思いはときに惨劇を招く
楽しい出来事に水を差したり、悲しい出来事に光を差したりという経験は皆さまお持ちではないだろうか。
しかしそんな出来事がすべて1つの復讐劇であったなら。
私が経験した出来事は高校の修学旅行サイパンをもとに起こったおぞましいお話です。
覚悟して見てください。(怖い話ではありません)
私の高校はいわゆる私立であり、修学旅行がサイパン島への7泊という多感な時期の私たちには充分サイパン人になりきれる日数での旅行が待っていた。
時期は11月。
寒さに体が慣れ、これから皮膚をワンランク分厚くするタイミングで常夏を感じに行くのだ。
死ぬほどテンションが上がっていた。
それはもちろん私だけでなく、同じ思いを3年間共有しあった仲間たち全員が感じていた。
そして当日。
結論から言うとこの話は南の国サイパンでの話ではない。
京都駅から空港までの日本のバスの中で起きた惨劇の話である。
京都駅発のバスに乗って空港まで約2時間30分程を走る予定だった。
バスは2台に分かれAクラスとBクラスで総勢80名強の男だらけの道のりになるはずだった。
しかし集合時間にひとりいない。
クラスでイジられ役であるCがいない。
車内がざわつく。
するといじめっ子でありゴリラ顔のGがブチ切れ出した。
そして10分後ダッシュで到着したCはクラスから罵声を浴びたがサイパンへ向かう高揚感の中これといったお咎めはなく空港へと出発した。
しかし、バスの後部座席の1つ手前を1人で陣取ったいじめっ子GはCをタコ殴りにしブツブツ文句を言いながら缶ジュースを飲んでいた。
「何飲んでんの?」
「酎ハイや、アルコール4パーやしジュースみたいなもんや」
きっとこの旅行をGは一番楽しみにしていたのだろう。
バチバチにキメにかかっていた。
酔った毛むくじゃらゴリラの話は続いた。
「パスタ4人前食うてきたわ」
「このジーンズええやろ、2万したんや」
もはや誰も聞いてなかったがGのテンションが人一倍上がっていることだけは皆認識していた。
そんな1時間近く経過した時である。
ゴリラが何も話さなくなった。
あまりグループ単位で話をするようなタイプでなかったにしろ無口すぎる。
「なんか顔色悪いけどどうしたん?」
「ちょっと腹の調子が悪いわ。まあすぐ治るやろ、ようあるやつや。」
人間の内臓はテンションについていけるものではない。
それはゴリラでも同じである。ゴリラの胃腸はテンションで食べたパスタも、テンションで飲んだ4%の酎ハイも消化を許さなかった。
皆で談笑やカラオケが始まる中Gは最後尾から担任やバスガイドのいる最前列へと歩いて行った。
「サービスエリアまで何分ですか?」
「だいたい20分ぐらいだと思います。」
Gはいつも肩で風を切って大股で歩くのだが、その時だけは蚊弱い毛むくじゃらの女性のように歩き、席に戻ってきた。
そこから5分後、衝撃的な言葉を聞いた。
「あかんかもしれん。」
いや、あかんは一番あかん!
この件に関しては被害者はお前だけじゃない。
みんなは笑いながらも危機感たるものを感じていた。
ジャングルにいるシマウマの大群の気持ちが少しわかったような気がした。
震えだした。
「あかん。」
絶対ダメだ。あと10分だ。
「ほんまにあかん。」
全員が合わせたかのように窓を開けだした。
「すまん。」
すまん?なんの謝罪!?
「ああーぁ、ああ゛ー、嗚呼〝ーーー!!!」
!!!!!!??????
「出た。すまん。」
ここからの描写は各々にお任せしたい。
ただヒントをお教えすると、
笑い声からすぐ悲鳴に変わったこと。
皆が思い思いにサイパンをイメージし持ってきた香水とバスに常備してある消臭スプレーが底を尽きたこと。
SAで予期せぬ1時間を過ごしたこと。
並走していたAクラスのバスの人間からはBクラスのバスの後ろ窓から大きなお尻が見えていたこと。
バスガイドが泣いたこと。
etc...
冬空の下、2万円のジーンズを捨てアロハ柄のハーフパンツ姿で現れたG。
我々は自業自得という思いを通り越し、残りの車内を皆で必死にカラオケをしてGを盛り上げた。
ただ1人だけは、車内で1人だけはいつまでもほくそ笑んでいた。
Cである。いつもGにイジメられていたCである。
後から考えればCの遅刻がなければGは一命を取り止めたのである。
たかが10分、されど10分。
完全なる復讐劇である。(真相は定かではない)
僕らはサイパンでホームステイもした。
透きとおるビーチで海水浴もした。
ただ僕らのサイパン1週間の修学旅行での一番の思い出は全員が同じである。
間違いなく日本のサービスエリアなのだ。
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