほど……
 
澪:映画はまぁ面白かったわ。舞台の方があたしは好きだけどね。
 
若菜:舞台かぁ……私そういうの見たことないんですよね。
 
澪:臨場感があっていいわよ。チケットは映画の何倍もするけど……1回は行ってみてもいいんじゃない?
 
若菜:そうですねぇ……バイト頑張ります……。
 
澪:で、あなたは何の映画を観るの?
 
若菜:んーどうしようか迷ってて……。ちょっと古いんですけど「ロミオとジュリエット」がいいかなって。
 
澪:たしか……30年くらい前の映画よね?
 
若菜:観たことありますか?
 
澪:観たことはないけれど……そういう映画があるのは知ってるわ。
 
若菜:そうなんですね。原作も授業で読みましたし、そこそこ有名なんで本とかも図書館にあるらしいんでそれでいいかなって。
 
澪:いいんじゃない?無難に。あたしはあの話結構好きよ。
 
若菜:最期はとっても哀しいのに?
 
澪:そうかもしれないけれど、なんというか……
澪:ご都合主義っていうか、無理やりハッピーエンドにならないのがイイのよ。
 
若菜:あの2人は結ばれませんでしたからね……少なくとも現実の世界では。
 
澪:それでいいのよ。ま、文学的には救いがないといけないらしいから?両家は和解するってエンディングになってるらしいけど。
 
若菜:……気に入らないですか?
 
澪:別に。ただ、そんなに丸く収まるのかなって思うだけよ。
 
若菜:ま、フィクションですから……
 
澪:そうね。そういえば……ロミオとジュリエットなら、確かタカラヅカでも何回か上映してるはずよ。
 
若菜:あぁ……あの女性だけの劇団ですか?
 
澪:えぇ。あたし結構好きで、何年か前にテレビで観たの。結構良かったわよ。
 
若菜:テレビ?テレビでやってるんですか?
 
澪:CSに専門チャンネルがあるのよ。中々チケットが取れないから最近は専らそれね。
 
若菜:へぇーそんなのがあるんですね。
 
澪:ま、映画が面白ければレポートもそんなに苦痛じゃないから。なんとかなるわ。
 
若菜:そ、そうですか……。それでですねセンパイ。
 
澪:ん?
 
若菜:その……映画なんですけど……一緒に観ませんか?
 
澪:は?
 
若菜:なんとなく1人で観るのも寂しいですし……せっかくなら誰かと感想共有したいじゃないですか!
 
澪:気持ちはわからなくないけれど……それこそ同じ授業をとってる子と観たらいいんじゃない?
 
若菜:それじゃあテーマ被っちゃいますよ。
 
澪:……それもそうね。
 
若菜:ね、お願いしますよ。私センパイの部屋に行きたいです!
 
澪:なんであたしの部屋なのよ……
 
若菜:え?なんとなくいい匂いとかしそうですし……センパイそのまま泊まらせてくれそうなんで。
 
澪:どうしてそうなるのよ……
 
若菜:いやぁ2人もバイトがありますから、集まれるのは夜じゃないですか?
若菜:夜に映画観たら、そのまま泊まって、朝起きたらバイトにそのまま行けるじゃないですか!
 
澪:まぁ確かにスケジュール的には夜しかないけれど……
 
若菜:ね、いいじゃないですか。女同士でお泊りデートしましょうよー。なんかお菓子買って行きますからぁー。
 
澪:……まぁいいわ。どうせゴールデンウイークも暇だし。息抜きにちょうどいいかもね。
 
若菜:ほ、ほんとですかぁ!やったぁー!
若菜:え、じゃあ連休真ん中のこの日とかどうですか?
 
澪:いいわ。じゃあその日に……
 
若菜:バイト終わりに、先輩の部屋の最寄り駅まで行きますね。
 
澪:わかったわ。じゃあ時間とかは、お互いのシフトとか考えてから決めましょう。
 
若菜:わかりました!楽しみー
 
澪:(モノローグ)こんなにはしゃいじゃって……そんなに映画観るのが楽しみなのかしら?


若菜:あ、じゃあセンパイ、私これから3限なんで……
 
澪:もうそんな時間?あたしも次講義なんだ。
 
若菜:じゃあもう行かないとですね!
 
