
『リカバリー・カバヒコ』は傷ついた心を修復して強くする
2024年に本屋大賞7位に選ばれた『リカバリー・カバヒコ』(著:青山美智子)は、薬のように人の心を癒してくれる。
子どもの頃、馬やパンダなど、動物の形をした遊具で遊んだことはないだろうか。
「日の出公園」には、塗料がところどころ剥げたアニマルライドのカバがひっそりとある。
自分の体の治したい部分と同じところを触ると回復すると言われているのでリカバリー・カバヒコと言われている。
そして、その話は伝言ゲームのように、悩んでいる人の元へと運ばれる。
ねじ曲がってガチガチな僕のこの頭を、リカバリーしてくれ。
中学のときは一桁の順位しかとったことがなかった優等生の奏斗。
進学校の高校に入学すると、下から数えたほうが早い順位になってしまう。
高校に入学して初めてのテストで挫折を味わったことがある人も結構いるのではないだろうか。
同じ学力の子どもたちが集まるのだから、中学では上位でも、高校では下位になってしまうこともあるだろう。
もしかしたら、これが初めての挫折かもしれない。
こんなことは今までなかった……まわりとの差に愕然とし、他人と比較して自己嫌悪に陥る。
奏斗はこの挫折をどう乗り越えるか。
自分を許せずに頑張りすぎてしまう子どもたちもいる。大人でも同じだ。
比較する相手は過去の自分にもなる。
そうそう、これが厄介だ。
そして、大人になるとさらに頭がかたくなってしまうことを、わたしたちは知っている。
完璧主義の入り口にいる奏斗に、第1話から心をキュッと掴まれる。
人の幸せを願う私に、どうか戻して。
ストレスが原因で休職したウェディングプランナーのちはる。
うまく休めているかでさえ、自信がもてないでいる。
休むことへの罪悪感。
ちはるは他社から転職してきた、ハキハキした物言いの同僚に嫉妬を抱くようになる。
これはきっかけにすぎない。
自分はなんて無能なんだろう……自己嫌悪に陥いると、どんどん自信がなくなっていくのはわかる。
現代社会のストレスは多様だ。
最近になってようやくからだの健康だけでなく、こころの健康が注目されるようになった。
2025年の2月現在、従業員50人以上の事業所に対して定期的に労働者のストレスの状況について、ストレスチェックの検査を行うことが義務付けられている。
自覚症状が出なければ、職場や家庭など、周囲の人へ相談することをためらう人が多いのが現実だ。
それぞれの章の主人公から、自分を受け入れて人に頼ることができ、人に弱さを見せることができるのが強さなのではないかと考えさせられる。
それにはまず、自分の気持ちを何でもいいから吐き出すことが大事なのかもしれない。
リカバリーとは「同じようには戻らないけど、経験と記憶がついて、心も体も頭も前とは違う自分になるんだって」と登場人物の誰かが言う。
まだ来てもいない未来に不安になった夜は、枕元にこの本を置いておきたい。
心を落ち着かせてくれる1冊だ。