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すきなものを両手に抱えて逃げろ

この間、動物園に行った。

夫は一緒だったけど、うちのこどもたちは
いなかった。かわりに中学生男子4人が
一緒だった。
そう。仕事で、来たのです。

動物園は10年ぶりくらいだった。
なんとなく、人生から、遠避けている。
動物園を。

もちろん、動物はかわいいしすきだ。
でも
「かわいいー」
のあとに
「かわいそう。。」
という気持ちがきて、いつも
もの悲しいきもちになってしまうのだ。

動物たちは、もちろん食べることにも
不自由しないし安全な寝床は確保されている。
病気になっていないか、気を配ってもらって
いる。

だけど、檻の中に入れられているのは、やはり
彼らにとっての自然、ではないことを
知っている。
それが、わたしを、せつなくさせる。

畳二畳ほどのスペースに閉じ込められた
コンドルを見たりすると、
「もういいから!帰れ!ふるさとへ!」
などと言いながら、
檻をガンガンしそうになる。

こういう者は、動物園に向いていない。
だから、避けてきたというわけ。

入場券とともに、エサを買い、男子たちに
渡す。袋には食パン耳、キャベツ、鹿のフン
みたいなペレット、が入っていた。
売り場の所に、

「ミミナガヤキにはパンはやらないでください。シロテナガザルには葉っぱはやらないでください。インドクジャクにはペレットはやらないでください。ワオキツネザルには、、」

などと、食べていいもの、ダメなもの、の
注意書があったので、間違えたら大変だ、、
と思い、一生懸命覚えようとして、
一人でぶつぶつ言っていたら、

「それぞれの檻に、書いてあるので大丈夫
ですよー」

と言われてホッとした。そりゃそうだよな。
緊張させないでよー。

この動物園は、ほんとうに手作り動物園、
という感じで、柵、壁の絵、えさをやる
ための道具、全てが手作りだ。
ほんとうに頑張っている。

だけど、作ってからだいぶ経つのだろう、
ペンキははげ、木の柵も劣化し、
日除けになっていただろうタープは
裂けて、ぼろぼろだ。

今年の夏の酷暑を、この動物たちがどうやって
しのいだのか、想像するだけで泣けてくる。

しかし、わりと珍しい動物がたくさんいて、
わたしたちは、えさやりをしながら、
わあわあと楽しんでいた。

檻や柵が粗末であることに反比例して、
この動物園の動物は、とても美しいことに
気付いた。
毛並みがいいし、汚れていない。
これは、動物を飼育しているひとが、
動物に愛情を持ってお世話をしている証だ、
と思った。
ここには、飼育員、という職業の、
聖人がいる。

動物の中に、ブラッザグエノン、という、
びっくりするくらいきれいな猿がいた。

「仙人だ、、」

と、みんなで息をのんだ。
ひと目みた瞬間に、この猿とわたしが、
お話できないわけがない、と思った。
直感で。
ほんとうにきれいで、賢そうな猿。
ばちがあたる。こんな所に閉じ込めて。
と、思った。

男子たちの親がお迎えにくる時間が決まって
いるので、滞在時間は短かった。
もうすぐ帰らなければいけない時間になり、
わたしが、

「まだ全然帰りたくないよ。。」

と言うと、中学生男子たちも、

「うん。まだあと2時間くらい居れる。
めっちゃ癒された。学校のストレスが
吹き飛んだ」

と言った。
そっかそっか。来てよかった。

この男子たちは、それぞれ別々の中学校に
通っている。普通級の子や、支援級の子や
いろいろだが、それぞれに特性があるので、
毎日、たくさんの「わからない」と
たくさんの不安と、ストレスを抱えて
生きている。
一般的には、自閉症とかアスペルガーとか
言われている子たちだ。

障害などなくても、この世界はデフォルトで
「大変」なのに、この子たちの大変さ、は
どれくらいのものだろう。
わたしも、よくわからない、とか、げせん、
というきもちで毎日、やってはいるが。

何もかも嫌になって、しにたくなることも
これから先たくさんあるだろうが、
ちょっとまってくれ。

動物。まんが。アニメ。ゲーム。食。音楽。
他いろいろ。すきなもの、
自分を癒してくれるもの、を
できるだけたくさん持って。
それはできれば、人間じゃないほうがいい。

しんどくなったら、そこに逃げて。
逃げろ逃げろ。
逃げるは恥だが役に立つ、と言うだろ。

で、ちょっとげんきがでたら、また
ちょっとやれるかもしれんから。

動物園の動物は、そのためにいつもそこに
居てくれる。動物は人間を癒すけど、
動物は人間には癒されないことを
忘れずにいたい。
飼主とペット、と言う関係は、この限りでは
ないが。

それを忘れずに、動物の広い胸を貸してもらう
感じで、ありがとうございます、と思って、
ここに来ればいいのだ。

動物園の動物は、もうおそらく二度と、
しぬまでそこから出られないだろうが、
「かわいそう」
じゃなくて
「ありがとう」
と、言いたいよ。これからは。

この子たちが、いつか、
ずいぶんと疲れ果ててしまった、
と思ったとき、
今日の事を思い出して、

動物園に行こう
そんで、えさをやろう

と思ってくれたら嬉しい。

次は、ブラッザグエノンと、対峙するために、
わたしもゆっくり、ひとりでここに
来るつもりだ。

やっと、動物園のことをどう考えたらいいのか
ちょっと答えが出た気がする。
こどもたちが教えてくれた。


とりあえず、な。
入園料、220円てゆうの、何とかならんのか。

220円で、ブラッザグエノン、見せたら
あかんと思うけど?
レッサーパンダまでいるやんか。
経営、どうなってんねん。

入園料、1000円くらい払うから。
動物に頑丈な屋根、作ってやってくれや。
ペンキも、塗り直したってくれ。
頼むからマジで。


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