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【 ノスタルジア 】Part3 ❦ GL恋愛小説❦

優希さんと一緒にいることが多くなってから、必然的に優希さんの彼氏の綾人さんとも一緒にいるようになった。優希さんが私のことを妹扱いするものだから、綾人さんも

「優希の妹なら俺の妹でもあるよなぁ。」

そう言って、私を可愛がってくれた。

そんな綾人さんには親友の慶太さんがいる。陽気な綾人さんとはタイプが異なり、ゆったりとした文学的な雰囲気を感じさせる人。どちらかと言えば正反対の2人なのに気が合うんだから不思議だった。

そんな訳で、私たち4人は自然と一緒にいるようになっていた。ちなみに慶太さんは1年前、2年ほど付き合った彼女に振られたらしい。

「お前達、雰囲気似てるよ。付き合っちゃえば?」

そう言って、綾人さんはよく私と慶太さんをからかった。そのたび、優希さんは子犬を守る母犬のように綾人さんに噛み付くのだった。

「美桜は私の大事な妹だよ。泣かせるような男には任せられない。」

すると、くすくす笑いながら慶太さんは優希さんに反論する。

「俺が別れた彼女の事、どれだけ大事にしてたか優希は知ってるだろ。優しすぎて物足りないって振られたのは俺なんだぜ。もちろん浮気なんてしたことないし。」

「万が一、美桜ちゃんと付き合うようなことがあったら、俺、ほんとに大切にするよ。」

そう、本気とも冗談ともつかないおどけた口調で慶太さんは言った。


今日はクリスマスイヴ。

前々から今年のイヴは4人で遊園地に行こうという話になっていた。スケートリンクもあるし、夜は綺麗なイルミネーションも点灯される。カップルにとっては格好のデートスポットだ。

いくつかのアトラクションを4人で回った後、2組に分かれて行動することになった。もちろん優希さんと綾人さん。必然的に私と慶太さんがペアになった。

別れ際に、慶太さんが優希さんを少し離れたとこに呼んだ。

「優希⋯、俺、今日、美桜ちゃんに告白しようと思う。」

「えっ、ちょっと待って、急に何言ってんの?そんなの聞いてないよ。」

「そりゃそうだよ。今まで誰にも言ってないからね。でも俺、本気だから⋯。」

「いや、でも、あの子は誰とも付き合わないと思うよ。慶太もよく考えてから⋯。」

優希の話を遮るように慶太は答えた。

「わかってる、よく考えた結果だから⋯。とにかく俺の気持ちは変わらない。じゃあ、また後で⋯。」

優希にこれ以上引き留められない内に、慶太は美桜のところへ走った。

「ごめん、お待たせ。じゃぁ、行こうか。」

慶太さんは私を促し次のアトラクションへ向かった。

慶太さんと2人の時は私が半歩前を歩く。話しかけようと振り向くと、慶太さんが穏やかな眼差しを向けてくれてる。私は優しい慶太さんに居心地の良さを感じていた。

「ちょっと休憩してあったかい飲み物でも飲もうか?」

慶太さんはバラ園の前の白いガーデンチェアに私を座らせ、飲み物を買ってきてくれた。

「ホットココアでよかったよね?寒くない?」

「ありがとうございます。大丈夫です。」

私は温かいココアを1口すすった。

「俺、前から美桜ちゃんに聞いてみたいことがあるんだけど、いいかな?」

「なんですか?」

「美桜ちゃんはさぁ、誰かと付き合う気はないの?」

「えっ?考えた事ないですけど⋯。」

「そう⋯。でも、モテるでしょ?小柄で今流行りのショートカット。見た目は浜辺美波ちゃんっぽいってよく言われるでしょ。性格はちょっと控えめでみんなに優しい⋯、そんな子がモテないはずないんだけどなぁ。俺、立候補してもいいかな?」

慶太はそう言うと美桜の返事を待った。しかし、美桜の返事が一向に返ってこない。もう一度声をかけようとしたその時、美桜の視線が誰かを追っていることに気づいた。その視線の先には2人分のカップを持って歩いている優希がいた。所々寒さで地面が凍りついてるとこがあり、危ういなぁと思っていたら案の定、優希が滑りそうになった。

「あっ!」っと思った時には美桜ちゃんはもう、優希に向かって走っていた。優希は転ける直前で踏みとどまったようで、美桜ちゃんに「大丈夫だよ。」とでも言っているようだった。

少しして美桜ちゃんは戻ってきた。

「すみません、話の途中で。⋯で、何でしたっけ?」

「う~ん、大した話じゃないから気にしないで。」

俺はこのとき既に、告白の返事は聞かなくても分かっていたんだと思う。

それから4人で合流して今度はスケートリンクへ向かった。

俺が美桜ちゃんの手を引いて滑っていても、美桜ちゃんの視線はやっぱり別の方に向いていた。もちろん視線の先には優希がいる。優希が転けやしないかと目で追っているようだった。

