木下是雄『理科系の作文技術』~感想

 定評ある文章術本だが、なかなかページが進まず読みづらかった。この著者ならではの「工夫」がわたしには合わなかったのだろう。
 たとえばセミコロンの使用。著者は積極的に勧めており、この本にも多用されているが、わたしは、日本語の文章中にセミコロンが出てくると気になり、集中して読めない。
 「なるほどー」「そうそう」と思った箇所も多い。以下、本の内容を要約したあとに、当該箇所に対する自分の感想を書いていく。特に用語で久松の「まとめ」によるミスがあるかもしれない。気づいた方はご指摘いただけると嬉しい。

目標規定文:まずは主張をまとめた文を書く。これに収束するように文章全体の構想を練る。

 実用文はやはりこうやって書くのが王道。「主張をまとめた文」に収束するように構想を練る、ということ。

道順の教え方:微視型と巨視型。まずは大づかみに目的地との関係位置を示してから道筋を説明するのが巨視型だという。著者はこちらを勧める。

 文章としてはそうだろう。だが実際に道順を教えてもらう場合、「ここを100mくらい行って右に曲がり……」の微視型で教えてもらわないと、まずたどりつけない。書く場合とその場で話す場合の違いによるのか。

トピック・センテンスの展開:主張のパラグラフは、展開部に十分の材料を準備してかからないと力強く書けない。

 実用文ではトピック・センテンスが重要であることは言うまでもない。だが、文章とはそれだけではない。「力強く」書くためには、それ以外のところを補強しなければならない。

レゲットの樹:逆茂木型の文は書いてはいけない。論述の主流から外れてわき道に入るときには、わき道にはいるところでそのことを明示しなければならない(わき道の話を読み終わってからその話と主流との関係がわかるのではいけない)。

 この本をひとことで言うと「逆茂木型はNG」ということになるだろう。けれども、日本語の構造(修飾句・修飾節前置型)により、どうしても逆茂木型の文章になってしまうことが多い。難しいだけに、いつも意識していないといけないね。文章の幹は幹であると明確にする。

わかりやすく簡潔な文にするために:文を短く、そして論理的にきちっとつなぐ。

 文を短くするのは当然だが、相互の関係が明確にわかるように、整然とならべて丁寧に説明していかねばならない。だが、それを「短く」書くことが難しい。ライティングのスクールに行ったり添削を受けたりすると、自分の弱点のひとつがこれだといつも思う。

なかぐろ:並列・並列連結を表す記号

 なかぐろの用法として「図・表の使い方」などと挙げられているが、並列される語同士が「図」と「表」くらい短ければ、「・」がないほうが読みやすくないだろうか。

漢字だけでかくことば:ベタに二つ続けるのは避ける。

 具体例として、「報告書は一見官庁用語をならべ立てた文書」ではなく「報告書は、一見、官庁用語をならべ立てた文書」とするようにとある。「比較的少ない」ではなく「比較的すくない」とする、という。後者はよいが、前者は読点が多すぎると思う。
 わたしなら前後の語句ももうすこし変更する。「一見」を別の言い方にして、漢字の連続を避ける。ここだけの文脈で直すなら「報告書とは、官庁用語を並べ立てた文書に見えます」などとするだろう。

表9. 10 校正記号

本書p171

 p171に著者がアカを入れた校正記号の図があるが、校正者としてこれは賛成できない。とくに、訂正する語には、単に引出線を引くだけはよろしくないと思う。やはり「どの語を訂正するのか」が明確になるよう、テキストの右側に線を引くなりテキストを囲むなりしないと、オペレーターが間違える元になるのではないか(じつは昔、この本の例と同じように赤を入れて指摘されたことがある)。

説明書の書き方:その物を手にした人の動作を想像(思考実験)して、そのとおりに書く。カメラの説明書なら、電池の入れ方からではなく、ファインダーを覗いてピントを合わせるところから書くべき。

 諸手を挙げて賛成。世の中の説明書というのは、どうして知りたいことが後ろの方に書いてあるのだろう。どんな商品であっても、客は箱を開けたらまず何をするか(したいか)、それを想像してマニュアルを書いてほしい。
 料理のレシピもそう。「あらかじめ火を通した鶏肉を」と途中に入れるのはやめてほしい。下ごしらえが必要なら、最初にそう書いておいてほしい。その場で手順どおり作っていっただけで出来上がる。それがレシピというものではないのか。

図をうまく使う:写真よりも、細部を適当に省略した図のほうが要点をつかみやすいことが多い。

 この本以外で述べられているのを見たことがないのが、まさにそのとおり。わたしは説明書を読むのが苦手だが、写真を見ても首をかしげることが多い。図のほうがずっとよくわかる。

(文章ではなく)壇上で話をするとき:「あの人の話は歯切れがいい」といわれる人の講演は、次の3つの条件を満たしている。a) 事実あるいは論理をきちっと積み上げてあって、話の筋が明瞭である。b) 無用のぼかしことばがない。c) 発音が明晰。

 わたしは話の聞き手としてレベルが低いので、上手い人の話じゃないと聞くことができない。話下手のスピーカーでは、聞き疲れてしまって内容がまったく入ってこないのだ。こういう風に話してもらえると、内容に集中できてとてもありがたい。
 同時に、講師業もやっているので、いつもこれを考えなければならない。
 c)「発音」は、日々トレーニングを積み上げることで改善できるし、そのようにしてきた。b)は文章を書くとき(資料をつくるとき)に必ずカットするようにしている。相当注意してそうしている。
 問題はa)だ。「事実あるいは論理をきちっと積み上げてあって、話の筋が明瞭である」。わたしのセミナーでは課題に沿って話をしていくが、その説明がつねに「論理を積み上げ」「筋が明瞭」になっているだろうか。自信がない。資料を作り、ナレーション原稿を書くときにいつもこのことを思い出すよう、noteに投稿しておくことにする。

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