昔からの知り合いを喫茶店に呼び出したのは、 およその人間が仕事を終えている午後6時だった。 彼が背広を簡単にたたんでどっかり私の正面の席に座った。 私はそれに合わせて、この店で一番高いコーヒーを二つ頼んだ。 「呼びつけておいて、この高いコーヒーはお前のおごりなんだろうな?」 私はケラケラと笑いながら答える。 「仕事を辞めて新しいビジネスを始めたんだ。 今日はその話だ」 私は左腕につけている豪華な装飾の時計を見せびらかすように時間を確認した。 「そのビジネスっ
草野心平という詩人をしっているだろうか? 草野心平とは戦前から戦後を生きた詩人であり、 その詩は教科書に取り上げられるほど有名なものである。 「ケルルン クック、ケルルン クック」 と言えば聞き覚えのある者も多いだろう。 合唱曲としても有名なものがいくつもあり、私はそのうちの一つが酷く気に入っていた。 気に入ると言うのは少し違うかもしれない。 千原英喜氏によって作曲されたその歌は「我が抒情詩」という名だ。 戦後の混乱期、何もないと言う状況で光すら灯らない道を歩
「嫌われる勇気」じゃないけれど、 私にも誰に嫌われてもかまわないという時代があった。 大学時代のことだ。 クラスで目立っている人間たちに媚びへつらい、ウザがられて生きてきた私だ。 好かれるための努力が虚しいことを悟ったのだ。 そこで大学時代はいっぺん。 ズケズケとものをいい、興味のある教授にはすかさず教授室に乗り込む。 言葉はあえて選ばない。 「俺のこと嫌いなんだろう? 俺もお前が嫌いだ」 それが念頭に常にあった。 知識欲を満たすために、鋭い言葉を突き
野球選手やパイロット。芸能人や会社の社長。 そんな大層なものにはなれなくとも、 毎日スーツを着て電車に乗り、高いビルにオフィスを構える会社に勤められると思っていた。 ちょうど小学生六年生頃のことである。 この頃の年頃の子供は物心がついて時が経ち、 だいぶ世間のことが理解できるようになってきているものだ。 六年生というと中学入学を控え、そわそわとする時期でもあるだろう。 この頃の私には夢があり、また進学先の中学が荒れていることを考え、 歩いて3分の地元中学ではな