澪:えぇ。またラインするから
 
若菜:えへへ。それじゃあまた
 
 
ト書き:そういって若菜は授業へと向かった
 
 
 
 
 
場面転換
数週間後・昼下がりの休日。
 
 
 
 
若菜
澪センパイに一目惚れして約1か月。
やっとお泊りにまでこぎつけられた……。
 
毎日お昼ご飯一緒に食べてる甲斐があったなぁ。
 
なんとなく感じてはいたけれど、やっぱりガードが堅い。
まさに難攻不落……。
そもそもそれなりに評判のいい女子大で、あんなに美人なのに彼氏の一人もいないだなんて、周りの人の見る目がないか、自分から壁を作ってるかのどっちかに決まっている。
 
でも大学の他の人曰く、悪いうわさもないしなんなら評判もいいくらい。
なら絶対に後者。
ほかのカワイイ子に取られる前に、なんとしてもセンパイのことをゲットしなければ……
最悪既成事実をつくっちゃえばいいんだけれど
どうしたものか。
いくら部屋に入れてくれたからって、あのセンパイが無防備なワケがない。
そのまますんなりベッドに入れてくれるとは考えにくい。
ムムム。
部屋に入れてもらうことばかり考えててそこの所は考えてなかったなぁ。
ま、明日までまだ時間あるし。
バイトしながらゆっくり考えるとしよう。
 
それにしてもセンパイの部屋ってどんな感じなんだろう。
あんな大人っぽいというか、エレガントというか、
絵にかいたような茶髪ロングの清楚な大人の女性
きっと部屋もキッチリしてるんだろうなぁ。
 
そんなセンパイとお泊りデートかぁー
楽しみすぎて今日寝れないかもしれない。
 
 
 
同刻
 
 
 
 
 
 

あたしにあんなカワイ気はない。
だから率直に言って羨ましい。
別に愛嬌を振りまきたいとか、男にチヤホヤされたいってワケじゃない。
ただ、あの自然とにじみ出ているモノがあたしにはないってだけ。
なんだかんだ人って、自分にないものを欲しがったりする。
多分、あたしもそれだろう。
 
もしもあんな愛嬌を持っていたら、あたしの人生は変わっていたのだろうか。
もっと簡単に手に入れたいものをいれられたのか
苦戦してたことが、いとも簡単できるようになっていたのか
 
わかってる。
そんなことを考えても仕方がない。
ないものねだりほど意味のないものなんてないんだから。
 
彼女のことは……スキかキライかでいえばスキ。
可愛らしいところもあるし、健気で、きっと素直なんだろう。
 
そういう子はみんなに好かれる。
場にいれば和むし、合コンにいれば真っ先にターゲットになるタイプ。
 
純粋なぶん、どこかあぶなかっしい……
ともいえてしまう。
 
ちょっと心配。
変な男に騙されないといいんだけれど……。
 
 
 


 
 
場面転換
翌日夜10時30分頃・澪の部屋で
 
 
 
 



 
若菜:お、お邪魔します。
 
澪:どうぞ。あんまり広くないけれど。
 
若菜:いえそんなそんな……
若菜:おぉ……
 
澪:ん?
 
 
 
  暖色の照明に照らされ澪の部屋は静寂と優雅さに包まれている。
  ベッドはペールピンクのシーツで覆われ、その上にはシルクのクッションが華やかに並べられている。枕元には静寂を保つため、シーツと同じ色のカーテンが引かれていろ。部屋には澪が身に纏っている香水の優雅な香りがただよっている。
  テレビの前には澪の趣味をうかがわせる本が何冊か整然と配置されている。テレビとベッドの間においてあるシンプルなテーブルには、開かれたノートや美しい筆記具が並んでいて、彼女の知的な一面を窺わせている。
 
 
 
若菜:澪センパイの部屋……センパイみたいな感じですね……
 
澪:なにそれ?どういう意味よ?
 
若菜:いやぁ……大人っぽいエレガントな部屋というか……いい匂いがする部屋というか……ともかくステキな部屋って意味です!
 
