「令和」の時代に叩き起こされた「昭和」の名作。
昨年末に帰省したとき、わたしは無性に本が読みたい衝動にかられて父の本棚を開けた。
本棚には父が若いときに読んでいたであろう本がズラリと並んでいる。
どうやら、ミステリーが多め。
本好きのわたしはテンション爆上がりした。
ちなみにこの本棚を開けるのはたぶん生まれて初めて。
その中でも1番目を引いたのは、
森村誠一
という作家である。
「〇〇の証明」というシリーズが何冊も並んでいた。
現代っ子のわたし(思いっきり昭和生まれだが)は思わずスマホを手にとり、
「森村誠一 オススメ」などと調べた。
すると、何作品もの名作を世に送り出している作家だということが判明。
私は30年以上生きていて恥ずかしながら、彼のことを初めて知った。
名作「人間の証明」
そんな名作の中からわたしが選んだ本が
「人間の証明」である。
調べると、
映画化・ドラマ化になっている。
どうやら父親世代は
「95%の人は知ってる本やで!!」と豪語する作品のようだ。
この作品は一言でいうと、「ミステリーサスペンスの中にある、愛をみつける物語」
あらすじは、かなりザックリだとこのような感じ。
ある1人の黒人男性が、高級ホテルのエレベーターで死体で発見される。
「ストウハ……」という言葉を残して。
一方、殺害された黒人男性の出身であるアメリカのハーレムで捜査している警官。
黒人男性が「”キスミー”に行くんだ!」と言って日本に飛び出したことを突き止める。
「なぜハーレム出身の黒人の男性が日本の高級ホテルで死亡?」
「誰が殺した?」
「キスミーって何?」
「ストウハの意味とは?」
前半はその謎を日本、アメリカ各々の警官が解明していく流れ。
解明するにあたり、様々な人物が浮上して、
事件が事件を呼ぶ。
出てくる人物たちは、
殺害された黒人男性にどのように絡むのか。
一体誰が犯人なのか、全く読めない。
興奮しすぎて、お腹がすいていたことも忘れていた。
なんで読む手が止まらないのか?
読み終わったあと、なんでこんなに興奮したのかを振り返ってみた。
それは当時の日本とアメリカの捜査の現状や、社会的背景をしっかりと描写できるように書かれているから。
黒人男性はニューヨークのスラム街出身。
スラム街の様子がまるで映画を見ているかのように鮮明だったのだ。
埃っぽささえも伝わる。
こんな書き方、誰が真似できるだろう??
さらに、戦後直後の日本の様子もしっかりと書かれている。
まるで自分がその場にいるかのような、書かれている光景を目にしているような感覚。
この本を読んで、「映画にしよう!」「ドラマでもいけるで!」という話が出てきたのがうなずける。
誰目線で読むか?
この作品は、父と子ども。男と女。母と子ども。各々のつながりや想いが交差しあっている。
つまり読んでる側は、いろんな関係性が絡まっていることを目にして、感情移入しやすい。
ミステリーなら「誰が犯人だ?」と犯人探しに躍起になるストーリーが多い。
しかしこの作品は、事件解決だけでは語れない、各々の人物が抱えている問題が垣間見える。
その人物ならではの目線と描写が細かく書かれている。
怪しいとされている母、子だけではない。
かつてそうだったんだろうな……と、
事件を紐解く警官たちですら、見たこともない人の気持ちまで伝わってくる。
さらにいえば、その警官たちの目線・想いも読者には伝わるのだ。
読む側の目線がひとつではないので、この小説の感じ方も人それぞれだろう。
すごいものを見てしまった。だから名作か。
ふっと手にした「人間の証明」
なぜこのタイトルなのか。
答えは1つではあるけど、
「証明」の方法はひとつではないからかな~っと感じる。
『愛とは?』という証明の仕方がいく通りもあるのと同じだ。
証明する方法は人によって違うし、
その方法が良し・悪しは誰も決められない。
その選び方がその人にとっては正解でベストなんだと。
読了後は、すごいものを見てしまった気持ちでいっぱい。
これをことばで語るのは厳しい。
けど、頭の中にあるものを書き留めておきたい一心で、パチパチとキーボードを打ってる。
圧巻!!!
ひとことで締めくくって申し訳ない気分(笑)
おまけ
父が持っていた「人間の証明」の文庫本は、相当古い。
表紙は、ぼっろぼろだ。
けど、丁寧にセロハンテープで直している跡が、なんとも言えない。
父も面白いと感じて、とっておきたいと思ったのだろうか。
さらに、
文庫本の間に「映画優待チケット」が挟まっていた。
当時、購入の際の特典だったんだろう。
(※トップ画参照)
この優待チケットを使わず敗れた箇所を丁寧に直して、
昭和の時代に本棚にしまわれていた文庫本。
まさか時代を超えて娘によって開かれてしまい、
写真まで撮られるとは
思いもしなかっただろうに。
「人間の証明」の感想だけでなく、
父がこの本を大切にしていた想いも一緒に、
わたしはnoteに載せてみたくなったのだ。