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あの子を誘拐します

 あの子を、暗闇から救ったのは僕だ。救済者として賞賛されるべき存在だというのに、街の至る所には「死んだ魚の目をした僕」の顔写真が散らばっている。

 写真の僕には、まるで覇気がない。その理由を、僕は知っている。小さい頃に、親から「心」を壊されてしまったからだ。

 僕が小さかった頃、親からはいつも理不尽な理由で殴られ続けてきた。殴る理由なんてどうでもよくて、僕はただのサンドバックでしかなかったのかもしれない。僕は必死に祈った。けれど、神様は現れなかった。だから僕は、パパやママのように神様を信じていない。

 この子は、そんな僕によって救済された。僕は神様じゃないけれど、絶対に救ってみせる。

「おじちゃんがいっぱいいるね。人気者なの?」

 あの子は、そう言ってケラケラと笑う。僕は思わず「そうだね」と言って微笑んだ。街で会う人々が皆、僕を血眼になって探しているような気がする。

 僕にかけられた懸賞金は、100万円。あの親は、ろくに食事すら子どもに与えていなかったはずなのに。一体どこから、そんな大金が眠っていたのか。

「おじちゃん、私。お腹空いた」

 僕の隣で、キュルルと音がする。蚊の鳴くような、頼りない音だった。ズボンの裾から見える足元は、枯れ木のように細くて今にも折れそうだ。

「わかった。後でご飯を調達するから。ちょっと待ってて」

 僕はキョロキョロと辺りを見回す。コンビニがあれば、ゴミ箱に「食べかけのお弁当」が潜んでいるかもしれない。もちろん、日が経っているのは食中毒になるからダメだ。

「そういえば、何て呼べばいいかな」

 あの子は、隣の家の子だし、顔も良く知っていた。けれど、そういえば名前を知らない。まさか名前も知らない子を、自分が誘拐してしまうとは。

 僕は親がゴミを捨てている瞬間を狙い、ガラスを割って部屋に侵入した。部屋の隅には、青ざめた表情の女の子が体育座りをして震えている。

【続く】

文字数:789文字

#逆噴射小説大賞2024


【あとがき】
 こちらの作品は、逆噴射小説大賞2024に応募しています。長文を前提とした作品の「冒頭」を考えるというコンテストとのことです。

 応募可能数は「1人最大2点まで応募可能」とのことで、2作目を考えてみました。

↑前作は金魚の話です。

 応募受付期間は、2024年10月8日の00:00から10月31日の23:59までとのことです。

 

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