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実家に帰れる日を、指折り数えて三千里

 先日、久しぶりに実家へ帰省した。母と父は、頭のてっぺんからつま先までギュッと絞ったように、少し前に見た時より一回り小さくなっていた。肌のハリも衰え、白髪やシミも増えた。

 それでも私からすれば、父と母を見るたびに「若い頃のかっこよくて美しい両親」が思い浮かぶ。父も母も、私を見るなり「あの頃」と同じように話しかける。

 私たちは、姿こそお互いに老いてはいるけれど。嫁に出たあの時から、時間はずっと止まっているのかもしれない。

 母は、私が家に着くなり「不要な服を処分して欲しい」と伝えた。

 母によると、人のものを勝手に処分するのは難しいので、私がいるうちに処分して欲しいとのこと。

 クローゼットを開ければ、婚活時代に来ていたコンサバ系のワンピース、camcam時代の蛯原友里さんを意識したスカートなどなど。男目線を意識した服たちが溢れかえっている。

 ハンガーにかかったひらひらの服を見るなり、ふぅと溜め息をつく。いつからだろう。周りの目よりも、汚れが気にならない服を選ぶようになったのは。

「ときめきがなくなったら、捨てましょう」

 お掃除界のカリスマ「こんまりさん」が、かつて発したセリフが頭をよぎる。

体の反応を感じて、ときめくモノは残し、ときめかないモノは手放す。

こんまりさんオフィシャルサイトより引用

 婚活していた頃は、いかに「男性の目を惹くか」を重要視して服を選んでいた。

 本命視されたいなら、肌の露出は控える。体のラインがわかる服を着て「細さ」を強調する一方、下っ腹がぽっこりしているので、トップスはふわっとしたものを選んで体型のアラを隠す。

 トップスには、顔が明るく見えるホワイト、明るいベージュ、ベビーピンク、コーラルピンクをチョイス。

 あの頃きていた服は、本当に私のお気に入りだったのだろうか。一度でも、服を見てときめいたことはあっただろうか。今思えば、ずっと他者目線でモノを選んでいた気がする。

 誰かに好かれたくて。そして、嫌われたくなくて。ずっと、綺麗めOL✖️コンサバを意識した服を身に纏っていた。

 色々頑張っていたあの頃と比べて、今は気楽だ。服を選ぶ基準が「モテたい」「スタイル良く見せたい」から、「洗濯できる」「伸びる=数年着れる」に変わった。頑張っていたあの頃より気ままになり、肩に力も入らなくなる。

今の基準で服を処分すると、ほぼ9割がゴミだった。昔は価値があったものも、時と共に無価値となる。形あるものの悲しい定めだなぁ。

 その一方で、20歳の頃に購入したエルメスの時計や、少しずつ収集したジュエリーは今も現役。歳を重ねるたびに、消耗品より「長く使えるもの」を選ぼうと考えるようにもなった。

 私があまりにも昔の服をポイポイ捨てるので、母も嬉しそう。「空いた所に、今度は何を入れようかしら」と、母は意気揚々としていた。こんなことなら、もっと早くに自分のモノを処分しておくべきだったのかも。

 定期的に実家へ顔を出すのは、孫(私の娘)に会わせることも理由のひとつ。母は孫の顔を見るなり、とても嬉しそう。

「次に来るのは、○○ちゃん(私の娘)が中学校になってからでいいからね」

 孫の姿を見せると、母は決まって皮肉めいたことを言う。けれど、頬は終始緩みっぱなし。本当は嬉しいのに、素直にその言葉を伝えられないのだ。

「○○ちゃんの顔、ばぁばが描いてあげるね」

 そう言って、母は慣れた手つきで娘の似顔絵を描き始める。

娘らしい

 母の描いた娘は、中年女性のような風貌だった。眉毛は凛々しすぎるし、目が死んでいる。娘の頬は確かにふっくらしてるけど、こんなに「おてもやん」みたいではない。

 娘の髪はおかっぱなのに、なぜか少し長いし。もちろん、全く似てない。

 娘はイラストを見て呆然としている。きっと、似顔絵を見て「一体、誰の顔なの?」と思っているのかも。

 誰も「似ている」とも言っていないし、そもそも「絵が上手いね」と、褒めてすらいない。にも関わらず、なぜか気をよくした母は、「今度は、あんたの顔を描いてあげる」と言って、私の顔を描き始めた。

 誰も「次も描いて」と言っていないのに、なぜ次へ挑戦できるのか。彼女の思考回路がわからないけれど、こういう人が案外成功を勝ち取っていけるのかも。母はおそらく、他者目線ではなく「自分がやりたいかどうか」を基準にして生きているのだ。

似てるかも

 分厚い唇。長い首。スッとした鼻と冷めた目つき。ボサボサの髪。さすが長年見ているだけあって、こちらは特徴を少し捉えている。娘のイラストより、少しこちらの方が若そうにも見える。

 「こっちは似てるかも」

 そう言って褒めると、母は意気揚々とした表情で夫の顔も描き始めた。もはや、巻き添え事故である。

おばさんやないか

 夫は今、パーマを当てている。パーマの雰囲気を出したくて「クルクルヘアー」を描いたらしいが、どう見ても40〜60代の女性である。どちらかと言うと、うちの母に似てるかも。

 そんなこんなで、1泊2日の「実家お泊まりツアー」は、あっという間に幕を閉じた。実家に戻って感じたのは、思っていた以上に自分の荷物が多かったということ。

 もし今後、実家じまいをすることがあれば、私の荷物が多いと困ることだろう。親を困らせないためにも、実家にある「不要な荷物」は、片付けられるうちに処分しておこうと思った。

 それにしても、実家はそう近くにないので、戻れるのもあと何回だろうか。父や母が元気なうちに、なるべく時間を見ては孫を連れて家に戻れたらいいなと思う。

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