タイムマシーンのジレンマ、正しい使い方。

タイムマシーンができた。

母親を殺すことにした。

19××年、まぁ何月でもいいや。

場所は彼女の実家。

そこはわたしにとっても

実家であるので

まったく見知った場所。

時間帯は午後8時。

不在だと面倒だからね。


そこに到達しただけで、

わたしの身体は半透明に。

イケると確信。


見知った家だもん、

なんのためらいもなく侵入。

彼女が少女時代に使っていた個室の場所も、

迷いなくわかる。


はたして

若かりし日のわたしの母親は

在室していた。


生涯一度使ったこともない刃物を

おもむろに振りかざし。

無言で刺す。


悲鳴をあげようとあげまいと関係ない。

とにかく刺す。


吹きあがる血しぶきは

わたしの身体をすり抜け、

気がつけばわたしは透明だった。

長年願いつづけた、

わたしという存在の消失。

そこはかとない満足感と安心感。



やった!

わたしはもとから存在していなかった!!

諸悪の根源はいま消えた。

あなたも、避妊の失敗という

最低な体験をしなくて済んで

よかったね!!!


わたしの頬へと

うっすらと流れる涙は

たぶん誰の目にも

もう見えない。




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