クリスマスイブに半世紀をさかのぼる
小学生の頃までは家にクリスマスツリーを飾って、「サンタさん」が来るのを楽しみにしていた。昭和40年代から50年代前半のことである。
チキンはというと、コンビニもマクドナルドも、KFCも自宅近辺にはまだなかった。食卓には、最寄りのスーパーで母が買ってくる鶏の骨付きもも肉をフライパンで焼いた「ローストチキン」が置かれていた。クリスマス以外には登場しないメニューだったので、「クリスマスはローストチキンを食べるもの」と思っていた。
骨付きチキンと格闘したあとは、お楽しみのケーキの時間。いまのように気軽に、手軽にケーキを作れたりデコレーションしたりできるセットが売っている時代ではない。ケーキは「ケーキ屋で買う」ものだった。
幼児の頃は、まだ生クリームのケーキは一般的ではなかったし、あっても高価だったため、母が買ってくるのはバタークリームでデコレーションされたものだった。クリームがこってりしていて、実はあまり好きでなかった。
小学生時代には、ねだって一度だけ「アイスケーキ」を買ってもらった。けれども、薄いスポンジの上に水色、ピンク、黄色、オレンジのアイスが層になっているだけで、単なる「アイス」でしかなかった。これならふつうのケーキのがいいやと思い、その翌年からはホールケーキも止めて、ショートケーキになった。
その後、中学生以降のクリスマスは記憶にない。社会人になり家を出てからは、近所のモスバーガーでチキンを買ってきて、自分でフルーツケーキを焼いたりしていた。
それから数十年が過ぎた。
昨日、クリスマス前日であることに気づかず、仕事と片付けを少ししてから散歩に行った。川べりのお気に入りのコースは、ふだんの土日はランナーが何十人も走っているのに、すれ違う人がほとんどいない。今日は人が極端に少ないなぁ……なぜだろう。
ここでやっと「クリスマスだから、みんな家族と一緒にご馳走の準備をしているのか!」と悟った。
最近は運動不足で、あまり歩いていなかった。帰路は、久しぶりだったので疲れたなぁと思ったところにミヤマ珈琲が見えたので、休憩しようと入店する。
メニューを開くと、ピンク色の飾りが目立つシフォンケーキが目に飛び込んできた。「いちごみるくのふわとろシフォン」とある。
小学生時代、家族に「飴オンナ」と呼ばれたくらい飴ばかり食べていた。なかでも一番はいちごみるく。いちご味の飴をカリッとかみ砕くと、ミルクの味がサクサクと口いっぱいにひろがる。味というより食感に夢中になった。「なめる」のではなく「食べる」飴の出現にすっかりとりこになった子どものひとりだった。
その「いちごみるく」をあらく砕き、シフォンケーキにふりかけたケーキが、半世紀後のいま、ここにある。オーダーするしかない。
待つこと10分、メニューの写真どおりの姿が運ばれてきた。シフォンケーキに半立ての生クリームをかけた上には、たしかにいちごみるくが全面に振りかけられている。
砕かれた飴のかけらをいくつか、こぼさないようそうっと口に入れる。
「そうだった! こういう味だった!」と一気に半世紀をさかのぼったわたしは、「飴オンナ」に戻ったのだった。
いまはこんな風に、ケーキにもなっているんだね、いちごみるく。そうかそうか。ああ、クリスマスだなぁ。皆に平和が来ますように。