神谷こうぼ

星空文庫:http://slib.net/a/16045/ 本館:http://25.xmbs.jp/meria/ メイン更新で溜まったものを投稿しています。

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マガジン

  • meria 二章

    角の生えた人間の暮らす異世界に飛ばされた少女は…

  • meria 序章

    角の生えた人間の暮らす異世界に飛ばされた少女は…

  • meria 一章

    角の生えた人間の暮らす異世界に飛ばされた少女は…

最近の記事

meria 二章 - 8

愛菜の目覚めは良いものではなかった。 うっすら開いた目に映った翡翠のような色を見てエクセルの名前を呼んだ。その後は乾いた音がしてからジワジワと顔の左側が痛くなり、ようやく意識がはっきりした。 目の前にいたのはエクセルではない知らない青年ともう一人、男が立っていた。女の子の顔になんて事をしているんだと悲鳴のような声を上げる男とは対照的に、目の前の青年の表情は冷たい。切れ長の鋭い目が印象的な美しい顔立ちの青年を目の前にして愛菜は彼をじっと見つめたまま惚けてしまう。 「俺をあの蛇

    • meria 二章 - 7

      夢を見ていた。 「あれ……ココどこ」 気がついた愛菜は麦畑の真ん中にいた。真上には雲一つ無い青空。静かに風が背後から走り抜けて足元の麦たちを揺らして立ち去って行く。 前にもどこかで似たような景色を見た気がするのだが、どうしても思い出せ無い。 しばらく景色を眺めて気付いたのは遠くに大きな樹が立っていて、そこはなんだか行ってはいけないような気がして自分が来た道を戻るよう振り返ろうとした。 すると急に左手を掴まれ驚きのあまり飛び上がる。 「エクセルさん!?」 振り返った瞬間

      • meria 二章 - 6

        昨晩のアードルフの騒動に今朝の料理大量注文等など、宿には本当に騒がしくしてしまって申し訳ない。何度も何度も頭を下げるエクセルの背中をぼぅっとした顔で見ていた愛菜に横から気になるのかと声を掛けられる。 振り向くとソファの隣に座っていたエステルがにこにこした顔で何度も「気になる?気になる?」となんだか嬉しそうに聞いてくる。興奮した様子のエステルに引き気味で肯定とも否定とも取れない声を返した。 「エステルひょっとしてそうゆー話すきなの?」 「大好き!恋物語とかでは貴族と普通の女の

        • meria 二章 - 5

          「そこの男、止まれ」 真っ赤な衛兵服に目隠しをした男が、闇市という地域へ向かう裏路地に入ろうとする者を制止した。 止められた者が何も言わず立ち止まり、男の方へ向き直る。真っ白い布地に金色の装飾が描かれたローブを目深く被っていて顔はおろか性別すらも分からない出で立ちだ。しかし、衛兵の男は迷わずそのローブ姿の者を「男」と呼んだ。 呼び止められても一切喋ろうとはせず、ローブの男は両手を顔の前に組み、祈るような仕草を見せる。彼の着ている金色のローブは「教会」と呼ばれる組織の物。いわ

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        • meria 二章
          8本
        • meria 一章
          6本
        • meria 序章
          1本

        記事

          meria 二章 - 4

          目を覚ますと悪魔のような角を生やした男が隣で寝ていた。 驚きのあまり身体が上に向かってびくんと跳ね上がり、勢いを付けて頭上にあるベッドの飾り板に激突する。 「いったい」 頭を抑えて悶える愛菜の声に男はびくともせず、唸りながら寝返りを打ちうつ伏せになって寝息を立てている。愛菜は男の様子を恐る恐る覗き込みながら、これまた恐る恐る肩を叩いて男を起こそうとした。 一瞬、名前を忘れそうになる。昨日であったばかりでは無理もない。 「エクセルさん、朝ですよー……」 呼んでみても、揺

          meria 二章 - 4

          meria 二章 - 3

          夢を見ていた。 愛菜は乗り遅れそうだったバスに無事に乗り込み、毎日通う通学路の坂道をぎゅうぎゅうの車内から眺めていた。いつも通り坂の上にある学校に付くと飛ぶようにバスを降りて教室へ向かう。 黙々と授業を受け、昼前の移動教室。授業の行う教室へ向かい、隣の教室の友人たちと移動を開始するが友人達とはなんだか距離を感じる。 前を歩いていた友人の二人が愛菜の顔をちらり見るも、何も言わず歩き続ける。隣の友人も何も言わない。 愛菜は何か違和感を感じつつも教室へ向かった。教室に着いても、二人

          meria 二章 - 3

          meria 二章 - 2

          「エステル……」 寝台の上で寝息を立てる少女を側で見守っていた愛菜は次第に良くなっていく彼女の顔色を見てホッとした声でよかったと声を漏らす。 先ほど検問所で飲ませた薬が効いているのだろうと様子を見に来たエクセルが言う。隣で手持ちの薬草や薬品を乳鉢ですり潰している光景を暫く見つめた後、次第に出来上がっていく奇妙な色をした液体を指して不味そうと感想を述べた。 素直すぎる感想に困るどころか何やら楽しそうに笑うエクセルは出来上がった薬を今日この部屋に泊まるクラエスに強引に渡し、夜中

