【読書記録】北の大地の怒りを感じた「肉弾」
河﨑秋子「肉弾」を読みました。
この小説に贈られた言葉「熊文学の新たなる傑作」が気になりすぎて。なんせ「熊嵐」が好きですから。クマのプーさんも。
狩猟と小説は相性がいい。
自然の描写から、どこに敵が潜んでいるかわからないホラー的な怖さ、最期には自然との共存といったテーマ性も感じる。どこをとっても読みごたえがある。
熊の習性として、獲物を一度で殺して終わりじゃなくて、しばらくとっておくところもいい。
犠牲者を見つけたハンターが、知り合いが殺されて無残に食べかけで残されているのを見て、あいつを守れなかった、次は自分の番だ、と震える。
「肉弾」は、裕福だけど生きがいのない青年が、会社社長の父親に「男らしくなるため」猟銃所持の免許をとる。
ただし、社長室のシカの剥製の自慢話が止まらない父と違って、息子は引き金を引く直前にためらってしまう。
強引で迷惑で、だけど会社経営の腕はある父と、反発してるけどすね齧りに甘んじている息子が北海道へ鹿狩りにいく。その機内から話は始まる。
序盤で「親子と熊が出会ってしまって、息子が乏しい経験と銃で戦うことになる、そういう筋書きだろう」
と予想できる。実際にそれは間違いではない。
ただ、タイトルの「肉弾」が気になる。「銃弾」だったら撃って終わりだろうけど、肉弾とは。
そう「肉弾」の通り、少年は拳で獣と戦わなくてはいけない状況になる。
クマ小説だけど、その前に人間が主人公の青春小説だった。
さらにベースには「北の大地に住む者の静かな怒り」を感じた。
本州から北海道に来るのは主人公親子だけじゃない。
観光地に「名物とおいしい空気を味わいに行きましょう」のノリで来て、ちょっとした?やらかしをしてしまう人たちがいる。
余計なことをした者たちと、北海道の環境が合わさって悲劇が始まる。
動物の描き方がドライで、ただ彼らは喰らうために戦い、強さの前には服従する。死んだら死んだまで。可愛くて忠実な、擬人化した獣はいない。
ページのあいだから唸り声をあげてこちらの寝首をかこうと狙っている。