美大は裕福じゃないと行けないのか
背景
美術大学生だった頃、「美大生の家庭は裕福だ」「美大は金持ちの行くところだ」という趣旨の発言を耳にする機会が多々あった。確かに、大学進学を支援してもらえる環境自体が恵まれていることは否定できない。しかしながら、実際には、私自身も奨学金を利用しており、学友たちも積極的に奨学金を活用している。また、制作費をはじめとする学業関連費用の多くは学生の自己負担である。学友たちの状況を観察しても、むしろ苦学生の方が多く、「裕福な家庭」のみが美大に在籍しているとは言い難い。
高校の友人の家庭状況やよその大学の人と交流をしていても、特に差は感じない。そりゃ、お嬢やお坊ちゃんはいるが、どの大学にだっている。
確かに、美術予備校や制作活動には一定の費用が必要だ。卒業後進路の不安定な印象も、「美大生=裕福」というイメージを助長している可能性がある。しかし、他の大学生と比較して美大生の家庭が特段裕福であるかと言われると、そうではないと思う。
感覚的な議論では結論が出ないため、具体的なデータを基に検証を試みた。
美大生の子を持つ世帯の年収分布
美術大学生の子を持つ世帯を対象とした、年収に関する詳細なデータは多くないが、以下の統計が存在する。
美大生へ質問票を送付し、両親の世帯収入について回答をもらったものだ。
世帯年収600万円未満:145名
世帯年収600万~1000万円:164名
世帯年収1000万円以上:70名
無回答:125名
(喜始照宜, 2015)
無回答者についても同様の年収分布であると仮定して再計算した結果、以下の割合が導出された。
600万円未満:38.3%
600万~1000万円:43.2%
1000万円以上:18.5%
このデータから、美大生の子を持つ世帯の年収分布は、一般的に「裕福」とみなされる1000万円以上の家庭は全体の18.5%であり、残りの大部分はこれ以下であることが分かる。
大学生の子を持つ世帯の年収分布との比較
大学生(昼間部)の子を持つ世帯の年収分布は、以下の通りである(平成26年度学生生活調査報告より筆者計算)。
600万円未満:36.7%
600万~1000万円:38.9%
1000万円以上:24.4%
このデータを美大生の子を持つ世帯の年収分布と比較すると、1000万円以上の層では大学生の子を持つ世帯の方が多いという結果が得られた。また、600万以下の層は、美大生の子を持つ世帯の方が多い。
一般世帯との比較
さらに、40~50代の世帯年収分布を一般世帯全体のデータから抽出した場合、以下の割合が得られる(国民生活基礎調査, 平成26年度)。
600万円未満:83.8%
600万~1000万円:14.98%
1000万円以上:1.2%
このデータから、美大生や大学生の子を持つ世帯が、一般的な世帯と比較して高収入である傾向は明らかである。
結論
美術大学生の家庭は、他の大学生の家庭と比較して特段裕福ではない。むしろ、1000万をこえる収入がある世帯の割合は普通の大学生の子を持つ家庭の方が高く、一般的な大学生の世帯の方が裕福と言える。
また、大学生の子を持つ世帯は、それが美大かどうかに関わらず、一般世帯と比較すると高収入である。
参考文献
喜始照宜 (2015). 「美術系大学生の予備校・画塾経験」
https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/30953/files/edu_55_07.pdfJASSO (2014). 平成26年度学生生活調査報告
https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_chosa/2014.html国民生活基礎調査 (2014). 所得報告書
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=dataset&toukei=00450061&year=20140&stat_infid=000030433998&metadata=1&data=1
つーことで、美大生は金持ちだの、金持ちのいく大学だから諦めろだの、不毛な話はやめてくださいまし。将来なんてわからんのに進学する酔狂と、それを許す素晴らしい親御さんがいるだけです。
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