カボス・スダチなどの香酸柑橘類は減塩に役立つのか~ 柑橘類が豊富に出回る頃 ~
知人が、大分県の実家から届いたという「カボス」を分けてくれた(トップ画像)。店先ではあまり見かけない、枝先完熟の黄色いカボスだ。
今年もカボス・スダチ・ユズなどの香酸柑橘類が、爽やかな香りと共に立冬の到来を感じさせてくれる。
香酸柑橘類は、酸味調味料として塩分制限に役立つといわれているが、実際はどうなのだろうか。
かつて学んだことと実体験から書いていく。
〇香酸柑橘類と減塩の錯覚
酸味を使うと味が際立ち、少ない塩分でも美味しく感じる。そのため酸味は減塩に役立つと思われている。
間違いはないが「少ない塩分量」と「塩に酸を混ぜて薄味に感じる」のとでは少し訳が違う。
私たちが感じる味の基本は、甘味・塩味・酸味・苦味・旨味の五種類が基本で、互いに絡み合って美味しさを引き出している。
そして、おおよそ三つの相互作用があるので整理する。
【対比する作用】
二種類以上の違う味を混ぜた時に、どちらか一つか両方の味を強めに感じることがある。
どちらか強い方の味に弱い方の味が引っ張られる。
例えば、甘い煮豆に塩をごく少量加えて甘みを引き立たせる。
みそ汁や清まし汁の塩味に出汁のうま味を加えて、塩味をよくする。
【相乗する作用】
同じ二種類以上の味を混ぜた時に、より味が強まっておいしくなる場合がある。
例えば、かつお節と昆布を組み合わせて出汁をとると、旨味が相乗する。どちらかだけでは物足りない。
【抑制する作用】
二種類以上の異なった味を混ぜた場合、ひとつ又は両方の味が弱くなるばあいがある。特に両方の味の強さに差がない場合に、そのように感じる。
例えば
<酸味+甘みの場合>
レモンや夏みかんに少量の砂糖をかけると、酸っぱさが弱くなり食べやすくなる。
<酸味+塩味+苦味の場合>
魚の塩焼き(秋刀魚をイメージしてみてほしい)に柑橘果汁をかけると、その酸っぱさが塩辛さや魚のハラワタの苦みを和らげてくれる。
ただし、大根おろしの辛みに柑橘類の酸が加わると、大根おろしの辛みが弱くなるどころか強く感じてしまう場合もある。
焼魚にはカボスやスダチのみとし、甘い大根おろしならよいが、辛みの強い大根おろしは遠慮するようにしている。
香酸柑橘類は、塩気の無い料理にかける場合は、塩なしでもさっぱり食べられ減塩になる。
しかし、すでに塩やしょうゆなどでしっかり塩味がついている料理では、酸が塩味をあまり感じさせなくなって、余分にしょうゆを加えたりして、結果減塩にならない場合が圧倒的に多い。
ここは是非とも注意したいところだ。
〇柑橘類には3つのグループ
そもそも、柑橘類は大きく分けて三種類のグループがある
① ミカン類という柑橘類
果実の皮が柔らかいので手で剝きやすい。甘みや水分がたっぷりあり種がほとんどないので食べやすい。
ついつい食べ過ぎてしまうので気をつけたい。
② ブンタンなどの大きい柑橘類
果実が比較的大きいグループ。夏みかん、甘夏、ハッサク、グレープフルーツなどがある。
家族で分けて食べるほど果実が大きいブンタン(ザボンともいう)やバンペイユなど、重さが最大級(1個2㎏くらいのものもある)のものがある。
③ 香酸柑橘などの小さい柑橘類
ユズやカボスなど酸味が強く果皮の香りがよいもの。そのままでは酸っぱくて果物代わりにならないため、酸味調味料用柑橘類として使うことが多い。
店頭に目を向けると、黄色いミカンと共に緑色のカボスやスダチが置かれている。
年を越せば、甘夏、ハッサク、イヨカンなどと順に出回り、色々な柑橘類が季節の進みを教えてくれる。
この時季、私が一番気になっている③の香りと酸味を楽しむ「香酸柑橘類」について整理していく。
〇香酸柑橘類(カボスやスダチ、ユズなど:食材分類のためカタカナで記載)は酸味調味料
柑橘類の中でも酸の含有量が多く、そのままでは酸っぱくて食べにくい小さめの柑橘類が香酸柑橘類だ。
酸味と爽やかな香りが、いろいろな料理の酸味調味料や薬味として活用できる。
酢ミカンともいい、カボスやスダチ、ユズなどは利用幅が大きい。
日本では香酸柑橘類は40種類以上もあり、ユズ・スダチ・カボスの三種類が約8割を占めているそうだ。
果実を半分に切ったり輪切りにして、魚や肉のフライなどの揚げ物料理に添え、食べる時に絞ってかけるという使い道が一般的。
脂っこさや生臭さを抑えてておいしくいただける。
また、鍋物料理に果汁を絞って加えポン酢としても使える。
市販のポン酢によく使われているのはユズ果汁やスダチ果汁だが、市販品にはかつお節だし、昆布エキス、砂糖などが含まれていて自分好みの調整がし難い。
フレッシュな香酸柑橘類を絞って、しょう油などの他の調味料は自分好みで決める方がよい場合もあると思っている。
香酸柑橘類の果皮は香りが強いので、すりおろして薬味にし、茹でた野菜の和え物や焼き肉、麵つゆに振りかけるなどがおすすめだ。
マーマレードや菓子の香り付けにも適している。
(1)カボス
いただいた大分県特産のカボスは、ユズ近縁の調味用柑橘類として地元では庭先から取って贅沢に使っていると聞いた。
