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慌ただしい日常で忘れかけた心を思い出させてくれる『岸辺のヤービ』児童書紹介⑩

自然の中に生きる生き物の生活に、思わずキュンとくる。
夜寝る前に、ハーブティーを片手に読むと、仕事の疲れが吹っ飛びそう。
子どもと一緒に読んで、週末、公園や自然のある場所に出かけたくなる、そんな本の紹介です。

この本は、新刊として紹介されていた時に手に取ったので、2015年頃に読んだと思います。化粧箱に入っていて、何やら特別感があったこと、表紙の生き物のかわいらしさに心を奪われ、しばらく立ち読みした後、お持ち帰りした一冊です。

梨木香歩さんの作品は、『西の魔女が死んだ』裏庭』など、数々の名作を読んでいて、好きな作家さんのお一人だったので、ワクワクしながら読み進めました。

話が逸れますが、『西の魔女が死んだ』は私にとって〝心のものさし〟的な一冊でして、大人になってからも何度か読み返している一つです。
自分の心を照らして、自分は〝日々の生活〟ができているのか、と見つめ直すことができる一冊です。


書籍紹介📝

書名:『岸辺のヤービ』
著者:梨木 香歩  絵:小沢さかえ
出版社:福音館書店
対象:小学校高学年
ページ数:232ページ
読了時間:大人で2時間半ほど

あらすじ

マッドガイド・ウォーターという場所での小さなお話です。
主人公は近くの寄宿学校の教師をしている女性で、ボートで湖に浮かんで本を読むというすてきな趣味をお持ちの方です。

その女性が、ある時、岸辺に棲む、小さな生きものに出会います。それが表紙に書かれている小さなはりねずみのような生き物です。
(本書の中では、小沢さかえさんによる素晴らしいイラストがたくさん入っているので、その生きものたちの生活を想像しながら読み進めることができます。写真を上げられないのがとても残念なくらい、かわいらしいです。)

その生きものはヤービと呼ばれる、クーイ族の小さな少年で、ヤービからヤービたちの仲間の暮らしを教えてもらうという形でお話が進んでいきます。

小さな生きものたちの日常は、毎日が小さな冒険のようですが、私たち人間と同じように、彼らも様々な悩みを抱えて暮らしているのです。その悩みに耳を傾けながら、ぜひ物語を楽しんでみてください。

こういう地図があるのも、個人的ワクワクポイントの一つ

ここがおすすめ!

ヤービたちの暮らしのあれこれが、とても詳細に書かれているので、本当にヤービたちが存在するかのようにイメージできるのがとても楽しいです。

ヤービ一族は蜂を飼い、蜂や蟻を食べてくらしています。
カバンはカヤツリグサの茎を細かく編んだものに蜜蠟を塗り込んでできていたり、洋服を着ない代わりに、体を覆うふわふわの毛ととても大切にし、丁寧にお手入れをしていたり、素敵なお茶会がひらかれたり……

「私もぜひその仲間に混ぜてほしい!」
と思うような生活ぶりが見どころです

本の章とびらもとても素敵です。
イラストが可愛いのはもちろん、そのタイトルと、その下にあるひと言が、なんとも言いがたい味わいを出している気がします。

章の見出しにひと言解説がついているのは珍しいですし、この章の見出しを辿っていくだけでも、どんな物語なのかとワクワクできます。


すてきな文章たち

読み進めていく中で、ハッとしたひと言がありました。

「ほんとうに自然は、なんという職人なのでしょう」

『岸辺のヤービ』p.146

このひと言は主人公の女性の声ですが、作者である梨木さんの心の声でもある気がして、思わず素敵だなと思いメモしてしまいました。
自然を丁寧に眺めた方でなければ、こんな物語は生まれないなということを感じた一行でもありました。


他にもおすすめ本

小さな生きもの繋がりで言えば、以前紹介したコロボックル物語とも似ているところがあり、コロボックルがお好きな方は、きっと好きになるシリーズだと思います。

この記事を書くまでは気づいていませんでしたが、私はこういう小さな生きものとか、非日常の物語が好きなようです(笑)。

あとは、自然そのものを美しく描いた物語も好きで、普段慌ただしくしているとどうしても見過ごしてしまいがちな、日常のちょっとした素敵な一コマや、大自然の素晴らしさを教えられる気がします。

こちらも数年前に新刊で発売されていた時に手に取った本ですが、『ソロ沼のものがたり』も自然の素晴らしさ、自然の中で生きる生物のありのままの姿を描いている素敵な作品です。

そもそも、作者の舘野鴻さんは生き物をメインで描かれる画家です。
舘野さんの素晴らしい視点に因る観察と、その描写で生きものたちの姿が克明に描かれていて、読み終わったあと、自然の中を歩きたくなる物語。
舘野さん初の連作短編集だそうです。

ぜひ、日常の疲れを癒したい時に、手に取ってみてください。

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