【本】『言の葉は、残りて』時代を超えて、語り継がれる実朝の心からのやさしさと、信子との二人の想いを感じる
鎌倉幕府 三代将軍 源実朝、妻 信子と彼らを取り巻く時代のストーリー。
武道が苦手だった実朝が、『言の葉』で人の心を動かすことを、世を治めることを、最期まで信じて、行動し続けたことに、胸がきゅんとします。
鎌倉時代を、より深く味わいたいひとに、おすすめです。
はじめに
様々な登場人物が出てくるので、ざっと家系図を見ながら読み進めるのがおすすめ。
最初から切ない場面が続出で、思わず泣けてきます。もともと信子は摂関家の姫であり、武家に嫁ぐ縁はありませんでした。
しかし、鎌倉幕府と後鳥羽天皇など朝廷との政治的関わりから嫁ぐことになった経緯や、徐々に実朝と愛を深めていくところが、とても丁寧に描かれています。
由比ヶ浜の海岸で、二人で遊ぶところなどは、非常にほのぼのしています。
源頼朝が「るにん」として蛭ヶ小島に滞在していたときに、政子が好きになって父 北条時政の反対を押し切って結婚する話や、2人の子供(頼家)が産まれるときに政子が喜んでくれるようにと、源頼朝が御家人に「夏の山に雪を降らせろ」と命令したので、皆で山⛰️に白い布をかけた、など、心温まるエピソードも出てきます。
一方で、源頼家(二代将軍 実朝の兄)や、阿波局(政子の妹)、水瀬(信子の侍女)、大姫(実朝の姉)、畠山重保(御家人)をはじめとする、やるせない運命を持った人々や、謀反、北条家の恐ろしいまでのしたたかさ、戦略、計画などが随時織り交ぜられているので、常にハラハラドキドキ。
親や子供、兄弟姉妹、御家人含めた、いままでの家族・仲間までもが、いつ仲間じゃなくなるかわからない、そんな時代を生き抜くって、毎日どういう気持ちなんだろう。
きぃん
政子のするどさを表現する言葉。実朝と信子の合い言葉。最後のほうで、政子と信子がこの話をして、やっと母と娘として、打ち解けていくのが、分かります。
よかった。
君や来む 我やゆかむの いさよひに 槙の板戸も ささず寝にけり
(あなたが来てくださるのを待とうか、それとも私が行こうかとためらうように十六夜の月が出て来て、槙の板戸も閉ざさずにあなたの訪れを待って、うとうとと眠ってしまったことよ) ※古今和歌集 読み人知らず
畠山重保の事件があったあと、信子はこんな和歌で、実朝に想いを伝えます。直接的に言わずに、和歌で気持ちを表現する。婉曲に伝える。
そこに、信子の心優しさが垣間見えます。
四季を丁寧に感じる
実朝が、御家人の朝盛と和歌を学んでいるときの話が、四季の移ろいを楽しんでいて、ほほえましいです。
実朝
「春、霞がかった山の端の向こう、広がる空も霞で淡く青い。
冬の澄み切った空とは同じ青でも違う青だ。
そんな時、春が来たなと思う。」
朝盛
「木々の葉の色に夏を感じます。木々の葉の緑が深みを増して、夏の陽射しに輝いてるのを見ると、夏が来たと思います。
確かに、紅葉でも秋を感じますが、私は秋を『風』に感じます」
実朝
「秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる」※古今和歌集 藤原敏行の歌
朝盛
「冴え冴えとした月や星を見ると、冬を感じます」
言に出でて 言はぬばかりぞ 水無瀬川 下にかよひて 恋しきものを
(言葉に出して言わないだけなのだ、水脈が地下を流れる水無瀬川のように、心の奥底ではあなたを思って、恋しい気持ちを抱いているのだから・・)
信子の父 坊門信清が好んで口ずさんでいた和歌。
出生が複雑だった水瀬は、この言葉で、どれほど救われたことでしょうか。
みだい
実朝が、信子を呼ぶ言葉。本当は「御台」ですが、彼が呼ぶときは、ひらがなで表現されていて、やわらかさを感じます。
みだいは、かわいい、みだいの笑顔がうれしい、みだいに会いたい、ありがとう、みだい。みだいは鎌倉に来てから幸せか?みだいは、光のようだ など。
さまざまなみだいへの想いが、とても伝わります。最期までも・・
まとめ
最後まで、『言の葉』で、お互いと鎌倉を信じ、想っていた実朝と信子。歴史上の人物が立体的に、そして親しみを感じるようになりました。
私自身も、人の心に優しくプラスに残るものを、できるだけ紡いでいきたいし、そんな温かい言葉をたくさん知って、使っていきたい。
新古今和歌集や金槐和歌集などで、当時の人たちの感性に触れることや、季節の移り変わりを、今まで以上に味わっていきたいな、とも思います。
四季に想いを馳せる、っていいですよね。
そして何より、今の世に生まれていることは、幸せです。
ということで、おやすみなさい。
※前に茶道の歴史を振り返ったことがあるのですが、栄西から二日酔いを治してもらったのが、この実朝なのか、と思ったら、なんだかとても嬉しくなりました。
【再掲】