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ゆっくり大事に読む創作大賞記事

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創作大賞用に投稿された記事をじっくり読む用に作ったマガジンです。
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2024年7月の記事一覧

「腐るまで待って」第1話【note創作大賞2024】

「腐るまで待って」第1話【note創作大賞2024】

第一話
――基本的には私が質問しますので、それに答えていただくだけで結構です。それでは撮影を始めてもよろしいですか?

 答えに困ったらどうすればいいですか?

――途中で止めても構いません。編集をしますので、気軽に答えてください。動画が完成したら、公開前に藍一さんにもチェックのために送る予定です。気になった点はご指摘ください。

 だったら安心ですね。

――では、はじめさせてください。お店は毎

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【創作大賞 2024】Dance 1話

【創作大賞 2024】Dance 1話

◀前のお話

第1話 月のクレーターをとびこえる

 夏の暑い日差しの中で、木々が強い光を遮る。
 木漏れ日は階段に光と影のグラデーションを作る。木たちは協奏し、リズムを作り、階段に強弱のコントラストをもたらしている。そして、コンクリートの隙間から生えた草たちは先日の大雨続きのあとからみるみるうちに背丈を伸ばして主張している。
 変わるものと変わらないものはただそのものとして日常に存在していて、移

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さびしくならないサラダを探して<第一話>

さびしくならないサラダを探して<第一話>

屋上植物園のようになった<天神屋デパート>の屋上には、半円型の舞台があって、その前にはベンチがいくつか置かれている。それは3列並んでいて背もたれに描かれたペコちゃんマークはすでに錆びていて、すごく末枯れた風情を醸し出していた。
 雨ざらしのせいか、さびさびでペコちゃんはもうペコ姐さんって感じで、傷だらけの舌をたらりと垂らしたまま、ずっと屋上のベンチの背もたれにいた。

 わたしはここに居るペコちゃ

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ミステリー小説「創作代償」

ミステリー小説「創作代償」



あらすじ

 「父を殺してください」という殺人の依頼を受け「必ず納得される方法にてお父さんを殺すことを誓います」とその日のうちに快諾する主人公。言葉の裏に隠された依頼人の心から望む殺害を遂行するため、物語は途中14篇の短編小説を挟むこととなる。短編小説を読み終えた後、主人公が仕掛けた驚くべき殺人方法が明らかとなる。

1.父を殺してください

 父を殺してください、と約2ヵ月ぶりとなる門掛夕希

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涙パレット|1/4

涙パレット|1/4

 泣けません。
 紅白幕に彩られた体育館で、同級生たちはパイプ椅子をきしませながら、ときおり鼻をすすっていました。
 通い慣れた通学路を自転車で駆けることも、仲良しのミカとクラス替えで一緒になれるか心配することも、体育祭で自分の組のバトンが落ちないように祈ることも、文化祭の催しに使うダンボールの束が持ち上がらずに男子の手を借りることも、もうないと思えば私はきっと泣いてしまうにちがいないと思い込んで

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