リンナとカンナ【第一話】
※この作品は、 noteが開催している #創作大賞2024 に応募しています。
【あらすじ】
第一話
【プロローグ】
朝から、姉の凛菜が起こした殺人事件でワイドショーは持ち切りだった。環奈は、やれやれとため息をつく。
「私があの時……あの時引き取っていれば……」
環奈の母は、テレビでそのニュースを見るなり、その場に泣き崩れた。
——まったく、私は今受験勉強中だってのに……。
環奈は苛々する。母が煩くて、これでは勉強に集中できない。
——お姉ちゃんは、いいよね。人を殺しても、お母さんに心配してもらえるんだから。私なんて、こんなに一生懸命勉強しても、ちっともお母さんに目を向けてもらえないのよ。
受験勉強に集中するためにも、まずは、母を黙らせなければ。
「お母さん。落ち着いて。お母さんは、何も悪くないの。悪くないから……」
環奈は優しく声をかけ、母の肩にそっと触れる。肩から、環奈の手がするりと背中を優しくなぞる。泣きじゃくる母の背中をさすりながら、環奈は何度も「大丈夫だから」と声をかけ続けた。
——ああ、私ってなんて優しい娘なんだろう。なのに、どうして母はそんな心優しい私のことを、ちっとも認めてくれないんだろうか。
優しく 宥める環奈に対し、母はこう言った。
「あなた、お姉ちゃんがこんな事件を起こしているのに。よく冷静でいられるわね。やっぱり、私が『ちゃんとした子』を産んであげられなかったから……」
母からそう言われた途端、たちまち環奈の表情が曇る。ちゃんとした子って、どういうこと?環環奈の眉間に、皺が寄る。母は重たい口調で、こう答えた。
「あなたは、少し他の子とは違うのよ。だから、こういう時も泣けないのよね……」
母からそう言われ、きゅっと環奈は顔をしかめる。環奈はこれまで、世間一般で俗に言われる「普通の子」に負けないように、人一倍勉強してきた。しかし、環奈の母は決して、娘を褒めようとはしない。
「母さんね、心配しているの。あなたが爆弾でも作成して、そのうちとんでもない事件を起こすんじゃないかって……」
母からそう言われるなり、環奈は重い溜息をつく。ああ、またか。私のことを、この人は全く信用していないんだ。
このように、母が環奈を疑う発言は、一度や二度ではない。事あるごとに、母は環奈の行動を疑い、余計な心配ばかりする。この日も、母はいつものように環奈を疑った。
——私が部屋にこもり、友達も作らず勉強してきたのは、あなたにただ一言褒めてもらいたかっただけなのに……。
お母さんに褒めてもらうために、こんなに勉強だって頑張っているのに。どうして、一度も褒めてくれないの。
そもそも。いつだって母は、離れて暮らす姉の凛菜で頭がいっぱいだ。環奈からすれば、そんな姉の存在は目の上のたんこぶでしかない。わなわなと拳を震わせながら、環奈は母にこう伝えた。
「お姉ちゃんはね、私たちとはそもそも血が繋がっていないの」
環奈はそういって、母の目をじっと見つめてクスっと笑う。
そんな環奈の表情を見て、母は小さく肩を震わせながら、こう言い放つ。
「それでも、私にとってはほんの一時でも、確かに娘だったのよ……。あなたには、私の気持ちなんてわからないでしょうけどね」
——私は母にとって本当の娘なのに、血の繋がりすらない姉の方が大事なのね。へぇ。
環奈は、苦笑いをする。
「お母さん、一体何が悲しいのよ?お姉ちゃんはね、人間じゃないの。もともと、ただのAIロボットでしょう?」
そう伝える環奈に、母はわなわなと震えながら、こう伝えた。
「違う。ただのAIロボットなんかじゃないわ。少なくとも、あなたよりは人間の心と血が通っていた子よ。
あの子は、とても優しかったんだから……。それに、思いやりもあった」
母から完全否定され、悔しくて環奈はギュッと唇を噛む。
——なぜ。一体どうして。こんなに私はあなたのために頑張ってきたのに……。お姉ちゃんばっかりなのよ!
環奈は咄嗟の思いから、近くにあったハサミを手に取り、母の腹部目掛けて勢いよく刺す。ブスッと鈍い音は、辺り一面に響き渡る。
「なんで……。お姉ちゃんばかりなのよ……」
母の腹部からは、ドクドクと鮮やかな鮮血が滴り落ちる。両手に流れる母の流血を確認した環奈は、雪崩のように「うわぁぁぁぁぁぁぁ」と、その場へ泣き崩れた。
第二話へ続く
【第2〜5話までのリンクはこちら】
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