          meria 二章 - 2

          meria 二章 - 1

          自分を呼ぶ声で不思議な夢から目を覚ました愛菜。 いつの間にか眠っていたことに気が付き、重たい両目をこする。 無理やり起こした事を詫びるエクセルの声で呼ばれていたのは夢ではなくて現実だったのかと納得する。 「君に真面目な話があるのだが、良いかね」 「真面目な話?」 目下どうにかしなければいけない問題。今後、身元を証明できない愛菜をどうやって次の市街地へ連れていくか。 もうすぐ一晩泊まる予定の港街へ到着する頃になり、エクセルは決断をしなければいけない状況となった。 「花嫁候

          meria 一章 - 6

          「ぐああぁぁぁぁ!!!」 悲鳴と床に叩きつけられる衝撃で愛菜の意識が戻った。 だが急に立ち上がったような立ちくらみと頭を揺らすような頭痛に襲われ、目の前で苦しそうに呻くエクセルと一緒になって床へうずくまる。 「なんだ!?何があった」 「術が……跳ね返された」 エクセルがようやく出した声はやや落ち着きを取り戻していたが、まだ全身の震えが止まっていない。そして何故か顔を両手で覆ったままこちらに顔を向けようとしない様子に不信感を持ったセットが顔がどうかしたのかと問いかける。

          meria 一章 - 5

          ちょっとだけ……本当にちょっとだけ……。 そう自身に言い聞かせるエクセルの目に映るのは怯える少女の顔ではなく、見たことのない景色だった。 登っていく階段や建物に入る扉を見ていた視線が「愛菜」と呼ぶ声がしてぐるりと変わる。その愛菜と同じ服を着た見知らぬ少女の姿が現れ会話が始まる。 そう。この光景は全て愛菜の記憶であり、今見ているエクセルのものでは無い。 「辛いのはわかるけどさぁ……正直うっとおしいんだよね」 言っていいのだろうかと少女は顔を曇らせた後、愛菜に向かって随分と冷

          meria 一章 - 4

          「へっくしゅん」 妙な悪寒がし、くしゃみが止まらなくなった。 外に出る支度をしながらくしゃみを連発するものだからエステルとカミルが心配そうに愛菜に外に出るのはよした方がいいのではと声をかける。 「でも、今日はなんだか忙しそうですし、邪魔をしては悪いですから」 「私達親子が忙しくなる内容ではないが、本当に良いのかい」 「ちょっと村の見学もしてみたいですし」 「落ち着いたら後で、私の幼なじみを紹介するね」 「うん。お仕事頑張ってね」 愛菜は起きてすぐに家の中がバタバタしてい

          meria 一章 - 4

          meria 一章 - 3

          目が覚める少し前に、ひどく懐かしい顔を見たような気がしたが気のせいだった。 馬車で運んだ少女の顔が妙に忘れられなくて、夢にまで出ていた。久しぶりの情欲にまかせ微睡んでいたが、部屋の扉をやかましく叩く音で現実に戻される。 「てぇめぇ何回起こしたら起きるんだ!!いいかげんにしろよ!!」 「あのねぇ……上司をてめぇ呼ばわりしないでくれないかね」 ようやく起きたにも関わらず食事の目の前で今にも意識が飛びそうなエクセルに対し付き添いのセットが唾を吐き散らしながら怒りをぶつけている。

          meria 一章 - 3

          meria 一章 - 2

          自宅に帰った直後、エステルの父カミルは玄関先で壁を殴りつけ怒りで震えていた。 「化物分際でぬけぬけと……!!」 幾度と無く壁を殴りつけた後、ようやく落ち着いたのか腕を下ろす。ふらふらと家の中を歩きまわると手からは滲んだ血が床に落ちて彼の後ろをついてまわった。 何を探しているのかと思えば彼はまだ帰っていない娘の名前を呼んでいる。必死の形相で二階へ上がり、血の滲んだ手で彼女の部屋の戸を叩いた。 返事はない。 「エステル、まだ帰っていないのか」 部屋にはいるともちろん彼女の

          meria 一章 - 2

          meria 一章 - 1

          歩き出してどのくらいの時が経っただろうか。 愛菜は広く生え育った麦を掻き分けて畑を進んでいた。 いつまで経っても麦、麦、麦。麦以外何も無い。 もはやこの畑が人の手によって作られた畑なのかも怪しく感じてきた愛菜は落胆し、麦の上に大の字の仰向け状態に倒れ込む。 「ハァ、本当に麦しかない……」 もう歩きたくない。麦なんて見たくもない。 そんなうわ言の様な言葉をを呟きながら、虚しいくらいに綺麗な青空を見つめた。 こんな綺麗な青空、今まで見たことないや……。 そう、ぽつりと思う

          meria 一章 - 1

          meria 序章

          いつもと変わらない日。 いつも通り学校へ行って、いつも通り授業を受けて、気付いたら放課後。 何も無い。けれど平和。 それがどこか物足りなくてつまらない。 いつもと同じ学校生活。 のはず、だった…。 放課後、少女は必死に校内を走り回った。 急に目の前が真っ白になり、身体を引っ張られ、何処かへ落とされたかの様な感覚と一緒に意識を失う。 だがその感覚も今はとても曖昧で、自分の身に何が起こったのか思い出す事はできなかった。 少女は考えることを諦め、顔を上げる。 雲