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【 パンドラの箱が開く時 】vol.2 忘れられない恋 ❦恋愛小説❦
若葉の季節に
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エレンは現在27歳。
これから語る恋の後、その想いをかき消すように幾度も恋を重ねてきた。
なのに新緑が芽吹き若葉の季節になる頃、いつも彼女との出会いが胸の奥から顔を覗かせる。
若き日のあまりにも幼い恋。
これからどれだけ新しい恋を重ねても、彼女を忘れる事は無いのだろうか?
「ねぇ、私と一緒にやらない?」
「えっ、私?」
私の名前は桐島絵恋(エレン)、
若草中学3年6組。身長167センチ。
雰囲気的には本田翼ちゃんににてると言われている。総勢60人いるバレー部員の中でただ1人の1年生からのレギュラーだ。
部活が始まるとランニングをし、次に2人1組になってのパス練習。
しかしこれが超クセもの。
奇数になるとペアが組めずに余る子が必ず出てくるのだ。
女子の人間関係は流動的なもので、何かと目立ち過ぎる私は最近特定のペアがいない。
そんな時に声をかけてきたのが3年1組の山名莉子だった。
最近メキメキと力をつけてきた莉子は今やレギュラー候補。しかし莉子とはペアを組んだことが今まで1度もなかった。
そんな莉子が私を誘ってきた。
私は自分で言うのも何だが、後輩から絶大な人気がある。先輩風をふかせもしないし、上下関係なんか気にしない。しかし規律を重視する同級生達からは良く思われてなかった。学年トップクラスの運動神経で背も高くサバサバ系。男女ともに友達も多く目立ちすぎてる自覚もあった。
対して莉子は学年でもトップクラスの美人。莉子の事はあまりよく知らなかった私でも、言い寄ってきた男子を取っかえ引っ変え付き合ってるって噂は、どこからともなく耳に入ってきた。ホントのところがどうなのかは知らないけど、まぁそんなとこが女子から敬遠されてたのかもしれない。
そんな莉子が次の日もまた次の日も私に声をかけてきた。若干浮いてる者同士、何故か妙に馬があった。
「早く終わったから来ちゃった。」
屈託のない笑顔で莉子は言った。
莉子のクラスはホームルームの切り上げがとても早い。だから迎えに来るのはいつも莉子。いつの頃からか廊下の隅にちょこんと座って、私のクラスのホームルームが終わるのを待つようになった。それから一緒に部活に行くのが日課になった。
すると今度は放課後だけではなく、中間休憩や昼休憩も私のとこに来るようになった。
「エレン…、来ちゃった。」
「毎回それ言うね。」
「ふふふっ、そうかな。」
「そうだよ。」
クラスによって雰囲気が違うから、よそのクラスに行くのは恥ずかしい。なのに莉子はそんなことお構い無し。その頃の私は、莉子が来てくれるのを期待して待つようになっていた。
そんな時、莉子に新しい彼氏が出来たって噂が流れた。お相手は生徒会執行部の鈴木君。
私は何気に聞いてみた。
「彼氏のとこに行かなくていいの。」
「何、それ?」
莉子は櫛で髪をとかしながら鏡越しの私に言った。
「鈴木くんと付き合い出したって聞いたよ。」
「ふふふふふ…。」
彼女はそれ以上何も言わなかったし、私もそれ以上何も聞かなかった。
あと、もう1つ彼女には噂があった。
学年の中に不良と呼ばれるかなり目立つグループがあった。彼女は、その子たちとつるんでると言う噂だった。でも、私は学校で不良グループと一緒にいる姿を1度も見たことがない。だからなんでそんな噂がたつのか不思議でならなかった。
莉子はどこかつかみどころがなく、ミステリアスなそんな子だった。
そんな時、部活の数人で一緒に映画に行こうという話が出た。
当時流行ってた恋愛映画。すると
「私もエレンも参加しまーす。」
そう言って莉子は手を挙げた。
「えっ、私まだ何も言ってないけど…。」
「楽しそうじゃん。行こうよ。」
そう言って勝手に参加を決めた。
でも私は、一緒に映画に行けることが内心嬉しかった。
次の日曜日。
映画に来た莉子と私は隣同士に座り、1つのポップコーンを一緒に食べていた。すると、お互いのタイミングが重なり思わず手が触れた。私はさっと手を引っ込めたが、莉子はポップコーンを1つ掴んで私に向けた。
「はい、あ~ん。」
「えっ?」
「早く…。」
「あっ、うん。」
急かされた私は思わず口を開け、入れられたポップコーンを食べた。
するとイタズラな笑みを浮かべた莉子が言った。
「ふふふ、今度は私にも。」
そう言って目を閉じ、私が食べさせるのを口を開けて待っている。
私はドキドキしながら莉子の口にポップコーンを放り込んだ。
「ふふ、美味しい。」
それからは交互にお互いの口に入れあった。
暗いとは言え友達に見られてないか心配だったし、映画の内容とリンクして何だか甘い気持ちになった。
半分ぐらい映画が終わったところで、主人公たちのキスシーン。ドキドキしながらスクリーンを眺めていると、今度は太ももの横に置いたお互いの手が触れあった。咄嗟に手を引っ込めようとする私より早く、莉子が私の手を握った。
「ダメ…?」
「えっ、いや…、ダメじゃないけど、誰かに見られちゃうよ。」
「暗いから大丈夫だよ。それに…。」
「それに…?」
「手…、繋いでたい。」
(えっ、ちょっと持って?どーゆー意味だろ。いや、あっ、でも…。)
私はドキドキしながら、指を絡めてる手を繋ぎ直した。
莉子は嬉しそうに肩を寄せてきて
「ふふふ」と笑った。
こんな経験初めてだった。
映画が終わりみんなでお茶して解散した。
今なら帰って電話したりLINEしたりしたんだろうな。でも、中学生でまだスマホを持たせてもらってなかった私たちは、連絡を取りあうこともなかった。
今日の莉子の態度はどういう意味なんだろう?
自分の抱いた感情の意味も莉子の態度の意味も、まだこの頃の私は理解していなかった。
𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