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続・夜遊びの天才

困ったものだ。

君と出会って、2回目の深夜ドライブ。
ファミマで、モンスターとパンとおにぎりを買い、海まで車を走らせる。

今回の目的は海釣り。
釣りのことなんてよくわからない。
今回はなんの魚が釣れるか君に聞いても、その魚の名前をすっかり忘れてしまった。『メ』から始まる魚だったような気がするが、メカジキと、メダカではないことは確かである。メダカではないことは、世界中の誰もがご存知だろうけど。
もちろん、私は、釣りの経験などない。
読書YouTube三昧のインドア人間には、釣りなど縁のない娯楽である。

寒くない格好してきて、と言われても、ノースフェイスやらパタゴニアなんかのマウンテンパーカーがあれば最適なのだが、残念ながら持っておらず、昔古着屋さんで購入したラルフローレンのストライプ柄のシャツを羽織る。
それ、汚れてもいい服?と聞かれても、汚れていい服なんぞこちらは持ってないのである。
釣りをすることで汚れることを私は知らない。
無知って、怖いんだな。

何がいちばん困るって、まず最悪の天候である。
天気予報は外れ、雨は一向に止まない。雨はしとしとと降り続ける。車体に水滴がポツポツと落ちる音が響き渡る。
釣りは夜が最適らしいが、この天気では外に出ることは不可能である。つまり、今は寝て晴れ間を待つのみ。

しかし、私ったら、全く睡魔が襲ってこない。
出発前の仮眠と、道中で飲み干したモンスターが眠気を気持ちよく払い除け、目を閉じても眠れる気配がない。
君は隣で寝息を立てている。
悔しいことに、君はいびきをかかない。
私は、いびきがなかなかひどいらしく、どれくらい響き渡るか、音声を録音されたことがある。
しかし、君は、うるさいからやめろとか、そんな説教じみたことは一切言わない。
ただ、恋人の、おっさんみたいないびきを聞きながら、面白がって笑う君が悔しい。
君の優しさが悔しい。

寝れないな。
暗くて本は読めないし、かと言って全く眠くないし。イヤホンないから、YouTubeも見れないし。
フロントガラスを伝う雫を眺めながら、時間が過ぎる。

はるか昔、地元の屋台での金魚すくい以来、魚を獲ることをしていない私にとって、今日のイベントは未知の世界だ。
そもそも、深夜に海へドライブすることも初めて。
運転中、ヒゲダンやらあいみょんやらを流して、カラオケ大会をするのも、途中ローソンへ寄って2個入りのマカロンを分け合うのも。

そして、未知の世界へと簡単に案内してしまう君は、やっぱり夜遊びの天才である。

悔しいな。
どんどん、新しい世界を知っていく。

私は、私の世界で生きることに満足していた。
音楽が好き。ファッションが好き。読書が好き。カフェ巡りが好き。
私の好きなもので、世界は満たされていたはずなのに、君から教えてもらう世界はまた違った美しさがある。
君と私の趣味は正反対で、聴く音楽も、休日の過ごし方も、何もかも違うのに、知らない世界に触れることがこんなにも楽しい。

悔しいな。
君は、私の世界が好きだろうか。
私の世界は、どう見えているだろうか。
私は、君の世界が好きなんだけどな。

隣で君は静かに眠っているし、雨は止む気配はない。
私の眠気も、襲ってくることはない。

こんな夜もいいだろう。
雨が止まなかったら、釣りは中止になるが、どこに行こうか、考えるのも、また楽しい。

雨の中、2人を乗せた車は、街灯に照らされている。

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