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おすすめ記事・レビュー

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ここを読んでいっこも興味がわかなければ、残念ながらぼくはあなたにとって価値がない。
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#読書記録

元旦にカラマーゾフの兄弟・読破

カラマーゾフの兄弟5巻が元旦に届いた! 年賀状が一通も届かなくて、これ一冊がポストに入っていた。 5巻はエピローグと、ほとんどが解説だったので、本文は…全部読んだ! ハタチまでマンガしか読んだことなかった僕が、 ドストエフスキー、カラマーゾフの兄弟全5巻、読了! 「罪と罰」は下巻に入ったところで止まったから、初めてドスエフ読めた。 他の翻訳では無理だった。亀山訳だから読めた。 あと、しおりに人名がフルネームで書いてるから読めた。 ロシア文学は同じ人を苗字や名前やあだ

龍が如く外伝とワンピースの前に、原点の「宝島」の宝は何だったのか読んでみた

ワンピースが終盤だったり、龍が如く外伝のテーマが海賊だったりするじゃないですか。 この手の話は「伝説の宝とはいったい何なんだ!?」ってナゾが重要だけど、そもそも最初の「海賊の宝の地図もの」の宝箱には何が入っていたのか。 原点を知りたくてスティーブンスン「宝島」を読んだ。同作者の「ジキルとハイド」は読めなかったけど、訳も新しくて少年の心で読めた。 原点じゃなかった。 この本以前にも海賊伝説は山ほど、いや海賊に山のたとえはダメか。・・・押しよせる波の数ほどあった。宝島はそれら

【読書日記】「三四郎・それから・門」

「それから」を読んだ。学校で「坊ちゃん」を勧められても読まなかった記憶があるのに、大人になって、自分で読みたいから自分で稼いだ金で文庫本を買って、1日2行しか進まない日もあるけど、少しづつ、自分で読みたいから読むことができた。 読書感想文でもない、作者の考えを読み取るでもない、ただ100年前の人の言葉使いとか、文章が好きだから読んだだけ。 この時代とは人生の長さも、きいてる音楽の速さも違うのに、心地よい会話のリズムが同じなのはなんでだろう、と思いながら。 「それから」は

Tシャツから逆算して本を選ぶ

フィリップ・K・ディックのユービックという小説を買った。 ハヤカワSFが出しているTシャツになっている。 意味のわからない英字や思想の服を着るのが嫌だ。 特にTシャツって自分を表現するものだから、ニルヴァーナのロゴをバンドだと知らずに着てたり、知らないメジャーリーグのチームとか読めない外国語とか、そういうのを身につけるのが嫌。 迷彩やARMYとか戦争に関連したデザインが入っているのも、すすんで着たくない。 服のセンスはないのにそういうこだわりだけがある人がゲームや本のデ

西村亨「自分以外全員他人」で人生からドロップアウトしたくなった思春期に戻る

たぶんですけど、みんな意味もなく人生からドロップアウトしたいと思った日々があったはず。あっても口にしないだけ。何度も人生が無意味だと思った日があるはず。 年齢を重ねて「しんどいこともあるけど、見たいところも好きな人もいるしボチボチ生きていこう」とか思いながら生きているうちに、若いころの憂鬱なんてなくなって長生きを望むようになるもんだと思う。 「自分以外全員他人」は、若いころからうっすら死にたい気持ちのまま40代になった主人公が、いまでも「消えたい気持ち」をかかえたまま、保険

SF小説の未来予知が間違っているとkawaii【読書記録】

アーサー.C.クラーク「火星の砂」を読みました。 1950年ごろ書かれたもので、SF大家の長編2作目になります。開拓中の火星を訪れた作家の物語。 初めての宇宙旅行で離陸に緊張する主人公、「水鉄砲式」で水分を補給していたが重力が戻ってくると嬉しくなってコーヒーを器に入れて飲みたくなる船員。つい持っていたものを落としてしまい、いけねえ重力あるんだった重力重力、ってなる感じ。 火星探索の前に「無重力あるある」がたくさん出てくる。 70年以上も前に書かれた小説で、火星に生き物がい

【読書】すっぽん鍋に語彙を失い、追撃の焼きすっぽんで頭のネジが飛ぶ。獣系ワイルド飯テロ【肉とすっぽん】

平松洋子「肉とすっぽん」を読みました。 牛、鴨、鹿、羊、鳩、くじら。動物たちを解体して料理している人たちに取材したルポ。 こういう内容って、どうしても「生き物を殺して食っていいのか」要素が多くなるけど、それがそんなにない。動物たちはみんな与えられた生を全力で動き回り、人間たちは人生をかけて磨いた技術で、臭みをのこさず最高の肉にするため真剣に挑み、それを取材する平松洋子の言葉の選び方は肉の旨さと食肉の歴史と料理人の歩みを最大限に上手く記す。 それぞれの全力がバチバチにぶつかっ

【読書】太田光をぎゅ〜っと原稿用紙1200枚に圧縮したら。 笑って人類!

