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【読書】日本で虐げられた一族が、英語を武器に新しい生き方を選ぶ【PACHINKO】
差別、貧困、戦争。全部飲み込んで命をつなぐ!
ミンジンリー「PACHINKO(パチンコ)」は、朝鮮半島から大阪に移り住み、ザイニチと呼ばれた4代にわたる一族の物語だ。
作者が書き始めたきっかけは、日本でいじめを受けて自殺した在日朝鮮人の少年の事件だが、何年も取材を重ねて書き直していく中で、スケールは大きくなり、差別反対のメッセージだけじゃなく、人間賛歌になった。
小さな村に住む貧しい一族が、住む場所を変えながら、ひたすら生きて、子供を育てて、働いて、それが全て尊い!
自分の祖先も、何代も苦労を乗り越えて、いまの自分に繋げてくれたんだ! そんなことまで考えられる話になった。
起源は朝鮮、日本育ち。一族の歴史がパチンコの歴史に重なる
1910年から80年近くにわたる物語の中で、印象的なのがノアとモーザスの兄弟。(キリスト教にちなんだ名前)
兄ノアは高潔に生きたくて、貧しくても誰よりも勉強していい大学に入ろうとする。
弟モーザスは筋の通った不良キャラで、売られたケンカは買う。金を稼ぐのが面白いから勉強も早々にやめて、コリアンが関わるパチンコ屋の世話になる。
生きるためにパチンコ屋の仕事も楽しんでやる明快な弟。ろくでなしの集まる場所だ、と嫌悪する兄。
エリート路線を行っているけど足元がふわふわしてる兄ちゃんにいちばん共感できる。
自己紹介するとき、いちいちルーツから説明するのも面倒で日本名を名乗る。祖国へも日本にもキリスト教にも特別に愛があるわけでもない。
「高潔に生きたい、ヤクザやパチンコとは関わらない!」と理想は高いんだけど、自分は「なにもの」で、何をしたいのか。戦争経験者の親からすれば贅沢すぎる悩みをずっと抱えている。
朝鮮にルーツがあり、日本で発展した「パチンコ」が在日朝鮮人の歴史と重なる。
最初はふしぎだったタイトルに、後半で震えた。
実際は韓国起源説は確かではないらしいけど、パチンコって、ラーメンやカレーのように日本で独自の発達をして、韓国では規制され、いまや日本のものになっている。
長い歴史を持ちながら、法の抜け道で生き残ってきた暗さがあり、どこの田舎でも妖しいネオンで労働者たちを誘っている。
必死で生きている主人公ら一族の歴史と、パチンコの歴史を重ねているように見えてしまう。それが悲しい。
次々と登場人物が生まれては死んでいく。それは「出玉」がかすかに期待されて発射されてもすぐに消えていくさまに重なる。
英語が人生を変えることに日本人より早く気づく
何年も日本で苦労してきた一族が、あたらしい人生のために始めたことが「英語の勉強」なのが面白い。
K-POPアイドルは、韓国でファンが増えても人口の限界があるから、日本語や英語を学んで海外に出るほかなかった。
なんとなく始める勉強ではなく、切実に、未来を拓くために英語が必要だ。新しい場所や新しい仕事を選ぶために。
労働でその日をしのいできた家族が、勉強で明るい未来を目指す。
PACHINKOの時代から30年ぐらいたった現在。「BTS」が欧米でもヒットチャート1位を獲り、「イカゲーム」だったり「半地下の家族」だったりドラマや映画がいくつも大成功している。いっぽうで女性たち(作中で延々男たちに振り回される)は「82年生まれ、キム・ジヨン」を書いた。
はじめに日本で韓国ドラマや映画が紹介されたときは「珍味」の扱いだった。エンターテイメントで日本をぶちぬいて欧米で活躍するなんて考えられなかった。
PACHINKOを読むと、長い長い地盤固めの時期があって、ようやく芽を出したのがわかる。命も文化も、急に栄えるわけなじゃい。志半ばで倒れた祖先たちの犠牲の上で咲いた花だ。
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