澪:ふぅん。……ありがとう。
 
若菜:えへへ。
若菜:えっとこのコートは……
 
澪:あぁ……そのクローゼットの中のあいてるハンガー使って。
 
若菜:ありがとうございます。
 
  ト書き:クローゼットを開ける
 
若菜(モノローグ):おぉ……めっちゃ澪センパイの香りがする……
 
澪:映画観る前にシャワー浴びていいかしら?
 
若菜:え、あ、えぇ……そうしましょう!
 
澪:そう。じゃ、先どうぞ。
 
若菜:え、いいですよ。センパイの部屋なんですし……センパイが先にどうぞ。
 
澪:そういう時は甘えるものよ。センパイをタテなさい。
 
若菜:じゃあ……お言葉に甘えて。
 
澪:あ、バスタオルとルームウェアは出しておいたから……
 
若菜:ありがとうございます。部屋着まで貸してもらっちゃって……
 
澪:いいのよ。このままバイト行くのに、荷物が多いと大変でしょう?
 
若菜:ま、まぁ……じゃあお先にシャワー借ります。
 
 
 
 
10分後
 
 
 
 
若菜:あの……お借りしました……気持ちよかったです……。
 
澪:そう。じゃ、次あたし入るから。
 
若菜:あ、はい……待ってます。
 
 
若菜(モノローグ):この部屋着めっちゃイイニオイする……澪センパイのニオイだ……
 な、なんだか緊張する……
 
 
 
 
数分後
 
 
 
 
澪:お待たせ。
 
 
  ト書き:部屋着に着替えた澪がお風呂場から戻ってきた。
 
 
 澪が身につけている淡いラベンダーのトップスと7分丈のショートパンツは、女性らしさ引き立てている。
湿ったままの流れるような髪は肩に垂れ、軽やかな艶を帯びている。そこから漂ってくるふんわりとした良い香りが彼女の大人な雰囲気と相まって、まるで芳醇な花々に囲まれているような錯覚を覚えるほどだった。
 
 
若菜:い、いえ……
 
澪:モノローグ:澪センパイの部屋着姿も美人だなぁ……
 
若菜:センパイってお風呂にはあんまり入らないんですか?
 
澪:そうねぇ……次の日に予定が何もないときとか、今みたいに誰かが待ってるときには短くシャワーにするけれど……
澪:それ以外の時はお風呂沸かしてるわよ。
 
若菜:あ、なんか気を遣わせちゃってすみません……
 
澪:いいのよ気にしなくて。あたしお風呂長いし。
 
若菜:へぇ……音楽とか聴いてるんですか?
 
澪:そういうワケじゃないけれど……疲れた日はスクラブとかするから。
 
若菜:あぁ……なるほど。あ、そういえばシャンプー借りました。
 
澪:あぁ。あなたの髪に合うといいんだけれど……
 
若菜:多分大丈夫です。センパイのシャンプーとトリートメント、とってもいい香りがしますね。
 
澪:そうでしょ?ロクシタンで2000円くらいだし、髪にも合うしで、結構気に入ってるの。
 
若菜:へぇ……ロクシタンですかぁ……
 
澪:ま、実は全部ロクシタンなのよ。香水もハンドクリームも。
 
若菜:好きなんですか?
 
澪:まぁ好きっていうか、色々なお店に行くのめんどくさいから、全部1か所で買っちゃってるだけなんだけどね。
 
若菜:あー。その気持ちわかります。
若菜:休みの日にお店巡りしてると時間あっという間に過ぎちゃいますしね。
 
澪:そうなのよ!
澪:それはそれで楽しいんだけれども、いつの間にかクタクタになってるし。
澪:結局1か所でそろえちゃった方がいいのよ。
 
若菜:そうでよねぇ。
若菜:……ロクシタンかぁ……私も今度行ってみよ。
 
澪:それより……そろそろ映画観る?もうすぐ12時になっちゃうし。
 
若菜:あ、そうですね。お菓子かって来たんで、食べながら観ましょ。
若菜:プリンもありますよ!
 
