線形代数の次にやることは?それは統計学・群論・テンソル・量子論[物理・工学・情報向け]
イントロ
※今回の記事で挙げる本は、アマゾンのレビュアー"雑学家"さんと被ぶっている本が多くあります。わたしは"雑学家"さんではありません。
以前
「[2022年版] (物理・工学・情報)線形代数、挫折なしで重要な所までいく方法」
という記事を書きました。
この記事はその続編です。
引き続き、
アマゾン害 ※ アマゾンで検索して上位の書籍を安直に購入すること
対策として、
メジャー路線からズレた書籍をピックアップしています。
この記事の対象を以下と仮定しています。
非 旧帝 レベル
物理・工学・情報系向け
少なくとも数学科ではない
博士後期課程には進まない
プロにはならない
学生、社会人を含む独学者
もちろん、講義を受けている方も
さて、よく聞かれることがあります。
線形代数を学んで、
「その次はなにをやればいいのですか?」
です。
代数学?
ベクトル解析?
テンソル?
どれでもいい。
線形代数は、自動車免許証のようなことと捉えられます。
取得することで
どのような車に乗ってもいいですし
どこに行ってもいい
のです。(もちろん取得した免許の車種に限られます)
ひとまず、
下手・上手は関係なしに、
自動車免許証(固有値問題、特異値分解)
を取得すると、
無限のワールドマップが広がっています。
かなり広大なので、ひとまず目的地を決めましょう。
ということで、分野を工学・情報と物理に限って、いくつかピックアップしていきます。
※ つまり、代数学の紹介は、今回は除外します。
統計学,情報+人工知能
そして、線形代数の公式集
The Matrix Cookbook,Kaare Brandt Petersen,Michael Syskind Pedersen,2012
リンクを開くと、PDFが開く、もしくはDLされます。とにかく掲載されている公式が膨大。導出は終わり辺りのReferencesを参照ください。全部を導出したり、調べるのはやめておきましょう。使う式だけを見ましょう。
このThe Matrix Cookbookのような行列解析を解説した本は、和書ではほとんど存在しません。
現在、唯一入手しやすいのはコチラ。
行列解析の基礎 advanced線形代数,SGCライブラリ79,山本哲朗,サイエンス社,2010
現在は 電子版のみ(2019)
同じく山本哲朗先生による
もありますが、この後者はわたしには使うシーンが見当たらず、未購入です。
サイエンス社 SGCライブラリは、アマゾンでも購入できる書籍がありますが、中には転売者によってプレミア価格に設定されているケースがあります。サイエンス社 SGCライブラリは、サイエンス社から直接に定価+送料で購入できます。送料は数百円で、電車代ほどで済みます。
洋書、およびその翻訳書ならあるのですが、
この節で挙げた書籍を一度見ると、線形代数への捉え方が一変します。
斎藤「線型代数入門」や川久保「線形代数学」で語られる線形代数とは、大
きく異ることに気付きます。
「あっいままでの線形代数ではダメだったんだ」
とわかります。
SchottやHarvilleをなかなか見る機会がないかもしれません。
しかし、一度、どうにか立ち読みして、中を確認するのをオススメします。
わたしはHarville派です。
線形代数の統計学への応用は、ひとまずの入り口として回帰分析があります。
さらに進んで、
蓑谷千凰彦先生の書籍は、アプローチ・導出が丁寧で、加えて内容が豊富です。しっかり学びたい人はぜひ一度手にとってみてください。
物理学
リー代数 編
いまでは、すっかり忘れられているかもしれませんが、この3冊は名著です。
物理・化学の学生で群論に苦手意識を持っている、または本当に初学の方は
が取り組みやすいはずです。
ベクトル・テンソル編
「ベクトル解析」は、Stokesの定理まで至ることができれば、なんでもいいです。
※ こちらの記事「ベクトル解析を楽にする2つの公式,入門から幾何学の本たち」に追記しました。ベクトル解析から微分幾何・多様体までを一挙に取り上げています。
学習院大の田崎先生によるこの本は有名ですよね。
物理学向けに書かれていますが、工学・情報・経済にも有用です。
無料配布とは思えないクオリティです。
田崎先生、ありがとうございます。
テンソルの書籍は
どちらでもいいです。わたしは石原 本を使いました。
※ 反変ベクトル、共変ベクトルで、具体性が把握できず、意味が分からなくなったときには、「テンソル解析,David C. Kay,2018」 では成分の具体的な計算が豊富にあり、参考になるはずです。
これらをやっておくと、
難解と思われがちの流体力学や一般相対論をかなり楽に取り組めるはずです。
副読本として
をやっておくと、比較的新しいアプローチでの一般相対論で役に立つかもしれません。
ただ、物理の学生が微分形式をこの本以上で取り組むのはおすすめしません。
深入りしたとしても
までに留めておいたほうがいいでしょう。
先に物理を研鑽しましょう。
最近出た
は、量子コンピュータや量子論での発展的内容である表現論、また超弦理論など、理論重視な方向けです。
量子論(量子力学) 編
出版順に挙げると
わたしが学生のときは、竹内 本しかありませんでした。
※ 竹内外史先生は数学基礎論で世界的に有名な先生です。プリンストン高等研究所に在籍し、のちイリノイ大学で教鞭を取られました。数学基礎論の多くの名著を書かれています。入門向けに「新装版 集合とはなにか―はじめて学ぶ人のために(ブルーバックス)」があり、こちらも名著です。
とあります。わたしは、この竹内 本で、量子力学と線形代数に目覚めたといっても過言ではありません。
中原幹夫先生の本は品切れがつづいており、復刊が望まれます。培風館さん、よろしくおねがいします。
「線形代数」本になりますが、
も量子論(量子力学)を対象とした記述があります。
量子コンピュータでの計算は、解析学的な関数を取り扱うケースがほとんどなく、線形代数的(ブラケット記法)に洗練されています。そのまま進んでしまって、数学・物理を両方に学ぶというのもいいでしょう。
量子コンピュータと量子通信 1-量子力学とコンピュータ科学,Michael A. Nielsen & Isaac L. Chuang,オーム社,2004
量子コンピュータと量子通信 2-量子コンピュータとアルゴリズム,Michael A. Nielsen & Isaac L. Chuang,オーム社,2004
量子コンピュータと量子通信 3-量子通信・情報処理と誤り訂正,Michael A. Nielsen & Isaac L. Chuang,オーム社,2004
やはり、この本が一番よくできています。いま学生時期の方は、時間がかかっても原著で取り組むことをおすすめします。原著だと一冊ですし、安上がりだったりもします。
参考: 大阪大学基礎工学研究科 藤井啓祐 研究室 「これから量子コンピュータについて勉強したい学生さんへ」
Nielsen & Chuangの一歩手前として使える好著です。あまり知られていませんが、量子力学2巡目以降の本でかなりの良書です。もっと早く知っておきたかった。
お値段的にも
がお得です。
さいごに
今回も、
ブログなどのレビューではあまり見かけず、
アマゾンの検索でも上位に上がらない本を
挙げさせていただきました。
挙げた書籍は、わたしにとっては名著です。
これら書籍があったために随分助けられました。
皆さんにとっても名著であることを願います。
ぜひ、じっくり取り組んでいただけたらと思います。
[参考] シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成,安宅和人,NewsPicksパブリッシング,2020