見えない絆: 子どものアタッチメントを理解する
小さなこどもの未知への対抗力――「アタッチメントの力」
幼い年齢の子どもたちは、知らないことでいっぱいの世界を見つめています。
誰もいない場所、暗闇、転んで出血、知らない人の出現……。こういった事象によって、瞬く間に不安を抱き、恐怖を感じるものです。
そのような否定的な感情が浮上した際、特定の誰かに寄り添い、行動を共有し、安定感を見つける――これが「アタッチメント」の本質です。
多くの生物の子供たちは、寄り添う行為を目的とするシステムを備えています。
何か、または誰かに寄り添うことにより、未熟な子どもたちも危機的な状況を乗り越えやすくなるのです。
人間も例外ではありません。
恐れや不安から誰かに寄り添おうとする傾向は、全ての人間に見られるものです。
特に幼児は、親や保護者に寄り添う欲求を抱き、「怖かったね」、「大丈夫だよ」という言葉によって安心感を得るのです。
何度も寄り添って感情を整える経験を重ねることで、物理的に寄り添わなくても、自身の感情を安定させる力を養います。
この安定したアタッチメントが、子どもの健全な成長を促します。
アタッチメントの安定化は乳幼児期で決まる
乳幼児期は、「不安だから寄り添いたい」という欲求が非常に強く、頻繁に現れます。
そのため、その後のアタッチメントが安定的になるか否かが決まる重要なフェーズです。
生後3年間は、成長に伴い感情の種類が増加し、否定的な感情も増えるからです。
アタッチメントは、このような感情の乱れを整える大切な役割を果たします。
では、子どもの感情の成長を詳しく見てみましょう。
【新生児期】—快・不快・興味
新生児は既に「快」や「不快」を感じ分けることができ、また、多種多様な刺激に対する「興味」を持っています。
【生後半年くらいまで】—喜び・悲しみ・嫌悪・怒り・恐れ・驚き
生後2~3ヵ月頃から、「快」が「喜び」へ、「不快」が「悲しみ」や「嫌悪」へと発展します。
その後、「怒り」「恐れ」「驚き」の感情も形成されるようになります。明確な対象のない、あいまいな恐怖が「不安」です。
【1歳半ごろ】—自己意識に伴う感情
「私はこうあるべきだ」という自己認識が芽生える時期です。
他者を意識し始め、「恥じらい」や「共感」、「羨ましい」などの感情が生まれます(自己意識的感情)。
【2歳半ごろ】—自己評価的な感情
様々なルールや基準に興味を持つ時期。
自身がそれに適応して行動ができるかどうかで、「恥ずかしい」「誇り高い」感情や「罪悪感」などを感じるようになります(自己評価的感情)。
【「かかわり」を深める】 - 秘訣を探求
今まで、アタッチメントが「子どもの感情の不均衡を整えるのに重要な存在である」と説明してきました。
では、どのようにして乳幼児期の子どもを支えるアタッチメントは形成されるのでしょうか?
新生児は、「不快」な状況になると大きな声で泣き始めます。
この時、周囲の大人が適切なタイミングで傍に来て、飢えを満たす、またはおむつを変えるなどの対応をすると、「快」を得ます。
初期段階では、泣いた際に対応してくれる人の身元は問わず、不快な状態を解消してくれれば赤ちゃんは満足します。
この状態を「共感性」と呼び、互いに反応し合い、感情的に接続しようとします。
泣いている赤ちゃんのケアを継続的に行う者は育成者であり、大抵は親がその役割を果たします。
育成者が関わり続けること、つまり育成者との十分な「共感性」の経験を通じて、赤ちゃんは「泣いたときに助けてくれる『その人』」を認識するようになります。
そして、不快感を含むネガティブな感情で心の状態が壊れると、その人に依存したくなります。
赤ちゃんと育成者の間で、このような関係が築かれることを「アタッチメントの形成」と称します。
泣いている赤ちゃんを抱き上げて慰める――このような一見当たり前の関わりを継続することで、育成者はその子にとっての特別な存在、依存したい特定の誰かになり、アタッチメントは形成されます。
【成長の道 - 「安全な空間」を巡る】
アタッチメント自体は、「不安を解消するために依存する」という単純な行為ですが、十分に依存し、安心したら子どもは離れて遊び始めます。
遊びは子どもの成長に欠かせない行動です。
遊びを通じて、新たな発見を経験します。
依存してから探索に出て、また依存に戻るという経験は、子どもの「心の力」を育みます。
「安全な空間」を何度も巡るうちに、子どもの中に「何か問題があれば戻ればいい」という確信が芽生えます。
このような確信が得られれば、「だから、もっと遠くまで行ってみよう」と、挑戦する意欲も生まれます。
ひとりで過ごす時間は徐々に長くなり、子どもの活動範囲は広がっていきます。
心身の発達とは、「安全な空間」が広がっていくことと同じです。
【安定したアタッチメントが「心の力」を育てる】
アタッチメントが安定化すると、「心の力」が自然に育っていきます。
「心の力」とは「社会でより良く生きるための力」を指し、最近では幼児教育の分野で「非認知能力」として注目を浴びています。
たとえば、自己に関する力が育つと、「自分なんか」「どうせ無理」などとあきらめず、さまざまなことに挑戦することが可能になります。
社会性に関する力としては「自分はこれをやりたいけど、他の子が嫌だと思うかもしれない」と、他者を思いやる感情が生まれると、人と上手に関わっていくことが容易になります。
【自己に関する力】
自分を尊重しながら自己をコントロールし、自己を向上させる力 ●自尊心・自己肯定感 ●自己効力感・自信 ●自立心・自律性 ●自制心・自己防御・持続力 ●好奇心・意欲 など
【社会性に関する力】
人と協力しながら生活していくために必要な力 ●感情理解力 ●協調性・協力性 ●共感力・思いやり ●社交性・コミュニケーション力 ●良し悪しを判断する道徳性 など
アタッチメントが安定してくると、以下のような感情も生まれてきます。
【「人々は信頼できる存在」であるという信念】
人に援助を頼んだとき、それに対する返答が得られるという経験から、「人々は信頼できる存在である」という確信が育ちます。
人を信頼する力は、社会的スキルを培う基礎となります。
人を信頼できないと、他人と協力したり、規範を守る意識も芽生えません。
【「私は愛される価値がある」という自覚】
「自分はどんな状態であっても、大切にされる」「自分には愛される価値がある」という自覚が育ちます。
自分は価値ある存在であるという確信が、自己肯定感を培う基盤となります。
このように、幼少期に感じた安定したアタッチメントが、心の力を養い、将来の幸せへと繋がる土台となります。
それ故に、安定したアタッチメントを形成できるような関わり方が大切なのです。
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