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【ノスタルジア】最終回 ❦GL恋愛小説❦

〈 卒業式 〉

私は優希さんの姿を最後にひと目だけても見ようと、キャンパスに来ていた。優希さんが卒業してしまえばもう偶然に会える事もなくなる。そう思うと、居てもたってもいられず学校に来てしまった。

どうしようかウロウロしてると、一通のLINEが来た。それはあの日以来、1年以上連絡を取っていない優希さんからのものだった。私は突然のLINEに驚いてしばしスマホを見つめていた。

すると、不意に背後から声をかけてくる人がいた。振り向くとそこにいたのは慶太さんだった。

「美桜ちゃん、ずいぶん久しぶりだね。もしかして卒業式を見に来たの?」

「あっ、いえ…そんなんじゃ…。それより慶太さん、ご卒業おめでとうございます。」

「ありがとう。でもその言葉、本当は別の誰かさんに言いたいんじゃないの?」

「えっ?」

「知ってると思うけど、優希は綾人と別れたよ。君たち2人のことはなんとなく想像がつくけど、しばらく会ってないんだろう?」

「⋯。」

「このまま会わずに別れるつもり?
後悔するんじゃない?」

「でも⋯。」

「それにごめん。後ろから声掛ける時に見えたんだけど、優希からLINEがきてたよね。」

「はい。でも⋯、このLINEを見る勇気がないんです。」

「美桜ちゃん、もしかしてそのLINE、削除しようだなんて思ってないよね?アドバイスさせてもらえるなら、今もし見る事が出来なくても、削除はしないほうがいいと思う。1回切ってしまった糸は、もう2度と繋がることはないんだ。今は無理でも、いつか必ず優希の気持ちを知りたくなる時が来る。その時、まだ糸が繋がっていれば、それを手繰り寄せられるよ。それが例えどんなに細い糸だとしてもね。」

私は慶太さんの話を聞いて、優希さんからのLINEを削除しないことにした。
今は勇気がなくて読むことができなくても⋯、
それが例えどんなに細い糸だとしても⋯、
未来につながってる可能性があるのなら切らずにいようと思った。

気がつくと、卒業式を終えた先輩たちの賑やかな声がキャンパス内に響いていた。皆がところどころで写真を撮っている。その一際目立つ輪の中に優希さんを見つけた。私は見つからないように慌てて隠れた。優希さんはたくさんの人に囲まれ楽しそうに笑ってる。私はその笑顔を見て安心した。優希さんの最後の記憶が、悲しみに押しつぶされそうな苦痛に満ちたものだったから。
私は辛い時も悲しい時もあなたのその笑顔に救われました。
これからもあなたのその笑顔が曇ることがないよう…、私は心から祈っています。

優希はみんなと卒業写真を撮りながら、どこかに美桜がいるんじゃないかと探していた。
美桜に送ったLINEはまだ既読になっていない。
美桜は私が送ったLINEを読んでくれるだろうか?
美桜と過ごしたあの夜を、私は決して忘れない。
たとえ、あなたを深く傷つけた私が許されることがないとしても。

そして出来ることなら…
もう一度だけ会いたい。

でも、美桜の気持ちを考えると、私から一方的に会いに行くことは許されない気がした。

結局その日、2人の思いが交わる事はなく月日は流れた。



美桜は大学を卒業し、Web制作会社で働いてる。
忙しい仕事が一段落ついたその時

( 過去に置き去りにしてきた心に、今なら向き合えるんじゃない? )

最後に優希さんに会って以来、3年以上の月日が経っていた。あれから懸命に生きてきた私の心をその歳月が緩やかに癒してくれた。


そして、今日は私の誕生日。


優希さんに祝ってもらった日の事を思い出したが、胸は痛まなかった。
もしかして、今なら優希さんのLINEを読めるかもしれない…、そう思った。
私はじっとLINEの画面を見つめ、3年間読めなかった優希さんからのLINEを思い切ってタップした。



美桜へ

美桜、今日は卒業式です。

これで偶然どこかであなたに会えるかもという期待すらなくなります。
このLINEをあなたが読んでくれることを願って、今の正直な気持ちを綴ることにしました。

あなたと過ごしたあの夜を、私は後悔した事は1度もありません。
あなたの息遣い、柔らかな肌、温もり、それら全てを思い出すと今でも心が震えます。
ただ1つ後悔する事があるとするならば「綾人と寝たの?」そう尋ねた事。
2人の仲を疑ってあなたに放った言葉の数々が、今、ブーメランとなって私自身を苦しめます。
私が嫉妬したのは綾人にではなく、あなただった。
美桜の相手が、なぜ私じゃなかったの?と。
そしてあの夜、あなたと愛し合ったにも関わらず自分に自信が持てなかった私は、嫉妬心から美桜を問い詰め傷つけた。
こんな自分を私は…、今もこれからも決して許すことはないでしょう。

美桜は『最初から全部なかったことにして欲しい』と言ったけど、私が『最初から全部やり直したい』と言ったらあなたはどうしますか?

