遠くから

遠くから|愛に溶けていく

  私を呼ぶ声がした
  遠くから
  微かな風をすり抜けて
  確実に届く声
 
  いつも聴こえていた
  幸せなときほど
  心が掻き立てられる
   遠くから
  私を呼ぶ声
 
  色が流れ落ちる夕焼け
  吸いこまれる空の青
  深い森の精霊の気配
  這い上がる大地の鼓動
  列車の窓から飛び込む荒野
  崖から見下ろす垂直の深淵
  計画のない旅の怠惰
  星空の下の孤独
  恋人との空白の時間
  友人の中の他人の横顔
  突然野生に戻る猫の爪
  沸騰を告げる水蒸気
 
  声は入り込む
  あらゆる隙間に
 
  静かな予感と共に
  乱れる心
 
  満たされることを渇望する身体
  悦楽に溶けることを知っている精神
  真実の前に崩壊していく時間

  手放した今ある束の間の幸せ
  価値を失くしてしまった大切だったもの
 
  運命が私のものではなくなり
  光と闇の前に魂を露にした
 
  無空から私を呼び続けたのは
  あなたの声


遠くから

(Photo: ©MikaRin)



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