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すずめ園著「旅と蓋2」「夏の早朝vol.2」の感想(#文学フリマで買った本の感想#1)

自由律俳句ユニットひだりききクラブで活躍するすずめ園さんのエッセイと自由律俳句集。
すずめ園さんの魅力は、「こだわり」だと思っている。
偏愛、という言葉が似合うが、その対象がデザイン蓋であったり、おばあちゃんであったり、独特の感性で特定のジャンルに対して向けられる熱い眼差しが、静かな狂気をはらんで展開する。

旅と蓋2

デザイン蓋(マンホールに観光名所などがデザインされた蓋)めぐりを中心にした一人旅のエッセイ。
エッセイでおもしろいのは、「〇〇できなかった」という後悔の描写が多いことである。
例えば、室蘭観光協会でのくじらのキャラクターの掛け時計を買わなかったこと。
例えば、大三島のサイクリストの聖地を通り過ぎてしまったこと。
その貪欲さや好奇心がまた次の旅への期待値を高めてくれる。
また、その土地土地で出会う人々との交流が筆者独特の表現でつづられるのを読んでいると、次はどんな人や物に出会うのだろうと、期待せずにはいられない。

いろんなおばあちゃん観察録(「夏の早朝vol.2」)

「祖母だけではなく、名も知らない町のおばあちゃんも好き」と言い切る筆者が出会ってきたおばあちゃんについてのエッセイ。
さまざまなおばあちゃんが登場するが、どのおばあちゃんも魅力的で生き生きとしている。
中でも花屋のおばあちゃんのエッセイがおもしろかった。
自分の持つおばあちゃん像と異なるおばあちゃんの登場に、世の中には人見知りなおばあちゃんや片付けられないおばあちゃんがいることに思いを馳せる筆者のおばあちゃんへの絶大かつ無防備な信頼はかえって狂気がある。

自由律俳句4選(「夏の早朝vol.2」)

喉の奥冷やし中華の季節の渇き/すずめ園

「夏の早朝vol.2」『甘い泉』

冷やし中華の独特な酸っぱさのあるタレが喉の奥に残る感じ。冷やし中華を食べた後に水を飲みたくなる感じは、夏限定の喉の渇きである。

逃げ水で撃たれた影がくるくる回る/すずめ園

「夏の早朝vol.2」『甘い泉』

逃げ水は、よく晴れた夏の暑い日に、アスファルトに水があるように見える蜃気楼。蜃気楼なので、実際には近づいてもまた遠くなる。実際には存在しない逃げ水に、やはり実体のない影が翻弄される様子は、夏の熱さゆえの妖気であろう。

たぶん同じ蚊にさされた/すずめ園

「夏の早朝vol.2」『待ち合わせ』

夏、待ち合わせていた相手と出会ってまず目に入る蚊に刺された痕。その大きさや色みを見て、同じ蚊だ、とありえないけど妙な親近感を感じている。同じ被害を被った二人の絆は強い。

信金のうちわで向かい風を作る/すずめ園

「夏の早朝vol.2」『畳の部屋』

同じ金融機関でも、大手の銀行とは違って、信金は地元密着でなじみがある。追い風ではなく、向かい風を作っているのは、自分に向かって仰いでいるからだろう。だらだらと過ぎている夏の贅沢な時間のイメージが浮かんでくる。

次回作も楽しみです!

BOOTHでの販売もあります。

定期的に更新される自由律俳句交換日記もいつも楽しく読んでいます。


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