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短編小説6編 『快刀乱麻』 『汽車ごっこ』 『蛙は風になる』 『珍客』 『岩なれども母なり』 『絵具と血』
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#みんなの文藝春秋

岩なれども母なり (小説)

岩なれども母なり (小説)

 母のいない私からすると、日本庭園の橋の手前にある、丸まった人のような花崗岩に、母というものが見えていた。この家を取り仕切る父の母、つまり、私の祖母に、服従を見せるような気弱さが、花崗岩の模様の震えに表れているとさえ思っていた。
 私には、この花崗岩が、母に思えてならない。そんなことは、おおよそ、馬鹿げたことである。だが、私は、子供のころより、小川の流れる日本庭園で遊ぶとき、庭園はだだっ広いにもか

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珍客 (小説)

珍客 (小説)

「大きく云えば、戦争、災害、小さく云えば、事件、病気、人間生きてりゃ、それなりの理不尽にぶちあたるさ。葉が枯れるように、空が陰るように、血が黒ずむように、風が凪ぐように、乾いた濁った張りつめた静寂に、ぜんぶが呑まれちまうさ。それでそいつはたまらなく苦い味なんだ。なんで苦い味を舐めながら生きにゃならんか、苦悩が始まってしまうんだ。つまり、(語り手は、手を右から左に動かす。)理不尽→苦悩の図式があるの

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汽車ごっこ (小説)

汽車ごっこ (小説)

 四人の子は、空き地につどってから、父と母の悪口をいった。それから、自分たちは、かならず、父と母より、すばらしい教育をすると、誓いあった。四人は、八歳の小学二年生である。しかし、切なく笑えるほど、四人は垢ぬけていた。それは、たぶん、四人のあいだで疑問をもちより、議論につばをはきあい、世のたいていの嘘をあばききったからだった。
 四人の子は、三軒ずつが向かいあう区画で、四隅の家に分かれて住んでいた。

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快刀乱麻 (小説)

快刀乱麻 (小説)

 硯に筆をたっぷりとつけ、四度の深呼吸、十五度ばかり身を屈め、半切の和紙、かるくおさえる。
「……快刀乱麻」
 これからしるす四字である。男は、おのれの恥をすすぎ、死ぬために書くのである。その悲壮な信念に、まともな同情が得られるほど、世は清潔ではなく、堕落していて、手狭ではあるが、やわらかいものを食べ、ふんわりしたものにうたた寝できるほど、平和な世になっていた。してみるに、この世からすれば、死ぬこ

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