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変わらないでいて


私は学生時代、不登校だった。
不登校のうえ、うつ病になった。
そのせいで、母は変わってしまった。 

玄関に変な置き物を置くような人じゃなかった。
以前の母は花を飾り、季節の変化を楽しむ人だった。

なのに、よく分からないもの、つまりはスピリチュアル的なものに頼るような人になってしまった。

私は現在もうつ病だが、母に勧められて巫女として神社でご奉仕させて頂いている。

母曰く、最近私の症状がマシなのはその神社の波動を浴びているからだそうだ。

「波動とはなんぞや」

私の人生の中であまり聞くことのなかったワードが母から出たとき、かなり面食らった。

最近、私の症状が落ち着いているのは処方される薬が増えたからであって、波動のおかげでは断じてない。
また、この神社の労働環境が超がつくほどのホワイトだからだ。


朝、起きるとリビングでなんとか周波数の音楽を流している。

「宇宙の神秘を迫る!みたいな番組で流れてそうだなー」

が、私の感想である。
周波数などは一切分からないし、感じない。
母はヒーリングだとか、周波数とかそんなものばかり信じている。

この前はパワーストーンなどと言って3万円弱(!)の天然石を買ってきた。
ただの綺麗な石である。
ちなみに満月の日はこの石を月光浴させないといけないらしい。


また、私が散髪に行くのは一粒万倍日しか許されない。
母のお金ではない。
私の稼いだお金である。

「髪ぐらい好きなタイミングで切らせてくれー!」

本当はそう言いたい。
髪だって勝手に切りに行けばよくて、天然石だって渡されても拒めばいいだけの話だ。

言いたいことはたくさんあるはずなのに飲み込んでしまう。

母は周波数やらパワーストーン、占いなどに傾倒するようになってから明るくなった。
化粧品も百貨店のものを買うようになったし、今まで暗い色ばかりだった洋服も明るい色のものを着るようになった。
同じ事に傾倒する友人もたくさんできて、よく一緒に出かけている。

こういう時、「訳の分からないものに頼る弱く、脆い人」という感想を抱くはずなのに。
今の母を見て弱くなった、なんて思えないのである。
むしろ、生き生きしていると感じる。

そんな母に

「前のお母さんに戻って」

なんてとても言えない。

きっと、その訳の分からないものもすべて私のためだと信じている私がいるから。

「恵が学校に行けるようになりますように。」
「恵のうつ病が治りますように。」

私が苦しんでいるとき、ずっとそう言い聞かせてくれた。
そんな母を忘れられない。
根底には私の幸せを願ってくれる母がいるはずだ。
そうだ、そうに決まってる。
自分にそう、言い聞かせることしかできない。

私が不登校になったからスピリチュアルな方面に傾倒した母。
元の私に戻って欲しかったのだろう。
なのに母だけが変わってしまった。
私は変わらなかった。
私は変わらないから、元に戻ってほしいと思うのは我儘だろうか。

変わっていく母と変わらない私。
明るくなった母と変わらず暗い私。

元に戻ってほしい。

何度そう思っても、私の母であることは変わらない。
私の母。
この世でただ1人の私の母。

変わっていったとしても、ずっと私の側にいて。
それだけはどうか変わらないで。

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