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「若い山賊(仮称)誕生準備号」の感想(#文学フリマで買った本の感想 #7)

ナナロク社による「若い山賊」(仮称)という名の詩歌を中心とした定期的な作品発表の場の誕生準備号。

舞城王太郎さんの小説「短歌探偵タツヤキノシタ」は、まだ9歳にもならない「僕(タツヤ)」が父親の実家のある福井県で短歌と出会い、初めて事件を解決する短歌探偵誕生の瞬間が描かれた意欲作。

短歌探偵ってなんだ、とか絶対に思ってはいけない。
「第1話」ならぬ「第1首」と表題にある物語であることから、続編が楽しみ。
きっと同じ能力者であるダイジオカノとの因縁の対決があったり、ハルカスズキとの甘くて苦い日々が描かれる荻窪篇があったりするのだろう。
そして、ラスボスは詩の神様シュンタロウタニガワだと思う(考察厨)。

森口ぽるぽさんの短歌連作「誕生」とエッセイが圧巻だった。

胸に手を重ねてみれば心音と脈が飽きずにハイタッチする
土俵なら勝負が終わるでもここは手をついて立つと今日が始まる
号令はすべて空耳なんだからまわれ右よりターンで踊る
父、母を名乗る獣が来るまえに可愛い名前を鏡に告げる

森口ぽるぽ「誕生」

短歌連作とあわせて書かれたエッセイは、歌人森口ぽるぽ誕生までの生い立ちの印象的な場面が生々しく書かれている。
文章から、強烈な痛みと美しさを感じた。
岡野大嗣さんに「一筆書きの電子音楽」のようと評された短歌をつむぐ歌人森口ぽるぽが生まれる必然と偶然を感じるにはあまりある贅沢なエッセイ。

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