夕方になり、イルミネーションが点灯した。

俺はイルミが1番きれいに見えるスポットに美桜ちゃんを連れて行き、ベンチに座った。

「美桜ちゃん、昼間話しかけたことなんだけど⋯。」

「ごめんなさい、話が途中になっちゃって⋯。」

「うん⋯、じゃぁ、もう一度言うね。俺と付き合わない?俺なら美桜ちゃんのこと大切にできると思うんだ。」

「えっ?⋯私と⋯。」

「もしかして、好きな人でもいるの?」

「いえ⋯、好きな人だなんて。でも⋯。」

「でも⋯何?気になる人でもいる?」

「⋯。」

「⋯俺、前の彼女に振られたって話しただろ⋯。別れる少し前から彼女の態度で気づいてた事があって⋯。」

「⋯。」

「俺と一緒にいても、彼女の視線がいつも誰かを追ってるんだ。その視線の先を見るといつも同じ男がいた。結局、彼女はそいつを好きになって俺と別れたんだ。」

「⋯美桜ちゃんも、その彼女と同じことしてる。」

「えっ⋯?どうゆうことですか?」

「わからない?⋯本当はもう、気づいてるんじゃないの?自分でも。」

「そんな⋯、何の事か分かりません。」

「好きって気持ちに気づくまでに段階があると思うんだ。最初はその人に会うだけで嬉しく感じる。それが次第に、その人ばかり目で追うようになったり、おいしいものを食べたときに同じものを食べさせてあげたいと思ったり⋯。その人のことを考える時間が次第に多くなってきて、その気持ちが『好き』ってことなんだって気づく。」

「私⋯、好きな人なんていません。推しって意味で好きな人ならいます。でも、それは憧れであって、アイドル的な存在だから⋯。」

すると慶太さんが私の両肩を掴んだ。そして顔を近づけてきたのでびっくりして、力いっぱい突き飛ばした。

心の中で『優希さん助けて』と叫びながら。

「ごめん⋯。キスするフリをしただけだよ。美桜ちゃんはもう気づいてる⋯、ただ自分で認められないだけなんだ。今、心の中に誰かが浮かんだだろ?きっと、それが答えだと思うよ。」

私⋯、

本当はもうわかってた。
妹って言われて胸が痛んだあのときから。

優希さん⋯。
そう⋯、私は⋯あなたのことが⋯。

「俺は自分の気持ちに正直でいいと思うよ。推しって言葉でごまかさなくてもね。」

「⋯。」

「あと、この事は誰にも言わないから、心配しなくていいよ。」

「⋯どうして?」

「えっ?」

「⋯⋯、今のままで私は充分幸せだったのに。そばにいて声を聞けるだけでよかったのに。この気持ちに気づいたってどうにもならないのに。どうして気づかせるようなことをするんですか?」

「気づかないふりをしてると、これから先どんどん苦しくなってくよ。向き合った方が美桜ちゃんの為だと思ったんだけど⋯、お節介だったかな?」

自分の気持ちに答えを出してしまった今、私はどんな顔をして優希さんに会えばいいの?

「慶太さん、ごめんなさい。私ここで帰ります。優希さんと綾人さんにも謝っておいて下さい。」

私はいたたまれなくなり、走って逃げ出すしかなかった。

綾人と優希と合流した慶太は、美桜が帰った事を伝えた。

すると優希が掴みかかりそうな勢いで慶太を責めたてた。

「さっき、告白するって言ってたよね。美桜に何かしたの?まさか、彼女を傷つけたりしてないよね?」

「何もしてないよ。告白して、多分⋯俺が振られただけ⋯。」

「それなら、何も言わずに帰るなんておかしいじゃない?何があったのか正直に答えてよ。」

「ホントに何もしてないってば。心配なら本人に直接聞いてみれば?」

綾人が俺たち2人の間に入って優希を宥めようとしてくれるが、優希は全く聞く耳を持たない。

すると綾人は言った。

「そんなに心配なら、美桜ちゃんのとこに行ってあげなよ。俺ら2人で飲みにでも行くから。」

「いいの?」

「仕方ないだろ?そうでもしなきゃ、優希の気持ちがおさまらないみたいだから。」

「ごめん、美桜は私の妹みたいなものだからほっとけないの。ありがとう。じゃあ、行くね!」

慶太は心の中で呟いた。

(優希⋯。お前も美桜ちゃんと同じなんだな。でも、彼女はいつまでも妹ではいられない。)

慶太は常に一人だけ、先を見据えているようだった。

優希は美桜に電話をかけ続けるが繋がらない。もちろんLINEもしてみるけど既読にならない。美桜のアパートに行ってみたが帰っていなかった。

( 美桜、今、どこにいるの?)

優希は焦って上手く考えがまとまらない。しかしそんな時、1つだけ浮かんだ場所が⋯。打ち消しかけたけど何度考えてもそこしか浮かばなかった。

そう、夏の夜、美桜の誕生日を祝ったあの公園だ。


一縷の望みをかけてその公園へ行くと寒空の下、ベンチに座る美桜がいた。辺りはイルミネーションで明るく輝いている。

優希は走って美桜のもとに駆け寄った。

「美桜、探したんだよ。こんな寒空の下に1人でいたら風邪ひいちゃうよ。」

「⋯⋯。」

「美桜、どうしたの?何とか言ってよ。慶太となんかあったの?」

「優希さん、今日クリスマスイヴですよ。綾人さんはどうしたんですか?」

「今、そんな事はどうだっていいよ。とにかくこんなとこにいたら風邪ひくから、帰ろう。」

優希が美桜の腕を掴むと、美桜はその腕を振り払った。

「私の事はほっといて下さい。」

「ねぇ、急にどうしちゃったの?美桜は私の妹でしょ?ほっとける訳ないじゃない。」

「⋯⋯。」

「私⋯、妹なんかじゃない。妹なんかじゃ⋯。」

美桜は涙が溢れ震える声で叫んだ。
優希さんに敬語以外の言葉を使ったのはこれが初めてだった。

「美桜⋯。」

2人とも何かが変わろうとしていることに気づいて戸惑っていた。
空からは初雪が舞い、イルミネーションの光とともに2人を包んでいた。


To be continued

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