教えることは最高の学び
「負けていられませんね」とお茶の先生が仰った。
いつも穏やかに話を聞いてくださり、あまり強い言葉を使うことのない先生だから、少しどきっとした。
「負けていられない。そう思うわ。本当に」
先生は繰り返してもう一度仰った。
未知の脅威に。日々の不安に。矢継ぎ早に訪れる変化に。
負けないために、私たちは今日もお稽古をする。
利休好みの、木地の丸卓でいつものお点前をした後、新しい方がみえていたので、「高橋さん、ちょっと袱紗の割り稽古をしてあげて」と先生から言われて、どきっとする。
いつも、何気なく扱っている袱紗だけれど、人に教えるとなると、細かいところが本当に合っているのか、急に心ぼそくなる。
身体が覚えている動作を、ひとつひとつ区切って、言葉にしていく。ふだん自分がどうやって手を動かしているのか、どこが雑だったのか、あらためて気づかされることがたくさんある。
私がひと通り説明した後、先生がやってきて、もう一度袱紗捌きを解説してくれる。
簡潔だけれどポイントをおさえた、相手の速度に合わせた説明。当たり前だけれど、私のしどろもどろ解説より100倍くらいわかりやすい。
もちろん、最初から先生が教えたほうが、伝わりやすいに決まっているのだ。でも、この場所では「教える」ことも大切な学びだから、私たちも「教える」というお稽古をさせてもらっている。
その後、私も先輩から、濃茶の袱紗捌きと、仕服の扱いを教えてもらった。
教えることも、教えてもらうことも学び。受け取ったバトンをしっかり握って、また次の人に渡していくことが恩返しになる。その流れの中で、生かされている。
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奈良大学の上野誠先生(万葉集がご専門)のオンライン授業がいま、YouTubeで公開されているのだけれど、そこで上野先生が語っている「バトン」の話が本当に素晴らしくて、散歩中に聞きながら泣きました。
興味のある方は、ぜひ。
読んでいただきありがとうございます! ほっとひと息つけるお茶のような文章を目指しています。 よかったら、またお越しくださいね。