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【第14日】母に映る私、私に映る母

母と私の鏡

夕暮れの柔らかな光がリビングを包み、母はお気に入りの椅子に腰掛けていた。私はキッチンからお茶を淹れて、彼女の隣に座った。

「お母さん、最近どう?」と尋ねると、母は自信満々に微笑んだ。

「とても元気よ。私が認知症になるなんて、ありえないわ」と彼女は言う。その言葉に、胸の奥がざわついた。医師から中度の認知症と診断されているのに、母は頑なにそれを否定する。その確信はどこから来るのだろう。

数日後、母は「歯医者には絶対に行かない」と言い張った。理由を尋ねても、「必要ないから」と譲らない。しかし、翌週になると、「歯医者に行くのが楽しみだわ」と目を輝かせて言う。彼女の言動の変化に、私は戸惑いを隠せなかった。

夜、自室で静かに考えた。母の生きる世界と現実の間に、微妙なズレが生じているように感じる。でも、ふと気づいた。私自身も双極性障害を抱えており、自分の感じる世界と現実とのギャップに苦しむことがある。自信過剰になったり、頑固になったりするところも、母と似ている。

「母は私の鏡なのかもしれない」と思った瞬間、胸に温かいものが広がった。母に対して感じていた違和感は、実は自分自身への問いかけだったのだ。

「母を変えようとするのではなく、自分が変わるべきなんだ」と悟った。

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1,949字

私は双極性障害を抱え、母は認知症を患っている。病が進むにつれ、私たちは現実を見失い、自分が誰であるかもわからなくなる。そんな私たちは、まる…

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