ナンバープレート
みつき、コロナ禍でリモートワークをしているときに、ウオーキングを始めたんだ。
早起きして、少し離れた公園まで往復するんです。人ともほとんどすれ違わないし、運動不足解消とストレス軽減になったの。すっかり習慣になって、今でも続けているんです。リアル出勤のない日や休日だけだけど。
で、ウオーキング中に、車のナンバープレートで頭の体操をすることにハマってしまったのよ。
いま通り過ぎたのは9174。「悔なし」。北斗の拳、ラオウ様!
あそこの自動車修理工場にあるのは、あ、8534だって。「ハゴーさよ」。ばっちいなあ。琉神マブヤーに出てくるクーバーの車か。
路肩に停まっているのは8377。まああ、「はみ乳」ですって、いやらし。
ん? 信号待ちしているのは3618。 サブロクジュウハチ、掛け算ナンバー、かつ足し算で9と9。超激レアだわ!
バスが来た。1093。うーん。てん、く、さ……むずいぞ。あ、天の草で「天草(あまくさ)」行きね。島原の乱か。キリシタン弾圧に対する武力闘争を描いた飯嶋和一さんの「出星前夜」はすごかった。彼の歴史小説は、大人物ではなく、権力にプロテストする農民・町民・下級武士が主役なのがお気に入り。だって、わたしも市民のひとりにすぎないんだから。彼の作品は、どれも長編だけれども、ぐいぐい読めるおもしろさ。まさに「飯嶋和一に外れなし」ね。
なんて、ことをつらつら考えながら歩いているんです。
ちなみに、わたしのナンバーは1688。ひねりようがない、ありふれた数字よね、と後輩のエイコに話したら、
「すごいナンバーですよ」
「え?」
「中国語でイー・リュー・パー・パー。発音の似た漢字を当てると一路发发。意味は、富裕層へ一直線」
「なんと」
エイコはいま、中国語の勉強をしているのよね。
「このナンバー、中国だったら高額で売れるかもよ」
「ほんと? あっと驚くタメゴロー!」
「古! せめて、びっくりしたなあ、もう、でしょ」
「それだって、古い。せめて、じぇじぇじぇ、でしょ」
「びっくりぽん!」
「あきさみよー!」
「アイヤー!」
「たいした、たまげた!」
「インド人もびっくり」
「オーマイガー!」
「あらまっちゃん、デベソが宙返り!」
「なに、それ」
「うちのおばあちゃんの口癖でえ……」
マリコ部長「いつまでやってるの。早く仕事に戻りなさい!」
みつき「許して、ちょんまげ〜」
エイコ「許して、ちょ〜だい!」
みつきとエイコは、脱兎の如く遁走しました。
ともあれ、みつきの、何の変哲もない平凡な1688が、輝いて見えてきたわ。
エイコがなぜ、中国語に興味を持ったのかは、「みつきの微笑みがえし 第一部第六話 スキャンダル」で。R18でーす。
なんでも、わが社史上最高の美女、クレオパトラ・アヤコ様から、エッチな中国語を教わったのがキッカケらしいわ。アヤコ様は、みつきの憧れ、わたしの素敵なおじさまの、若き日の不倫相手なのよ。悔しいわ、悔しいわ、なんだかとっても悔しいわ。あら、これ、9841ね。