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「たんたん拍子vol.4」の感想(#文学フリマで買った本の感想 #3)
榎本ユミさん、草薙さん、小俵鱚太さん、toron*さん、中嶋港人さん、若枝あらうさんの6人の歌人が参加する短歌ユニットたんたん拍子の4冊目の合同作品集。
メンバーそれぞれの新作連作に加え、本号はtoron*さんが第一歌集『イマジナシオン』を刊行したことを記念して、ゲストも招いたそれぞれのイマジナシオン評を掲載。また、コラムや企画記事もあり盛りだくさんの内容。
七者七様の『イマジナシオン』評
toron*さん以外の5人のメンバーに加えて、歌人の岡本真帆さん、書評家・作家の三宅香帆さんによる『イマジナシオン』評がいずれも読みごたえがあり、とてもおもしろかった。
特に小俵鱚太さんの「toron*2.0論」が興味深かった。
「変身魔法の使い手」と評されるほど言葉からイマジネーションを生み出すtoron*さん。
その独特なペンネームもあって、ややもすれば人間らしさから離れた作家像の印象が持たれがちであり、作品もそうした作家性のイメージを背景にした作品が主にうたの日で評価されがちだが、小俵さんは、そんなtoron*さんの作品群の中で、うたの日では必ずしも評価されづらいタイプの短歌に魅力を感じ、toron*さんの作家性がさらに深いところに進化していくことに期待している。
でもこの一連には、その魔法使いのプライベートなところへ降りていく螺旋階段みたいなものが見え隠れしているように感じるのだ。(中略)何より、私は杖を置いたtoron*ももっと見てみたいのだ。
また、toron*さんの短歌の魅力について、草薙さんの指摘する定型の順守、岡本さんの指摘する鮮やかで幻想的な比喩表現というのが、非常に的確で納得した。
基本的に定型遵守でリズムがいいこと。だから歌の内容がすっと理解できる歌が多い。句またがりも多用しないため、口ずさみやすく覚えやすい。
toron*さんの短歌の最大の魅力は、鮮やかで幻想的な比喩表現にあると思う。比喩とは、あるものを別のものに喩える行為だ。対象物と比喩に使われた別の事象の距離が離れていればいるほど、そこには驚きが生まれる。
気になった歌6首
言の葉に枯れ葉を交ぜて重くないことだけ喋る冬のデニーズ/小俵鱚太
わざと軽い話だけをするファミレス。「枯れ葉」「冬」という言葉遣いから、やや暗いイメージが想起されて、無理やり軽さを装おうとしているように感じられる。「枯れ葉を交ぜて」という比喩に切実さがある。
花を花びらにほどいて生も死も風にとっては通過する駅/toron*
幻想的な歌。花から花びらが1枚1枚ばらばらに風に舞っていき消えてしまうようなイメージがわいた。あらゆるものの生死は、大いなる自然からすればほんの一瞬のできごとでしかない。その様子を電車や人が行き交いながらも、誰もとどまらない駅に例えているのが秀逸。諸行無常。
嘔吐するように泣いたらまぶたからしゅわりしゅわりと老いてゆくなり/榎本ユミ
「しゅわりしゅわり」という比喩が印象的。ひどく泣いた自分の顔を見たときに老いを感じたということだろうか。ふとした瞬間に自分で自分の顔を見たときに、勝手に抱いていた若いときの顔のイメージからの乖離に驚くことがある。
複雑は複雑のまま理解するアイヌにかつてしてきたことを/草薙
何ごともわかりやすさが求められる時代だが、物事を単純化するとき、そこには捨象されるものが必ずある。歴史や社会問題に思いを馳せるとき、大枠を理解することは大事だが、複雑で理解しがたいことも理解しようとしないといけない。こと、侵略と同化の歴史ならばなお。
会いたくて会いにいくから嫌いなら嫌いと言ってほしい 嘘です/中嶋港人
相手の本心を知りたいという気持ちと、その本心が思い通りのものじゃなかったときのことを考えて知りたくないという気持ちは、相反するが共存し、せめぎあい続ける。
不時着のように顔から落ちていく背中に走るまっすぐな骨/若枝あらう
地上では顔から落ちたら大怪我だが、海中なら安全。海中に突き刺さっていくような独特な感覚の中で、真っ直ぐ伸びる背骨を感じている。海中でしか感じられない身体感覚が的確。