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【書評】FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 ~What every”body” is saying~



嘘を見抜くことはできない

本書において、筆者が強調している重要な原則である。

統計的にFBI捜査官といえど嘘か本当かを見抜く確率は50%。

半々。

当てずっぽうと同じ確率であり、つまり「嘘か本当かは見抜けない」とのことだ。

「嘘を見抜ける」という思い込みは冤罪の引き金になる。

些細な仕草から、容疑者に『嘘つき』のレッテルを貼れば、『お前が犯人』という結論へと誘導することとなる。

嘘の大きさに、信憑性を生み出すある種の要素が含まれているといえる。大多数の人間は…小さな嘘よりも、大きな嘘にたやすく騙されるからだ。

アドルフ・ヒトラー/政治家

仕草から推察できることは『嘘か真か』ではない

ということなのだ。

著者は元FBIの教官であり、尋問の専門家だ。
とはいえ、本書に於ける尋問を”自白の強要”に使用する技術からはかけ離れたものとして解説している。

無論、拷問や脅迫といった法と倫理から外れた技術とは完全なる別物である。

『しぐさ』のメッセージを読み解く技術は信頼構築に使う技術

読み進めるにつれ、その技術の使い道は”信頼構築”であるという確信を強めていった。

FBI捜査官として『しぐさ(=ボディランゲージ)』から読み解く心の動きは、確かに尋問に使われる。

とはいえ、公権力を有しない一般市民としてこの技術は少なくとも”尋問”に使う機会は珍しい。

強いて言えば、恋人に聞けない本音を探ったり、子供の”おいた”を責める時くらいだろうか。

何しろ”尋問”は趣味の悪い行為である。

『しぐさ』の表す意味と文脈を知ることは、相手に非言語でメッセージを伝える方法を知ること

本書に記述される、実践的な『しぐさ』の意味は、ボディランゲージがどんな意味を持つかを大脳生理学を軸として伝えられる。
また、各国における文化の違いを学ぶことでその文脈を誤解しないこと。個人における生理的な特性、それぞれ違う癖についても言及しており、安易な決めつけに対して常に注意を促している。

実のところはとてもわかりやすく、かつ実に現実的で使いやすい。(※それだけに、詳細を本書評において記すことは控える。著者の努力と知恵〜むしろ叡智と称えたい〜の結晶を安易に要約するのは、非礼であると考える。)

どのような仕草をする時、人は隠し事をするのか。不安を感じるときのボディランゲージ、自信がある時の体の動き。全身のどの部位がどの感情を表しやすいのか。

これは逆説的に言えば、状況によって自身の感情を増幅し、ときに抑えることで相手に伝えるノンバーバル・メッセージをコントローする技術と捉えられるだろう。

重要なのは、『しぐさ』の心理学は嘘をつく技術ではないということを付け加えたい。私にとってはあくまで、自身の感情においてどこを強調し、どこを抑えるかという表現の技術である。

そもそも嘘をつくということが、信頼構築におけるリスクなのだ。

「何かを隠している人に見えます…」

私は、客商売のベテランの方から、しばしばその評価をいただくことが多かった。

毎回その評価を不思議に思っていた。
なぜなら私は嘘が下手で、できる限り事実を伝えるよう努力しているからだ。

だが、本書を読み進めるうちに、私生活において、自分の『癖』に思い当たった。

私の『癖=しぐさ』には、本書に書かれた”防衛”のボディランゲージが多い。

幼少期に幼馴染から長期にわたる性的悪戯を受け続けていた私は、常に傍にいる彼から自分を守る必要があった。その生育歴から、できる限り他人に情報を与えない癖がついている。

例えば無表情に振る舞う癖がそれである。

私自身は、嘘が嫌いである。

なぜなら、わたしが騙されやすい人間だったからだ。

嘘は社会性の高いコミュニケーションである。

それが、新しい嘘を必要とする非効率的なコミュニケーションであってもだ。

嘘を憎んだ私が身につけた、ロジックによる嘘を見抜く技術は私を守ると同時に、苦しめた。

だが、本書の『しぐさ』によって心を推し量る能力はどうだろう。

それは、私に安寧をもたらす可能性を感じる。

自分でもわからない自分の本音を知ることに活用できる。

本書の技術は、自身の『しぐさ』を観察することで、自身の心を見つめることに役立つのではないか。

「どうしてこんなことをしたのだろう」
「モヤモヤする」
「あの人のことを自分はどう思っているのか」
「最近なぜ、撫で肩になったのか」

それらの『しぐさ』『ボディランゲージ』から、移ろい行く謎すなわち『自己』を俯瞰する。

忙殺される日々から離れた今、『尋問』という”武器”を『信頼構築』という”和み”に昇華する。

本書は、著者の優しさが私の”攻撃性”を”和”へと消化しくれた。

本書は技術書としての価値は言わずもがな、老練なFBI教官の『良心』を感じさせる名著である。

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参考・出典
FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 /ジョー・ナヴァロ,マーヴィン・カリンズ 著 西田美緒子 訳 河出文庫 出版 2012月12月20日

写真
https://unsplash.com/ja/

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