許されるならば、あなたの誕生日を祝ったあの公園からもう一度始めたい。

美桜、私はあなたを愛しています。
今までも…これからも…ずっと。

優希


私は声を上げて泣き、握りしめたスマホの画面に涙を落とした。
優希さんの言葉を⋯、優希さんの想いを知るのに3年もかかった。
私だけが辛かった訳じゃなかったのに。
優希さんはその間どれだけ自責の念にかられたのだろう?
私は今でも優希さんに貰った指輪をペンダントにしてつけている。それを握り締めながら、過ぎ去った月日の長さを思いまた涙した。

泣き止んだ私は、今から行けば優希さんと誕生日を過ごした公園に今日中に行けると思った。

大学を卒業して他県で就職した私は、1度も大学時代のその場所に帰ってはいなかった。しかし、1度思い立つと居てもたってもいられなくなり、私は片道4時間もかかる距離を車で走る事にした。

「優希さんがいるわけないのに、それでもあなたは行くの?」

そう何度も自問自答したけれど、私を駆り立てるこの気持ちは変わらなかった。
なんの根拠もないけれど、そこに行けば何か答えがあるような…、そんな気がしていた。

やっと着いた頃には既に8時をまわり、もちろん辺りは真っ暗になっていた。
誕生日のあの日の記憶を辿るように、優希さんと会ったケーキ屋さんであの時と同じショートケーキと濃厚ガトーショコラを買い公園へ向かった。

「確か、あのベンチだったよね。」

そう思いながら近づいていくと、そこで1人花火をしている女性がいる。

…優希…さん?

いいや、そんな訳ないか?
会いたいと思う気持ちが強すぎるから、優希さんに見えて…

「えっ…、優希…さん?」

美桜が近づいていくと、そこで花火をしていたのは優希だった。

「美…桜…。」

私たちはお互い、目の前の光景がすぐには信じられなかった。それぐらい2人とも驚いていた。会えるはずがないと思っていた相手に奇跡的に出会えたのだから。

「優希さん、どうしてここに?」

「美桜こそ、どうして…?まさかホントに会えるなんて思ってなかった。髪、伸ばしたんだ。凄く似合ってるし大人っぽくなったね。」

「優希さんも髪色変えたんですね。とっても素敵です。」

「私ね…、毎年美桜の誕生日に、会えるはずがないと思いながらもあなたをここで待ってたの。」

「優希さんが私を?優希さん、私、優希さんからのLINE…。」

「知ってる、ビックしたよ。いきなり既読になったから。3年間1日も欠かさず、既読がついてないか確認してたからすぐに気づいたよ。」

「もしかして、3年もの間私の事を待っててくれたんですか?」

「ずっと美桜に会いたかった。そして謝りたかった。美桜の事が好きだったのに、妹だって自分の気持ちごまかして、嫉妬からあなたを傷つけた。桜を見ても、花火を見ても、冷たい風に晒される事でさえ美桜の事を思い出した。春がきて、夏が来て、秋から冬に…、どれだけ季節が変わっても、美桜の事を思い出さない日は1日もなかったよ。美桜を傷つけた痛みに比べたら、待つ苦しみにも耐えられた。あの夜のこと、忘れることも無かったことにも出来ないよ。美桜…。許されるならもう一度、最初からやり直したい。」

優希さんは私が買ってきたケーキに花火を刺すと火をつけた。
暗闇に光る花火が私たちの顔を照らしだす。
そして、優希さんがゆっくりとバースデーソングを歌い出した。
花火の向こうで優希さんの声が涙で震えてる。もちろん私も泣いていた。
私はそんな優希さんを見て、この人ともう一度やり直したい…、いや、やり直すんじゃない、最初から…、1から始めたいと…、そう思った。

花火が散り、歌が終わると2人は見つめあった。そして、優希の方から歩み寄りガラス細工を扱うように優しく美桜を抱き寄せた。頬を赤らめた美桜も優希の腰に手を回し、そっと胸に顔をうずめた。

そして、2人は3年の歳月を埋めるように長い長いキスを交わした。

ここから私達はもう1度最初から始める。
新たな物語を2人で紡いでいく為に。


THE END

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