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カップラーメンの中に、何かいる。


そう感じたのは、テレビを横目にカップラーメンにお湯を注いでいる時だ。麺でもかやくでもない、ピンク色の何かが動いた気がした。

しかし私は驚きのあまり、蓋をしてしまったのだ。


もう10分以上経っている。しかし、怖くて開けられない。

虫か?いや、ピンクの虫なんて知らないし、虫にしてはデカすぎる。ってか、これ異物混入じゃないか?お湯入れたし、熱で死んだかもしれない。…得体の知れない死体なんて見たくない。

いやいや、テレビに夢中だったし、なんだか今日はぼおっとしていたし、きっと見間違いである。…しかしなぜだろう。この蓋の裏を見るのが怖いのだ。


せっかく憂さ晴らしのために買った高いラーメンなのに。すごく勿体無いことしてしまっている。


というのも今日、好きだった女に振られてしまったのだ。振られたというより、別の男と付き合ったらしい。

その女は俺にプレゼントを要求したり、思わせぶりな態度を取ったりと、とにかく悪い女だった。

俺はそいつの要求に応えたし、どんなつまらない会話も笑顔を貫いた。それは、彼女は俺のことが好きだと思ったからだし、俺も心から好きだったからだ。


そんな女に裏切られたこの鬱憤を少しでも晴らすため、わざわざ500円もするカップラーメンを買ってきたのだ。


いい加減開けてみようか。これ以上待っていても仕方がないかもしれない。


と思っていた矢先、ペリペリと蓋が開き始めた。



そこには、空っぽの容器の中に、まるまると太った小人が立っていた。大きな鼻にピンクの服。頭でイメージした小人と全く同じフォルムの小人である。

呆気に取られていると、小人がこう言い放った。

「ありがとな、兄ちゃん。わざわざ食べやすくしてくれてな。美味かったで。」

「…い、いやいや待てよ。お前なんなんだよ、どっから入ってきたんだよ!」

「なんやそんな怒った顔して。そんなの知ってどうすんだよ。」

「いや、おかしいだろ!勝手に俺のラーメン食べやがって!!どうしてくれんだよ!!!」


「…兄ちゃん、お湯かけたとき、わしのこと見えてたやろ?そん時なんで摘み出さんかったんや?」

「は?」

「で、その後わしのこと15分くらいほったらかしにしたやろ。そら食べるわ。今更怒っても仕方ないやろ。」

「…」

「兄ちゃん、ハナからわしが悪いって決めつけてもの言ってきたけど、ほんまに悪いんは何にもせずに待っていた兄ちゃんの方ちゃうんか?」

「…」

「すぐ言ってきたらわしも食べてなかったで。堪忍な。」


……こんな小さなやつに正論を言われてしまった。しかし、この苛立ちはなんだろう。悪いのは俺?違うだろ!


「…それはおかしいだろ!お前が、…お前が勝手に入ってきやがったんだろ!!お前が入ってこなかったら、最初からこんなことにはなってなかった!!」


俺は勢いのまま小人の入った空の容器を掴み、小人ごと外に放り投げた。



カップラーメンは食べられなかったが、鬱憤は晴れたような気がした。



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