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ともだちになりたかった
ともだちになりたい、としんけんに思う
ひとに出会った。きのう。
過酷な長い夏休みをなんとか無事に
終えたので、スタッフを労うため、
夏休みを打ち上げた。
小学生の夏休み期間が、一年で一番忙しい
仕事なのだ。
貧乏な会社だが、この日ばかりは会社の
奢りで、ぱあっとやると決めている。
一次会は美味しいものを食べ、二次会は
近くのスナック、というのが恒例の流れ。
小さなスナックにスタッフ8人、年齢層は
幅広いが、すきなうたをうたいながら
たのしんでいると、齢60歳くらいかと
思われるおじさんがひとりで入店した。
常連みたいだ。両手に食べものの入っている
らしい、ナイロン袋を持っている。
スナック、というのは、
その場にたまたま居合わせたひとと
一緒にカラオケをしたり、お話をしたければ
したりする場所だから、
初対面のどこのだれかもわからない人となど
話したくない人は、行く必要のない場所だ。
人目を気にせず、自分の好きな世界にひとりで没頭したいという、
今の若い子たちには、あまりニーズがないのかもしれない。
おじさんは、大柄ではげていて、丸顔で、
とても温和な顔をしていた。
南伸坊みたいなふんいき。
私たちが1グループで何人いるか、
パッと数えて、彼は、
「これ、人数ぶんあるからはい」
と、持ってきた個包装のクッキーを人数ぶん
わたしたちにくれた。
どこかの作業所の手作りの、ちょっといい
クッキーだった。
えーいいんですかあ!ありがとございます!
と喜ぶわたしたちに向かって、彼は、
にこにこしながら、
「むしばになってしまえ」
と言った。
クッキーがおいしかったので、
みんなでおじさんに、
おいしかったです、ほんとに!
というと、わたしたちに向かって、
にこにこしながら、
「のどがかさかさになってしまえ」
といった。
わたしはお酒を飲んでいたが、
一瞬しらふになる。
なんなんこの返し。。
おもしれえ。
もしかしてわたしと同じくらいなのか、
おもしろが、、!
みんなはスルーして違うことに大笑いして
いたが、わたしは、
おもしろが同じくらいの人間に、突如として
出会ってしまった衝撃に打たれていた。
彼とは、同じようなことがすきで、
一緒にいたらすごくたのしいかもしれない、
という予感がする。どうしよう。
彼は、カラオケに、
「緑の陽だまり」
という歌を入れた。
小さなスナックに、昔のアニメの映像が
流れる。
服を着たねずみみたいなのが主人公だ。
わたしが生まれる前のアニメの主題歌
なんだな。
アニメの題名はわからないし、
はじめて聞くうただったが、
わたしはその選曲も、きにいった。
同じせりふをこだまのように返すところが
あったので、わたしは、
「フムー!」
「こっくりこー!」
と、でっかい声で合いの手を入れた。
おじさんは途中から入ってきた
20代前半の4人組にも、なんかにこにこと
しゃべりかけていて、うらやましかった。
わたしともおはなししてくれ。
わたしはもう、スタッフの歌う歌など
そっちのけで、おじさんの言動がきになって
しょうがなかった。
彼は、知らないひとにめちゃくちゃ
しゃべりかける、というわけではなく
常連同士、または初めての人と
ぽつり、ぽつり、と話す声が聞こえてくる
のだが、その一言一言、全てがおもしろくて、
わたしは膝からくずれおちそうだ。
彼が全然、おもしろいことを言ってやろうと
思っていないところがまたいい。
日付けもまわり、
わたしたちが帰る雰囲気を出してきたところで
おじさんは、
「さいごにこれをきいて、帰って下さい」
といい、
テトぺッテンソン
という歌をカラオケに入れた。
はじめから終わりまで、
テトペッテンソンタトペッテンソン
トテペッテンソンペットレーラットレー
ペットレラットレラー
みたいな歌詞で、それ以外の歌詞がない
へんな歌で、わたししか聴いていなかった。
わたしはまだまだおじさんと居たかったのだが
夫もいるし、スタッフを見送らなければ
ならないので、しぶしぶ店を出た。
ああ。
おじさんとともだちになりたかった。
知らない人と一瞬で、ともだちになるのって
どうするんだっけ。
教えてくれ、小学生。
おじさんとともだちになれたら、
もっとたのしい人生なのに。
もう二度と会える気がしない。
かなしいけど、さようなら。