爆笑問題の太田光書き下ろしSF長編娯楽小説「笑って人類!」を読んだ! 完全なネタバレはしませんがある程度内容にふれて語りたい! お笑い芸人がお笑い以外のジャンルで、ふだん表に出さない過去や暗黒面をぶつけてくるパターンがある。 ビートたけしが北野武になるんだら、太田光が超絶ダークな内容できてもおかしくないと身構えて買ったのに、出てきたのは愛するSF、ギャグ、ミステリー、オタク文化への愛もある、娯楽大作。近い系統でいえば「三体」だった。 「フロンティア」と「ピースランド」。

【読書】お嬢さま、オムレツ作りで熊撃ちのパートナー志願!「夏子の冒険」

男たちの誘いを断り続けてきた「お嬢様」がハンターの青年に出会い、あたくしも人喰いグマ退治に付き合いますわと言い出し、お母さまおばあ様大慌て。 「お嬢さまキャラ」ものです。 金持ちの家に生まれただけの「富裕層」なだけではなく、この人の言動がいいからページをめくらせる、そういうパワーをもっている。 2022年でお嬢様キャラとして名を挙げたのはバーチャルユーチューバーの壱百満天原サロメ嬢という人なんですが、そこからだいぶ源流へさかのぼると三島由紀夫「夏子の冒険」にたどりつく。

西部の「空気読み」。アカデミー監督賞「パワー・オブ・ザ・ドッグ」原作冒頭は今年ベスト級!

村上春樹原作の「ドライブマイカー」がアカデミー賞の話題を独占したように日本では報道されたけど、監督賞を受賞し台風の目となったのが「パワー・オブ・ザ・ドッグ」だ。 この原作が「事件」だ。 ゲイの作家が牧場ですごした実体験がもとになっていて、映画化されるまで埋もれていた小説で、発刊年1967年から50年たって、初めて日本語訳された。 舞台は今から100年ほど前のモンタナ州。西部劇の世界。ほこりまみれの世界で、ひげをたくわえて馬を操り、獲物を解体して肉と毛皮にする「男らしさ」が

【読書】少女愛、義理親娘、寝取られ、妊娠、復讐。ナボコフの「ロリータ」

シャーロックホームズと同じくらい、読んでない人でも知っている小説の登場人物。ロリータ・コンプレックスのもとになったウラジーミル・ナボコフの「ロリータ」を読む。 精霊ニンフのような魅力を放つ「ニンフェット」の少女と、愛する者、愛された側の関係の物語。完全にネタバレします。 冒頭で「ロリータ」の名前の呼び方、授業でやったような発声法から始まる。 舌が口蓋を2歩下がって3歩目に歯を軽く叩いてロリータの「タ」を発音すると書いてあると、多くの読者がつい同じように名前を呼んでしまう。ロ

ディーパ・アーナパーラ「ブート・バザールの少年探偵」

インドのスラムで起きた、子供の失踪事件。 スラムが題材の作品は「スラムドッグミリオネア」、小説だと「三つ編み」を読んだけど、それらが航空写真としたらこっちはハンディカメラで潜入したよう。 子供の視点まで姿勢をさげて、風景を細かく切り取る。 インド出身で貧困層の取材をしていたジャーナリストでもある作者が描く、スラムの少女が見つめる手のひらの描写はこんなだ。 「指のまわりにぐるっとできたマメやタコを見た。水くみで運んだバケツの数、切ったナスの数、洗ったシャツの数のぜんぶの記

2020年に読めて良かった本。 リモートワーク殺人事件「はだかの太陽」

自分以外でもSFの面白さに目覚めたひとが多い一年だったのかな。「1982年」が突然話題になったりしていたけど、2020年に読めたことも含めて充実感でいっぱいになって、みんなにも読んでほしいのは「はだかの太陽」。 PS4の「デトロイト」のような刑事コンビのリモートワーク小説だ。 徹底的に管理されて、人々は触れ合うことなく、何十体ものロボットに世話されてくらす、トラブルの全くない星。 この星で殺人事件が起きる。 争いごとの全くない惑星なので対処ができず、地球の人間&ロボットの

読書記録「フランケンシュタイン」

自分の作品が急に醜く見えることを「フランケンシュタイン現象」と呼びたい。 夢が詰まった自作マンガや小説を、発表したとたん直視できなくなったことはありますか?動画や写真を回収したくなったことは? 私はあるぞ。 フランケンシュタインの作者メアリー・シェリーは、父が無神論者、母はフェミニズム運動の創始者とも呼ばれる女性。 無神論者の娘が10代で書き始めた、人間をつくる小説。 書かれた200年前は、たいへん不吉な書だったろう。魔術で死者を蘇らせるとかはあっても、「電気ショック」で