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美大生の家庭は裕福か?

背景

 美大は裕福な人間のいくところ、という偏見がある。大学に通えるほど経済的な余裕があることは確かだが、この一般化は実態を正確に捉えているとは思えない。感情論も多く、数字で事実を示すデータがないので、比較してみた。

 「美大生は裕福な家庭の出身」というステレオタイプがある。「美大に通うのは金持ちばかり」とか「美大は金持ちのための場所」といった意見もよく聞く。

 しかし、自分が美大に通っていたとき、周りの学生たちが直面する経済的な困難を間近で見てきた。自分自身も奨学金に頼って生活していたし、同じように奨学金を利用している友人も多かった。実際、大半の学生は学費だけでなく、画材費や生活費などの多くを自分で負担することが求められていた。

 高校時代の友人や他大学の学生と話していても、美大生だけが特別に裕福だという印象はなかった。確かに裕福な学生が目立つことはあったが、それはどこの大学でも同じことであり、美大生全体の特徴とは言えない。

 美大受験のための予備校の費用、制作にかかる資金、学費の高いのは事実だ。また、美大卒業後のキャリアの不透明さも、「美大に行けるのはお金に余裕のある人だけ」という考えにつながるのかもしれない。こうした要因が、美大生は金持ちだというイメージを作り上げているのだろう。

 この話題は主観的な意見が多いので、可能な限り数字を使って比較を試みた。美大生の家庭の所得分布、一般大学生の家庭の所得分布、世帯主が40〜50代の家庭の所得分布を比較してみることにした。巷で言われるように、美大に行く家庭が裕福なら、有意な差が出るはずである。


美大生の子を持つ世帯の年収分布

 美大生の子を持つ世帯の年収分布のうち、一般的に「裕福」とみなされる1000万円以上の家庭は全体の18.5%である。

 美術大学生の子を持つ世帯を対象とした、年収に関する詳細なデータは多くないが、以下の統計が存在する。
美大生へ質問票を送付し、両親の世帯収入について回答をもらったものだ。

  • 世帯年収600万円未満:145名

  • 世帯年収600万~1000万円:164名

  • 世帯年収1000万円以上:70名

  • 無回答:125名

(喜始照宜, 2015)

 無回答者についても同様の年収分布であると仮定して再計算した結果、以下の割合が導出された。

  • 600万円未満:38.3%

  • 600万~1000万円:43.2%

  • 1000万円以上:18.5%

 このデータから、美大生の子を持つ世帯の年収分布は、一般的に「裕福」とみなされる1000万円以上の家庭は全体の18.5%であり、残りの大部分はこれ以下であることが分かる。


大学生の子を持つ世帯の年収分布との比較

 美大生の親と一般大生の親の年収分布を比較したところ、一般大生の親の方が裕福である。

 大学生(昼間部)の子を持つ世帯の年収分布は、以下の通りである(平成26年度学生生活調査報告より筆者計算)。

  • 600万円未満:36.7%

  • 600万~1000万円:38.9%

  • 1000万円以上:24.4%

 このデータを美大生の子を持つ世帯の年収分布と比較すると、1000万円以上の層では大学生の子を持つ世帯の方が多いという結果が得られた。また、600万以下の層は、美大生の子を持つ世帯の方が多い。

年収分布

一般世帯との比較

 美大生や大学生の子を持つ世帯は、一般的な世帯と比較すると明らかに高収入である。

 40~50代の世帯年収分布を一般世帯全体のデータから抽出した場合、以下の割合が得られる(国民生活基礎調査, 平成26年度)。

  • 600万円未満:83.8%

  • 600万~1000万円:14.98%

  • 1000万円以上:1.2%

 このデータから、美大生や大学生の子を持つ世帯が、一般的な世帯と比較して高収入である傾向は明らかである。

年収分布

結論

 美術大学生の家庭は、他の大学生の家庭と比較して特段裕福ではない。1000万をこえる収入がある世帯の割合は普通の大学生の子を持つ家庭の方が高く、一般的な大学生の世帯の方が裕福と言える。
 また、大学生の子を持つ世帯は、それが美大かどうかに関わらず、一般世帯と比較すると高収入である。


参考文献


美大は、将来なんてわからんのにチャレンジする酔狂と、それを応援する親御さんがいるだけです。で、全額親が出すケースも少ないと思います。
あと、ぶっちゃけ、将来のこと考えてなさそうに見える美大生はたくさんいます。それは、将来のことを考えなくていい状況というわけではなくて…単に将来のことを考えていないだけですね。その時がくればやればなんとかなるだろう、みたいな。


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