枝先で完熟した黄色のカボスは、一見ユズと見分けがつきにくい。
東京では、緑色の若いカボスが主として売られているので完熟カボスはとても珍しい。
かぶりついても甘く、そのまま果汁を口にすることができるのは感動だ。
調べると、カボスの名称はダイダイの古い名「カブス」が転じたものといわれている。
果実は丸く1個100~150gと小ぶり。
色々な柑橘類の香りが重複したような独特の香りで、あらゆる料理の酸味調味料に合うと私は思っている。
(2)スダチ
スダチ(酢橘)は文字の通り柑橘の意味があり、古くから果汁を食酢として利用したことから云われがある。
ユズに近い類の調味用柑橘で徳島県が特産。1個30~40gで熟して橙色になるが、皮部分は若い緑色の未熟のほうが香り高い。
刺身、焼き魚、湯豆腐、きのこ料理(特に松竹料理に合う)に果汁を絞ってかける。
すりおろし果皮は、薬味に使うというのが人気のようだ。
(3)ユズ
国内の代表的な酸味調味用柑橘類。
古くからあり1個130gくらい。
果皮面はいわゆるユズ肌といって凹凸(おうとつ)がある。
果汁は、酢の物、鍋もの、土瓶蒸しなど様々な料理に使えるが、果皮は薬味やマーマレード、ユズみそ、菓子の香り付けなどに利用できる。
庭先で手間をかけずによく実がつき、食酢用ユズには写真のような花ユズ(花柚)があって、柔らかく小さいので家庭では使いやすい。
ユズについては過去冬至の頃に投稿しているので、よろしかったらご覧ください。
(4) レモン
香酸柑橘類には一般にレモンがあるが、かつてはほとんどがアメリカからの輸入品だ。最近では少々青めの黄色で酸味が強いが、国産も見られるようになった。
国内では瀬戸内海の島を中心に栽培されている。瀬戸内レモンといわれ香高く爽やかなので、日本人向けであまりにも有名。
料理に絞りかけて楽しむ他、清涼飲料やアルコール飲料の炭酸割、洋菓子の香り付け等にぴったり。
紅茶とレモンは一緒になると爽やかな心地よい香りに変化し、レモンの薄切りは紅茶に欠かせない柑橘なっている。
紅茶茶椀の口径に合わせたサイズのレモンも生産されていると聞き驚いた。
個人的には、レモンは何にでも合うがほぼ同じ香り。
焼き魚か鍋か、揚げ物かで数ある香酸柑橘類を使い分けて、食を楽しみたいと思っている。
(5)キンカンは香酸柑橘類ではない
キンカンは同じミカン科ではあるが、キンカン属として香酸柑橘類には分類されていない。
果皮が甘くやわらかい、香に富み酸味が比較的少ないため、丸ごと食べられる果実として別物なのだ。
キンカンの中で、もっとも品質が良いのはニンポウキンカンという種類で、宮崎や鹿児県が産地。
生で食べる他に砂糖漬けなどの加工として使われることが多いが、最近の品質は甘みが強いのでそのままいただくのが私は好みだ。
〇香酸柑橘類の成分の特徴
果汁には5~7%の有機酸がありクエン酸(食品としては酸っぱいと感じる酸味成分)が最も多い。
クエン酸は腐敗菌の増殖を抑える働きとともに、疲労回復にも有効性があるとわかっている。
栄養素では、糖質、ビタミン、ミネラルがあるが、他に酸味や甘み、苦みなどの味に関係する成分や体調を調節する香成分を含んでいる。
抗酸化成分は食品の酸化を防ぐ機能と、老化を抑える機能が以前から注目されている。
これらは主に果皮に含まれているので、調理や加工に工夫して積極的に活用したいものだ。
〇病気治療中には柑橘類が難しい場合があって
病気治療中の食事には、柑橘類は香りが食欲を誘うため人気がある。料理としては酢の物や和え物として回数多く提供することがある。
そうは言っても、中には柑橘類が食欲を妨げてしまう病気もあり、酸味調味料を使った料理の提供が難しいケースがある。
とりわけ、がん治療中の抗がん剤治療では、薬物療法の副作用で口内炎を伴い、激しい痛みで食事が十分に食べられない場合があるのだ。
酢や柑橘類は厳しい状況だ。
そのような場合は、酢の物や柑橘類は提供禁止とし、酸味のない和え物などに変更して個別の対応を行う。
あらゆる病気治療は、病状や薬物療法との兼ね合いがあって、匂いや酸味、強い香は受け付けない人がいることを知っておかなくてはならない。
〇縁起物に使われるダイダイ(代々、橙)のこと
ダイダイは、1個200gくらいと比較的大きい柑橘類である。
和歌山県や静岡県での生産量が多い。
かつて年配者から聞いたことがあるが、ダイダイの名は熟しても落ちにくく新旧の果実が樹木につき続くことから「代々続きますように」と縁起物として正月飾り物に使われるそうだ。
食酢や鍋物料理に合っているが、ペクチン(柑橘類に多く含まれている食物繊維)含量が多いので、マーマレードのような加工にも適している。
来月12月になると正月飾りに添えられ、新年を迎るために販売が始まる。
平和なよい年がダイダイ(代々)続きますように、よろしくお願いします。などと、願いを込めて・・・。
今回も、最後までありがとうございました。
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