
『柊と南天第1号』の感想(文学フリマでいただいた本の感想#3)
『柊と南天』は、塔短歌会の昭和48年・49年生まれのメンバー(安倍光恵、池田行謙、丘村奈央子、乙部真実、加茂直樹、竹内亮、中島奈美、中田明子、永田淳、永野千尋(敬称略))の作品が掲載されている小冊子(フリーペーパー)。
文フリ当日、柊と南天ブースに伺ったところ、第1号から最新号までを譲っていただきました!
フリーペーパーとは思えない充実した作品群。
ありがとうございました!
第1号から気になった歌を引かせていただきます。
黒が白に一度に変わるこの感じ六月一日朝の学校/乙部真実
冬服から夏服に一斉に変わる学校の景色。「この感じ」というゆるやかな言葉に実感がある。
さきをゆく猫まがりたりその角にいたれば昼は明るき陥穽/中田明子
「陥穽」は、動物などを落ち込ませる落とし穴。猫についていったら、異世界に迷い込んだよう。落とし穴でも明るいなら楽しそう。
旅番組むかしはあまり見なかつたいつかどこでも行けると思ひ/加茂直樹
年齢を重ねて好きなものが変わる。その事実から自分の年齢を反射的に確認する。
JRJRJRJR寝台列車の浴衣の柄は/山﨑大樹
連続する「JR」の文字がプリントされた浴衣。4回繰り返されると、無限に続くようなイメージが湧いてくる。
いきなり、ミラノカツレツ揚げてよと娘に言われカツを揚げてる/安倍光恵
ミラノカツレツ。カツレツとの違いは、肉を薄くのばすことや衣に粉チーズが入っていることとのこと。結句の「カツ」は、言われるがまま作ったようにも、そんな謎の料理は作らないよという心構えで普通にカツを揚げているようでもある。
ぱつちりと目を開ける子もねむる子も内を泡だつお抹茶の夏/吉田達郎
お茶会に集う子供たち。興味がある子も、ない子もいるのが微笑ましい。
白梅のかおりこぼれる庭先に救急車がいた 一年前に/永野千尋
風情ある光景の描写から急に緊張感のある救急車が現れる。忘れられない光景がフラッシュバックしているよう。
淹れたてのお茶が喉元すぎていく熱さに取り憑かれてまた飲む/丘村奈央子
熱い飲みものが喉を通り過ぎる独特な感覚。絶対身体に優しくない行為だろうが、ついつい繰り返してしまうのは、「取り憑かれる」という言葉がぴったり。
やくるとにヨンカケルジュウノジュウジョウコこれがあれなら細菌兵器/池田行兼
ヤクルトに大量に入っているのは、人間の身体を健康にする乳酸菌シロタ株。細菌兵器の原材料が「あれ」でぼかされていることでかえって不穏さが増している。「ヤクルト」や「4×10の10乗」がひらがな・カタカナ表記になっているところにもマッドサイエンティスト感がある。
クリームの奥に一点朱をさしてオクラは幹に直接に咲く/永田淳
クリーム色の花びらの中心が赤いオクラの花。幹に直接咲くことを知らなかったので、調べてみたらなんとも不思議な咲き方だった。
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