澪:なんか悪いわねぇ。気を遣わせちゃって。
 
若菜:何言ってるんですかー泊めてもらうんだから、これくらい当然ですよー
 
澪:じゃ、つけるわよ。
 
若菜:はい。お願いします。
 
 
 
 
 
場面転換
深夜2時頃・映画を観終わった2人……
 
 
 
 
 
澪:やっぱり映像で観ると違うわねぇ。
 
若菜:えぇ。ドレスとか小道具が鮮明に観えるぶん、より物語の世界に入っていける感じがしました。
 
澪:そうねぇ。雰囲気がわかりやすく醸し出されているからか、ストーリーに集中できるのかもしれないわねぇ。
 
若菜:役者さんの表情とかで、キャラクターの感情とかも大体わかりますしね。
 
澪:まぁね……。あたしはそういう部分は本で読むほうが好きだけどね。
 
若菜:文字の方が正確ですしね。
 
澪:それもそうなんだけど、やっぱり映画だと監督さんとか脚本家の考えがどうしても反映されちゃうでしょ?
 
若菜:あぁ確かに!原文なら作者の書きたかったことがそのまま読めますからね。
若菜:そっちのほうがいいかもしれませんね。
 
澪:まぁでも、今回は小説と映画の比較だから、きっとそういうことを書けばいいんでしょ?
 
若菜:そうかもしれませんね。素直に違う所を挙げて、映画は独自の解釈がなされている……みたいなこと書けばいいんですかね。
 
澪:そうなんじゃなくて?よく覚えてないけれど、あたしもそんな感じで書いたと思うわ。
 
若菜:はぁ。書けそうですけど、いざとなると面倒ですね。
 
澪:そんなもんよ。まだ時間はあるんだから、ゆっくりやりなさい。
 
若菜:はぁい。
 
澪:じゃ、そろそろ寝ましょうか。もう朝の3時近いわ。
 
若菜:うわ。ホントだ。バイト午後からにしといてよかったー。
 
澪:じゃあちょっと待ってて。泊まる人用の布団があるから……
 
若菜:あ、ちょ、ちょっと待ってください!
 
澪:ん?
 
若菜:あの……その……センパイ……一緒に寝ません?一緒のベッドで……。
 
澪:……。
 
若菜:ダ、ダメ……ですか?
 
澪:……まぁ……いいわよ。
 
若菜:あ、ありがとうございます……。
 
 
ト書き:若菜はそっと澪のベッドに入る。
 
 
澪:じゃ、電気消すわよ。
 
若菜:はーい。
 
 
 ト書き:電気を消した澪は、若菜の隣に横になる。
 
 
若菜(モノローグ):うわぁ……センパイすごいイイニオイする……
 
澪(モノローグ):若菜……スゴイ甘い香りがする……
 
 
若菜:センパイ……
 
澪:ん?
 
若菜:私……好きです。センパイのこと
 
澪:……知ってる。
 
若菜:そ、そうじゃなくて……
 
澪:だから……わかるから…‥言わなくても……
澪:そういうこと……なんでしょ?
 
若菜:……そういうこと……です
 
澪:もぉ……
澪:いつ言ってくるかってずっと構えてたんだから。
 
若菜:……どうしてわかったんですか?その……
 
澪:わかるわよ。雰囲気でなんとなくね。
澪:まだベタベタしてこなかったから半信半疑だったけどね。
 
若菜:そう……ですか……
若菜:じゃあ今からベタベタしていいですか?
 
澪:あたしがイイって言うと思う?
 
若菜:……ここまできて、ダメっていわれて引き下がると思いますか?
若菜:おんなじベッドの中にいるんですよ?
 
澪:そうね……。
 
若菜:ん!
 
 
 澪は彼女のことを抱きしめる。澪の首筋から胸にかけてのラインに明日奈の小さな顔がうずくまる形になっている。
 
 
若菜:セ、センパイ……
 
澪:うるさい……せっかくの静かな夜なんだから。
 
若菜:……
 
澪:……あなたの髪、あたしと同じ香りがする。
 
若菜:……イイニオイしますか?
 
澪:いい香り。
 
若菜:えへへ。
 
澪:……あたしもあなたのこと好きよ。
 
 
  ト書き:しばらくの沈黙
 
 
若菜:センパイ……今はこのまま……このまま眠ってしまいたいです……。
 
澪:……そうね。
澪:おやすみなさい。
 
若菜:おやすみなさい。また明日。
 
 
 部屋には静けさが漂い、時折2人の寝息と時計の音が、静かな詩を奏でているようだった。
 
 
 
 了

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