【読書日記】ふがいない僕は空を見た

「ふがいない僕は空を見た」窪 美澄;作

私は「性」の描写のあるものがどうも苦手だ。

内容

連作短編。高校一年生の「おれ」目線で描かれる「ミクマリ」。「おれ」は主婦のあんずの部屋に行き、コスプレをして逢瀬を重ねている。
あんず目線で描かれる「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」。あんずは里美という名前の主婦で、アニメが好きな不器用な女性。慶一郎という夫との生活に違和感を感じながらどこへいく当てもなく、不妊治療を続ける一方で、「おれ」であるところの斎藤くんと出会い、不倫をするようになる。
斎藤くんの同級生で、斎藤くんに想いを寄せる松永目線の「2035年のオーガズム」。斎藤くんの様子がどんどんおかしくなっていくこと、斎藤くんが自分と付き合おうとしながら、実はコスプレをしながら不倫をしていたことを知り、行き場のない気持ちを抱えている。
斎藤くんの友人の福田目線で描かれた「セイタカアワダチソウの空」。福田は団地に住み、父親がおらず母親もでていき、認知症の祖母と二人暮らし、生活に不安を抱えている。
そして、助産院を営む斎藤くんの母の目線で描かれた「花粉・受粉」。


感想

なぜ、「性」の描写が苦手なのか自分でも分からないのだけれど…。
一つには、私が本を読んでいると長男が不意に横からどんなものを読んでいるか気になって覗き込んでくるから、ドキドキしてしまう、と言うのもあるのだけれど。
まあそれはさておき…
最後の「花粉・受粉」を読むと、これまでも性の描写も全てここに繋がるのかな、必要なことだと思うほどに、それは命の物語で、初めの「ミクマリ」にしても斎藤くんは自分の家が助産院で、それを恥ずかしがることも嫌がることもなく、進んでお産の手伝いをしている。
そして、お産というものを日常的に受け入れてきた斎藤くんだからこそ、あんず(里美)に仙骨が冷えるとよくない、と不意に声をかけたり、すごくナチュラルな優しさを持っているのだ。これまでの人生で人から大事に扱われた経験の乏しい里美が、自分を優位に立たせたいためにだけ結婚したような慶一郎との不妊治療に疲れていた時に、ふと斎藤くんの優しさに触れ、その関係にのめり込んでいく。
そして、続く松永や福田のストーリーはまた、高校生という子どもと大人の間で、自分が親にとってどういう存在か、世界にとってどういう存在かを悩んでいるような描写がある。
助産師である斎藤くんの母親もまた、助産師という仕事につきながら、命というものに押しつぶされそうになり、そして子育てに悩んでいる。
彼女は一人で助産院を経営している。「自然の」分娩を望んでやってくる産婦。「自然の」という言葉が意味するところを説明しきれず、言葉を飲み込み、それでも必要最低限のことを伝え、仕事に邁進してきた日々。

自分のなかの、このもやっとした気持ちを、中国人のリウ先生にうまく説明できるか自信がなかった。寿命だから、運命だから、仕方がないのだとリウ先生以外の人にも言われたことがある。あの子たちはほんの短い日数で自分の人生を全うしたのだと。でも、もし本当に寿命や運命だとして、なんだって子供たちはそんなに短い人生を過ごすために、この世に生まれてくるのか、その意味を私にもわかるように教えてほしかった。全身を震わせて小さな棺に取り縋るようにして泣く若い親の姿を見るたびに、そう思った。どんな宗教も、前世が、生まれ変わりが、というオカルティックな話にも、私は納得できなかった。誰でもいいから、ああ、あの子たちの短い人生にはそういう意味があったんですか、と私を納得させてほしかった。

斎藤くんのコスプレの写真がバラ撒かれて、世間から「助産院の息子だから」と言う中傷を受け、悩むが、斎藤くんという優しい男性が出来上がりつつあるということは、彼女の人生の救いとして、最後締めくくられていた。

こちらは、noteのあおさんの記事を読んで、面白そうだなと思って読んだ。
あおさんの感想の通り、面白い本だった。
窪美澄さんは初めて読んだけれど、また機会があればぜひ読みたい。



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