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meria 一章

6
角の生えた人間の暮らす異世界に飛ばされた少女は…
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#オリジナル小説

meria 一章 - 6

「ぐああぁぁぁぁ!!!」

悲鳴と床に叩きつけられる衝撃で愛菜の意識が戻った。
だが急に立ち上がったような立ちくらみと頭を揺らすような頭痛に襲われ、目の前で苦しそうに呻くエクセルと一緒になって床へうずくまる。

「なんだ!?何があった」
「術が……跳ね返された」

エクセルがようやく出した声はやや落ち着きを取り戻していたが、まだ全身の震えが止まっていない。そして何故か顔を両手で覆ったままこちらに顔

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meria 一章 - 5

ちょっとだけ……本当にちょっとだけ……。
そう自身に言い聞かせるエクセルの目に映るのは怯える少女の顔ではなく、見たことのない景色だった。
登っていく階段や建物に入る扉を見ていた視線が「愛菜」と呼ぶ声がしてぐるりと変わる。その愛菜と同じ服を着た見知らぬ少女の姿が現れ会話が始まる。
そう。この光景は全て愛菜の記憶であり、今見ているエクセルのものでは無い。

「辛いのはわかるけどさぁ……正直うっとおしい

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meria 一章 - 4

「へっくしゅん」

妙な悪寒がし、くしゃみが止まらなくなった。
外に出る支度をしながらくしゃみを連発するものだからエステルとカミルが心配そうに愛菜に外に出るのはよした方がいいのではと声をかける。

「でも、今日はなんだか忙しそうですし、邪魔をしては悪いですから」
「私達親子が忙しくなる内容ではないが、本当に良いのかい」
「ちょっと村の見学もしてみたいですし」
「落ち着いたら後で、私の幼なじみを紹介

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meria 一章 - 3

目が覚める少し前に、ひどく懐かしい顔を見たような気がしたが気のせいだった。
馬車で運んだ少女の顔が妙に忘れられなくて、夢にまで出ていた。久しぶりの情欲にまかせ微睡んでいたが、部屋の扉をやかましく叩く音で現実に戻される。

「てぇめぇ何回起こしたら起きるんだ!!いいかげんにしろよ!!」
「あのねぇ……上司をてめぇ呼ばわりしないでくれないかね」

ようやく起きたにも関わらず食事の目の前で今にも意識が飛

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meria 一章 - 2

自宅に帰った直後、エステルの父カミルは玄関先で壁を殴りつけ怒りで震えていた。

「化物分際でぬけぬけと……!!」

幾度と無く壁を殴りつけた後、ようやく落ち着いたのか腕を下ろす。ふらふらと家の中を歩きまわると手からは滲んだ血が床に落ちて彼の後ろをついてまわった。
何を探しているのかと思えば彼はまだ帰っていない娘の名前を呼んでいる。必死の形相で二階へ上がり、血の滲んだ手で彼女の部屋の戸を叩いた。

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meria 一章 - 1

歩き出してどのくらいの時が経っただろうか。
愛菜は広く生え育った麦を掻き分けて畑を進んでいた。
いつまで経っても麦、麦、麦。麦以外何も無い。
もはやこの畑が人の手によって作られた畑なのかも怪しく感じてきた愛菜は落胆し、麦の上に大の字の仰向け状態に倒れ込む。

「ハァ、本当に麦しかない……」

もう歩きたくない。麦なんて見たくもない。
そんなうわ言の様な言葉をを呟きながら、虚しいくらいに綺麗な青空を

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